第17話 いつの間にかの到着

 見えるのはいつもの天井……ではない。

 いつもと違う部屋の、でも似たような木の天井。

 ベッドも俺のではないベッドだ。

 徐々に記憶が戻ってくる。

 そうだ、俺は荷馬車の中で強制睡眠魔法を撃ち込まれたんだ。

 起き上がってまわりを見る。

 そんなに大きくない部屋に、シングルベッドが2台置いてあるだけの部屋だ。

 客用の寝室なのかな。


 部屋を出て廊下をちょっと歩くと広間に出た。

「おっとミタキ、大丈夫か?」

 シンハが気づいて声をかけてくれる。

「ああ、済まなかったな。荷物や色々、俺まで運んで貰って」

「いや、俺は荷物を運ぶので精一杯だった。ミタキを運んだのはミド・リーだ」

 何ですと!


「昔からいつもの事じゃない」

 そう言われると確かに色々憶えはある。

 古くは5歳くらいの時、外で遊んでいて軽い熱中病で倒れた時とか。

 最近は学校でマラソンの授業があって途中で倒れた時とか。

 だいたい睡眠魔法と治療魔法をかけられながらミド・リーに家の治療院なり学校の保健室なりに連れて行ってもらったというか搬送された思い出が……

 でも今はきっと体重が3割くらいは違うぞ。

 俺は男だし身長も並程度、一方でミド・リーは小柄細めだからな。


「肩と腰を使って器用に身体に乗っけて運んでいました」

「流石幼馴染みだよな」

 ナカさんとシモンさんがそう言うけれど、

「これも王道の幼馴染みから始まる愛というものでしょうか」

 そう言ってニヤニヤしているアキナ先輩の台詞は断固として否定しよう。


「違いますよ」

「違うからね」

 見事にミド・リーとハモってしまった。

 いかんいかん。


「確かに幼馴染みだけれど、たまたま近くに住んでいて学年一緒で家が治療院だから、必然的にミタキが倒れた場合の措置は私の役目になっただけだから」

 このミド・リーの台詞が全てだと思う。

「麗しき友情ってやつかな」

 ヨーコ先輩、台詞はともかくにやにやしている表情が不穏です。

 絶対台詞と違う事を考えているだろう!

 藪蛇になりそうだから言わないけれど。


「さて、今はここについて1時間位したところだ。食材はもうお金を渡してあって、毎日村の人に裏口まで持ってきて貰える契約になっている。

 その食材が届いたので、そろそろ夕食の準備をしようかという処だ」

 ナイス説明シンハ君。

 これでこの場の話題が切り替わる。


「わかった。ならちょうど一眠りして楽になったし、俺が作ろうか」

 悪いが食料品も扱う商店の息子だ。

 しかも両親や姉が遅くまで仕事しているから3日に2回は俺が夕飯を調理する。

 更に現在の俺は前世での知識チートまであるのだ。


 勿論俺がすすんで立候補するのは訳がある。

 まずミド・リーは味音痴だ。

 色々世話になっているので言いたくないけれど、料理のセンスは最低レベル。

 なまじ食べられない事は無いだけに業が深いという料理を量産する。

 シンハ君は焼けば何でも食べられる脳筋派。

 なお焼かなくてもたいてい食べられる。

 そしてスマッシャーアキナ先輩の料理は想像したくない。

 趣味的にとんでもない物を入れそうだ。

 もう今日は一度倒れたし余計なイベントはいらない。

 楽しく美味しく食べられる夕食が欲しいのだ。


「ミタキ君は大丈夫ですか」

 ナカさんがそう疑問を口にする。

「大丈夫大丈夫、ミタキは料理は上手いんだぞ」

「そうそう。一家に一人居ると助かるよね。普通の料理も変わったものも作れるしどれも美味しいよ」

 付き合いの長い2人が太鼓判をおしてくれた。

 まあこの2人には色々食わせているからな。


「じゃあちゃっちゃと料理してくる。キッチンと材料は何処だ?」

「キッチンは向こうだ。材料はキッチンの冷蔵庫等に入れてある」

 よしよし。

 そんな訳で俺はシンハ君の指した方向の部屋へ。

 思った以上に大きく設備の整ったキッチンがあった。

 この家は祭りで使うというからそれ用なのかな。

 何にしろ設備が整っているに越したことは無い。


 巨大な冷蔵庫を見ると……ほうほう。

 メインは全長20センチ位ある魚が6匹、これはサバ科の何かだな。

 塩漬けした魚卵もある。

 他にはオカヒジキっぽい野菜とさやエンドウっぽい豆とトマト等の野菜。

 ハムもあるけれどこれは明日の朝食に回すとしよう。

 タマネギとタマゴは色々使えるな。

 主食はいわゆるカンパーニュ系の大きなパンが朝食用含めて5個。

 調味料は油も酢も塩もマスタードもひととおり揃っている。

 よし、ならアレを作るぞ!

 プランがまとまった。

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