第51話 俺達の新拠点
先頭のヨーコ先輩は廊下をひたすらまっすぐ歩いて行く。
ここウージナ王立学校は初等部、中等部、高等部、研究院と揃っている。
これらが同じ敷地内に横並びに並んでいる感じだ。
そして俺達の現在位置は中等部のエリアを過ぎ、高等部のエリアを通り越し、まもなく研究院へとさしかかろうとする辺り。
なおこの廊下は人通りが無い。
職員や生徒・学生が通るメインの廊下は一般教室のある1階を通る廊下。
今通っているのは職員室や特殊教室が並ぶ2階を結んでいる廊下だ。
高等部を通り過ぎた処で感応式ゲートがある。
登録した魔法紋の持ち主以外は通さないという特殊魔法が仕掛けられた扉だ。
見かけは扉というよりただの枠だけれども。
「予定通りなら全員ここを通れる筈だ。まず私から行ってみる」
ヨーコ先輩は用心しながら右手を枠内へと差し出す。
何の抵抗もない感じで手が枠内、向こう側へと伸びた。
「私は大丈夫なようだ」
「次は私が試してみますわ」
そんな感じで全員無事ゲートを通過する。
「場所は研究院の第3研究棟だ」
「工学関連の研究棟ですね。こんな処をお借りしたのでしょうか」
「アキナ先輩は場所を知らないんですか」
「これは国王庁が用意したものですわ。ですので私もまだ知らないのです」
「かなりいい場所を用意して貰った。まもなくだ」
中の廊下を左に曲がってすぐ扉に突き当たる。
ヨーコ先輩は扉の中央に左手をあてた。
カチッと扉の内部で音がする。
「ここも魔法紋ロックになっている。全員が開けられるように手配済みだ」
「ずいぶんと厳重ですね」
「この研究棟はそれなりの機密を扱っているからな。さて」
ヨーコ先輩は扉を開けた。
中はかなり広い。
石鹸工場にしていた部屋の3倍以上だ。
日本で言うとバスケットコートが1面充分に取れる位の広さ。
天井も高い。
更に左側の壁にいくつか扉がある。
何か小部屋でもあるのだろうか
ただ気になるのは部屋の右向こう側を占拠している巨大なへこみと両側の頑丈そうなフレーム。
これってもしかして……
「見たとおり、ここは小型船の造船も出来るタイプの場所だ。元々船の研究をしていた場所だが、研究には手狭になって別施設に引っ越し、以来空いていたらしい」
「つまりここにあの蒸気ボートも置けると」
「どうもそうらしい。あんな秘密の塊を民間業者の係船所に不用意に預けっぱなしにするなという事のようだ。外はオッター川支流のモトヤス運河に繋がっている」
何だその便利さは。
「こっちの扉の中も見ていい?」
「勿論だ」
早速ミド・リーとかシモンさんとかが色々と確認する。
「こっちはキッチンとテーブルのある小部屋だよ。おやつを作ったり食べたりするのにちょうどいいね」
「わっ。シャワーもある。洗面所もあるしトイレも綺麗」
「こちらは仮眠室でしょうか。カプセルベッドが10カ所ほどあります」
何だこの至れり尽くせりな施設は。
いいのかこんなの中等部生徒に貸し出して。
「あと必要資材は頼めば持ってきてくれるそうだ。希少素材以外は無料でな」
ナンダヨソレハ……コレハユメデスカ……アナタハ神カ……
「ノルマとか無いですよね。もっと色々軍のためになる物を開発しろって」
あまりの厚遇に心配になったので聞いてみる。
「それはありませんわ。これは開発のための投資というよりむしろ保秘に対する手当という面の方が大きいですから。ただ新たに開発した物があれば一応軍の方でも確認させて欲しいそうです。ただ単なる民生用のものなら特に権利に関与はしないそうですわ」
「なお契約は全員が王立学校を離れるまでだそうだ」
つまり学校にいる間はこの施設と資材を自由に使える訳か。
なんだかこれ以上無い条件だが問題がひとつある。
「俺の家の石鹸工場はどうする? ここへバラして運ぶか?」
そう、その件だ。
俺は条件をひととおり確認した時点で既にある案を考えている。
でもそれが全員の賛同を得られるかはわからない。
人によっては失う物も結構あるかもしれないからだ。
でもあえて、俺から言い出してみる事にする。
「石鹸の製造は終わりにしよう」
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