第70話 祭りの終わりと次の計画

 幸い3日目以降は偉すぎる客も面倒な客も無く、無事に学園祭は過ぎていった。

 天気も4日目の午後遅くに少し雨が降った他は晴れまくった。

 つまり毎日熱気球作業をやった訳だ。

 ここまで日々魔法を使いまくると魔力が上がったような気がする。

 実際魔力を鍛えるには魔法を使いまくるのが一番いいらしい。

 鑑定魔法なんて魔力が多くてもあまり意味無いけれどな。


 さて、最終日の午後1時過ぎ。

 気球を折りたたんで展示品その他もすべてたたんで特製荷車に乗せる。

 例のタイヤが空気入りのタイプだ。

 最後にアンテナ兼巨大看板を身体強化したシンハ君の馬鹿力で引っこ抜く。

 これで後は荷車を研究室へもっていけば片付け終了だ。


「疲れたけれど結構楽しかったね」

 研究室まで移動しながら話をする。

「一番大変だったのはアキナ先輩だな。常に魔法で熱気球を調整していたさ」

「魔法コントロールのいい練習になりましたわ」

 アキナ先輩は余裕という感じだ。

 俺にはそんな余裕はない。

 鑑定魔法はあまりコントロールはいらないので練習にもならないしさ。

「事故が無くてよかったね」

「確かにそれが一番です」

 これはその通りだなと思う。

 突風なんて吹かれたらたまったものじゃなかったし。


「さて、無事学園祭も終わりそうですし、次の目標は何にしましょうか」

「冬合宿の計画だよな」

 ヨーコ先輩がそんな事を言う。


「アキナ先輩はそろそろ進学試験の準備をした方がいいんじゃないですか」

 冬休み明けには高等部への進学試験がある。

 普通の3年生はその対策の勉強で忙しいはずだ。

「準備なんて必要ありませんわ」

 おいおい。

 進学試験は結構難しいと聞いているのだけれど。


「試験なんて間違えなければ問題ないのです。満点でしたら合格するでしょうから」

 おい何だその浮世離れした発想と余裕は。

 アキナ先輩らしいけれど。

「俺なんて次の期末試験すら不安なのに」

 シンハ君はもう少し勉強しよう。


 研究室に到着。

 気球セットを降ろして一服だ。

 もちろんお茶セットは購入済み。

 お茶菓子は毎度おなじみ姉貴の店のチーズケーキホールだ。

 何も学園祭だから何処か別の出店で買えばいいのに。

 俺はそう主張したのだが皆さんこれがいいと言ったのだ。

 曰く、『間違いなく一番美味しいだろう』からだそうだ。

 俺は別のものを開拓してもいいと思うのだけれど。


 そんな訳でお茶しながら休憩。

「ところでミタキ君。この次はどんな物を作りたいと思っていますの?」

 アキナ先輩に尋ねられて、ちょっと考える。

「候補は2つあります。ただどっちも材料が今一つ足りないですね」

「どんなものですか」

「ひとつはこの荷車と同じような空気入りタイヤを使った乗り物。もう一つは魔獣の魔石を使った魔法道具です」


「足りない材料は何かな? 魔石はまあわかるけれど」

 これはシモンさんの質問。

「ゴムという伸び縮みする弾力性のある樹液があればいいんですけれど、基本的にはかなり南の方の植物なんだ。プラムの樹液でも出来ない事は無いとは思うけれどさ、ちょと質的に弱い気がする」

「かなり南って、アジーナよりも南なのか」

 これはヨーコ先輩。

 ちなみにアジーナとはこの国のある半島最南端にある岬の町である。


「気候的には海より向こうだろうと思います」

「イーヨの国じゃないか」

「異教徒の国だし無理だよね」

「戦争になるな」

 皆さんうんうんと頷く。

 イーヨの国はイングソック教による宗教国家。

『自由とは屈従である。兄なる神ビッグ・ブラザーがあなたを見ている』

という教義を国の基礎としているとんでもない国だ。

「もしそのゴムというものがイーヨの国か、それより南にあるのなら入手は不可能ですわ。貿易すらなりたたない国ですから」

 このアキナ先輩の台詞が正解だろう。


「なら魔獣狩りか。でもこの辺にはもう魔獣はいないよな」

 人の多い平原では軍隊等によって徹底的な魔獣討伐が行われた。

 現在魔獣は中央山岳地帯や北部山岳地帯、火山等の人が入り込まない場所にしか生息していない。

 一番近いのはシンハ君領地内のミセン山だが、あそこは火山地帯で危険だしな。


「うまくいけばその辺は何とかなるかもしれない」

 えっ、ヨーコ先輩何と?

「何か魔獣狩人ハンターの知り合いでもいるのですか?」

「いや、そうじゃないけれどさ。まあその辺は交渉してみるから、冬休みの頭2週間は開けておいてくれ」

 おっとこれはひょっとして。

「合宿ですか?」

「出来ればな。でもうまくいくかはまだわからんぞ。これからの交渉次第だしさ。まあその辺はしばらく待ってくれ」

 何だろう。

 まあ期待して待っていればいいか。

 そう思った時だ。


『放送魔法で失礼いたします。学園祭における優秀発表団体の表彰がありますので、次の団体の代表者2名は午後3時までに講堂へ集合願います』

 そんな放送が流れた。

「うちは選ばれるかな」

「自由団体ですしね。研究会参加の方が有利ですし、無いでしょう」

 そんな事を言いながら発表を聞く。


『初等部優秀賞、戦術研究会。奨励賞、剣術研究会、攻撃魔術研究会。

 中等部優秀賞、歴史研究会。奨励賞、地理研究会、文学愛好会……』

「やっぱり駄目だったか」

 ヨーコ先輩の台詞に皆で頷く。

「まあ研究会としての実績が無い自由団体扱いだしね、仕方ないよ」

「同意。今の環境だけでも充分」

「まあそうだよな」

「研究費ももらっていますからね」

 なんてやっている時だ。


『……秀賞、中等部・グループ研究実践……』

 えっ、今の俺の空耳か?

「何か適当にナカさんがつけた名前が流れたような……」

「気のせいじゃない?」

 ミド・リーはそう言うけれど。

「いや、私も聞いた気がする」

 ヨーコ先輩も聞こえたなら空耳じゃない。

「もう一度繰り返すはずですわ。そこで確認しましょう」

 そんな訳で俺たちは放送魔法に注意する。


『繰り返します。学園祭における……』

 中等部、高等部、研究院と発表は続いていく。

『……学園祭最優秀賞、中等部・グループ研究実践。学園祭準優秀……』

 俺たちは目を見合わせる。

「気のせいじゃなければうちだよな」

「間違いないです。私も聞きました」

「どうする。誰が代表で行く?」

「まさか最優秀とはね」

「もっと洗練された名前にしておくべきでした」

 たちまち大混乱。


「皆落ち着こう。午後3時まであと1時間ある。差し当たって決めるべきは誰を代表として出すかという事だ」

 確かにそうだ。

 なお俺は代表者いけにえなんて御免だ。

 なので真っ先に提案させてもらう。

「やっぱり表彰式というからには見栄えがいい方がいいでしょう。ここは学年が上という事も含めて、アキナ先輩とヨーコ先輩にお願いするのが……」

「でも展示品の殆どを考えたのはミタキで、作ったのはシモンさん。だからこの2人がいいと思う」

「僕はそんな柄じゃないよ。ならミタキとアキナ先輩で」

 こらシモンさん俺を生贄にするな!


 このまま代表者が決まるまで約半時間30分間、喧々囂々の押し付け合いは続いた。

 結果的にはヨーコ先輩とシンハ君に決まった。

 どうしてそうなったかの経過は今となってはよくわからない。

 まあ場の勢いとか断れない人が弱いとかそんな理由だ、きっと。

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