第33話 アキナ先輩の口車
午後1時過ぎ。
俺達はアキナ先輩を先頭にウージナの街を東方向へ歩いている。
こっちへ歩くと港方面だ。
オッター川の河口部分に大きな港があり、周辺に倉庫や造船所等が並んでいる。
ただ向かっている方向が微妙に民間の港より海側のような気がする。
こっちにあるのは海軍基地のような……
まさかと思うべきかやっぱりと思うべきか。
いや、こっちにも民間の造船所や中古船置き場が無い訳でも無い。
一応今はそう思っておく。
しかし俺のそんな想いは
思い切り海軍基地の正門でアキナ先輩は立ち止まる。
「ちょっと待っていて下さいね」
そう言って彼女は正門真横の受付窓口でちょっとだけ会話する。
事前に話は通っていたようで、先輩はすぐ何かを受け取るとこっちへ戻って来た。
「それではこれを左腕に付けて下さいね」
青い地に黄色い線が入った腕章だ。
「それでは参ります。ついてきて下さいな」
どうしようもないのでただただ先輩についていく。
「どういう状況なのですか」
歩きながらヨーコ先輩がアキナ先輩に尋ねた。
そう、俺達もそれが知りたい。
「昨日の夜、お父様とお話をしたのですわ。魔法でも風の力でもなく、勿論人力でも馬力でもなく川や運河を自在に動くことが出来る船があると便利ですよねって。
そうしたらお父様が『そんな物ある筈ないじゃないか』と仰ったんです。
ですから私は言ったのですわ。『既にそういった物を理論から考えて、材料さえあれば出来ると言っている方が居ますよ』って」
あ、何か嫌な予感がする。
「それで、『何でしたら材料を用意していただけますか。そうすれば数日のうちに今の言葉を実証出来るモデルを作りあげてみせましょう』と言ってみたのです。そうしたらお父様は『やれるものならやってみろ。実証出来るなら多少の出費など安いものだ』そう仰ったのですわ。
ですのであの図面を見せて、必要な物を用意していただいたのです。ただ物が揃うのに本日の午前中いっぱいかかってしまいました。おかげでいつもの美味しいお昼ご飯が食べられないのではないかと思い、急いでシンハさんの家へ向かったのですわ」
つまり海軍司令官殿を口車にのせて資材提供させた訳か。
大丈夫なのか、これは。
「出来なかったら処罰とか、出来たとしても取り上げられたりとかそういう事はないよね」
シモンさんが心配そうに尋ねる。
「そのようなリスクは何もありませんわ。私達は昨日話し合ったあの船を製作して、実際に動かしてみるだけです。うまく行っても船を取り上げられたり勝手に中を分析されたりすることはありませんわ。あくまで実証すればいいだけですから。
それに失敗するとは私は思っていませんし」
うわあ、胃が痛くなりそうだ。
俺より実際に作るシモンさんの方がプレッシャーを感じているだろうけれど。
大丈夫だよな、理論上はあの発電機とほぼ同じ構造だしさ。
冷却水を河川等から取れる分むしろ難易度は高くない。
強いて言えば船は揺れるから、その対策を少し考えるくらいか。
その辺は昨日色々シモンさんと話しているし問題はない筈。
さて、そんな事を考えながら歩いているとだ。
アキナ先輩は勝手知ったると言う感じで海軍基地内の大きな建物の中に入った。
何の建物だと思いつつ中へ入る。
これは……軍の船をメンテナンスする工場だな。
水を出し入れ出来るドックがあり、その上に船を固定出来るような骨組みがある。
今はドック部分は空で、骨組みのところに小型の船が固定されている。
全長
「軍の河川・運河用標準連絡艇です。ちょっとだけ予定より大きいですけれど、大抵の運河は入れますし問題無いでしょう。これを自由に改造していいそうです。材料も銅、青銅、鉄等ひととおり揃えていただきました。燃料用の上質石炭もありますわ」
おいちょっと待ったそれいいのか。
この船、どう見ても新品だぞ!
しかもこれは軍人が20人程度で漕ぐ高速船だろ!
予定の中古荷物船より大分高価だぞ!
「大きく重い分、ボイラー内積を予定の2倍位大きくする必要があるかな。ただ素材としては不足ない。これは燃えるよね」
あ、シモンさんが燃えている。
何かスイッチが入ってしまった感じだ。
「よし、この船にあわせて設計し直そう。ミタキ、意見頼むね」
そう言ってシモンさんはいきなり足場を登り始めた。
どうやら船を確認して頭の中の図面を修正するらしい。
しかたない、こうなったら付き合うか。
そんな訳で俺も製作モードに頭を切り替える。
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