それは、まさしく・・・
勝利だギューちゃん
第1話
わしは今、アパートの一室で、人生の幕を下ろそうとしている。
6畳一間のアパート。
風呂なしだが、トイレはある。
身寄りのないわしは、1人静かに、その終焉の時を迎えようとしている。
わしの名は、魚川理(うおかわ おさむ)
イラストレーターだ。
といっても、名ばかりで、実際には広告のカットなどを描いていた。
当然、結婚はしていない。
親戚は、自分の世間体のために、わしを無理やりに結婚させようとした。
しかしそれも、その親戚が死ぬ事で介抱された。
内心、喜んだ。
そして、今に至るわけだが、自分の選択に後悔はない。
自分ひとりだけだが、何とか食う事ができ、好きな事を続けられた。
これ以上の、贅沢はない。
ただ、もしわしが死んだら、新聞にはどう出るのか?
そう考えると、笑みがこぼれた。
「さあ、死神でも、天使でも、どっちでもいい。
早く来てくれ・・・」
思わず言葉に漏れたが、今更、恥ずかしがる事もない。
「しかし、遅いな・・・お迎えとやら・・・」
すると・・・
「ごめん、遅れた」
そこには、死神の格好をした若い女の子がいた。
「遅い。いつまで待たせる」
「おじいちゃん、待った?」
「ああ。死ぬのを忘れるところじゃった」
死神の格好をした若い女の子は、頭をポリポリかいた。
「で、なんで遅れた?寝坊?」
「そんな、子供じゃあるまいし」
「なら、大人の理由を言ってみろ」
「実はね、おじいちゃんのところには、2週間前に来る予定だったんだけどね」
わしは、すかさず口をはさんだ。
「まさか、ゲームをやりだしたら、止まらなくなったとか、言わんじゃろうな」
「それこそ、漫画じゃあるまいし」
「なら、現実の理由を聞かせてくれ」
死神の格好をした若い女の子は、胸をはっていった。
「私、極度の方向音痴なの。余裕を持って、2か月前に出たんだけど、間に合わなくて」
最悪だ・・・
よく、採用試験に受かったな。
「死神業界も人手不足で、来るもの拒まずって、感じなの」
なんなんだ?一体・・・
「ところで、おじいちゃん」
「何じゃ?」
「私の事は、みこでいいよ」
「なして?」
「死神の格好をした若い女の子じゃ、長いでしょ?」
「まあな。でも、なぜ巫女じゃ?」
「巫女じゃなくて、みこ。しにが『み』の、女の『こ』」
「ああ、わかったよ、みこ」
「うん、おじいちゃん」
みこは、笑顔になる。
もし、孫がいたら、こんな感じだったかな・・・
「おじいちゃん、お茶は出ないの?」
「寝たきりのわしに、どうしろと?」
「よく、トイレにいけたね」
「はっていった」
「なるほど」
感心するところか?
「冷蔵庫に、まだある。適当に飲んでくれ」
「はーい」
みこは、冷蔵庫を開けて、お茶を飲んだ。
ふと、みこはわしの机に眼をやった。
「おじいちゃん、絵描きだったんだ」
「知ってたんじゃろ」
「うん」
なんなんだ?この子は・・・
「で、みこ、わしはいつ死ぬんじゃ」
「あっ、閻魔さまに訊いてみるね」
スマホを取りだして、電話をかけていた。
「スマホなら、地図があるじゃろ」
「うん。でも、私の方向音痴は、豚に真珠だから」
自慢じゃないと思うが・・・
「はい・・・えっ、そうですか・・・でも・・・
はい・・・はい・・・それは・・・わかりました」
みこは、スマホを切る。
「閻魔様、何だって」
「実はね。おじいちゃんの死がキャンセル扱いになったの」
「それで・・・」
「今度、おじいちゃんの死が登録されるのは、1年後なの」
「1年後?その間わしは、このまんまか」
「うん、でも・・・」
「でも?」
みこは、ひざまづいた。
「閻魔さまから、責任持って1年間、面倒をみろと」
「おい、どうやって面倒見る気だ」
「さあ、でも、何とかなるわよ」
なんとかって・・・
「お前さん、方向音痴だろ?外へ出れないだろ?」
「大丈夫。おじいちゃんも、一緒に行くから」
「無理言うな。動けん」
「私が、おんぶする」
あのな・・・
「おじいちゃんの事、気に入った。理(おさむ)くんて、呼んでいい?」
「好きにしろ」
「ありがとう、理くん、よろしくね」
これまで、ひとりだったが、ひとの温かさを思い出した。
いや、はじめて感じるかもしれない。
残りの1年は、楽しく過ごせそうだ。
そして、1年後・・・
わしの魂は、みこと旅だった。
そのはずだが・・・
「ごめん、また間違えた」
「わしを浮遊霊にする気か!」
死んでから、1年間もさまよっている。
つまり、2年間、みこと一緒だ。
ただ、魂は若返るようだが・・・
霊界までの道は、企業秘密なので、わしには地図は見せれないようだ。
たく・・・
(私、理くんの事、好きだから、もうしばらくは、一緒にいてもらうわよ)
まさしく、死神だ・・・
それは、まさしく・・・ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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