第28話 きっとあれは夢だった

「ミタキ、大丈夫?」

 ん、何だ……

「ミタキ、大丈夫? 魔法では異常は無いように見えるけれど」

 これはミド・リーの声……

 目を開けると視界の三分の一がミド・リーの顔。

 残りはあのシンハ君別宅の天井だ。


「どうしたんだ? 一体」

「もう朝大分遅いわよ。ミタキは普通早起きだから、心配になって……」

 だんだん色々思い出してくる。

 そうだ、昨日結局寝付けなくて、外が明るくなりはじめまで起きていたんだった。

 その結果寝坊した、と。

 昨夜聞いた会話の事まで思い出しそうになる。

 いかん、あれは夢だ。忘れろ!


「なにか様子が変ね。本当に大丈夫?」

「大丈夫大丈夫、問題ない」

「一応回復魔法をかけておくけれど、調子が悪かったら言うのよ」

 いつもいつもすみませんミド・リー様。

 そう思いつつ起きる。

「フールイ先輩とナカさんとで朝食を作ってくれたからね。食べるでしょ」

「うん。悪いな」

 そんなこんなで朝食になる。


 朝食のメインは豆のスープ、他に卵焼きとハムサラダだ。

 味もうん、悪くない。

 それにアキナ先輩やヨーコ先輩、シモンさんの様子もいつもと変わりない。

 うん、昨日聞いたような事はきっと夢か聞き間違いに決定だ。


「今日はシンハ君の親か代官が来る可能性があるんだろ。どうする?」

 食事をしながらヨーコ先輩にそんな事を聞かれる。

 くどいようだけれどもいつもと同じ調子だ。

 だから俺も極力いつも通りの口調で返す。

「別にシンハの両親は顔見知りだし構えることは無いですよ。あそこは子爵家といってもこの辺の村と山を持っているだけですし、格式張った人達じゃないですから」

 俺自身何度も会ったり話をしたりしている。

 だから今更かしこまってという事は特にない。


「そうね。あそこは両親とも貴族っぽくないし」

 ミド・リーも俺と同様顔見知りだ。

 この国の貴族は領主であるとともに官僚だったり軍人だったりする。

 だから領地運営は代官に任せて自分達は拠点都市に住居を構えていることが多い。

 シンハの家も拠点都市ウージナの、俺やミド・リーの家の近くにあるわけだ。

 ただシンハの家は貧乏だけれど貴族だけあって大きい。

 そんな訳で俺やミド・リーなんかはよくシンハの家で遊んだりしていたのだ。

 あそこは親父さんもお母さんも割とおおらかで、使用人さんも人数は最小限だけれども皆いい人ばかりだったしさ。


「だから気にしないで海を楽しめばいいと思います」

「そうですか。でしたらあの牡蠣という貝、もう少し食べてみたいですわ。あと新鮮な魚ももう少し」

「なら甘味の調味料もある事だし、ひと味違う料理でも作ろうか」

「お、それは楽しみだな」


 そんな訳で朝食の後は採集活動が中心となった。

 フールイ先輩は景気よくどっかんどっかんやっている。

 浮いた魚や海藻を集めるヨーコ先輩以外は危険なため離れた場所で他の獲物集め。

 なお他の獲物というのが専ら牡蠣だったりするのはご愛嬌だ。


 なお俺は家で留守番しながらレシピ研究中。

 実のところここ最近動き回ったりしていたのでちょっとお疲れ気味なのだ。

 醤油無しで代替調味料で甘辛な煮付けをどう作ろうとか。

 ケチャップをもう少し量産しようかとか。

 ポテトフライはやっぱり二度揚げが正しいから一度揚げておこうとか。

 ずんだやジャガイモデンプンをもう少し作っておこうとか。

 そろそろ鳥ハムも大丈夫かなとか。

 キッチンの中にいるだけでもやることは多い。


 そんな中ふと鍋を見て思い出す。

 よくあんなに簡単に空気を通さず密閉するような工作精度で加工できるなと。

 あれがシモンさんならではの技なのか工作系魔法を使える皆がそうなのかはわからない。

 でもあの腕なら他にも色々とんでもないものが作れそうだ。

 相談してみる価値はあると思う。


 例えば銅線に絶縁体で被覆するなんて事が出来たとすれば、モーターとか発電機を作れるわけだ。

 今の石鹸生産は水酸化ナトリウム水溶液の量が生産上限。

 でも発電機が出来れば電池より遥かに大きい電力で電気分解が出来る。

 混ぜるとかの作業も機械化出来るぞ。

 蒸気機関も簡単な設計図があれば作ってくれそうだし。


 よし、昼食の時かその後にシモンさんと相談だ!

 でもそれまでに色々作らないとな。

 さっきヨーコ先輩とフールイ先輩が持ってきた魚を鱗取って捌いてと……

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