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貴族の家にはありがちな問題だが、自分で言っておいて、ローズはそれはないだろうと思った。あのレオンの性格からして、人を妬むようことはしないだろう。ただ、自分の意思とは関係なく、利害をもくろむ親類縁者もないことはないかもしれない。
「そんなことはございませんわ」
案の定、ソフィーの答えもあっさりしたものだった。
「レオン様はお兄様をとても慕われておりました。どれほどまわりから比べられても決して苛立つことはなく、むしろ優秀なお兄様を自慢にすら思っていたほどです。ハロルド様が当主となったあかつきには、ご兄弟で力を合わせてカーライル公爵家を守っていかれるものと思っておりました」
「ハロルド様って、そんなに優秀な方だったの?」
「甥であることを抜きにしても国王様から一目置かれる存在で、いずれは議会の重鎮とも目されておられる方です。実際、すでに領地の半分はハロルド様が管理なされていて、結婚と共に爵位を継ぐ予定でした」
「まあ」
現カーライル公爵は、まだ隠居という歳ではない。その公爵が地位を譲るというなら、それは本当に当主として優秀だったのだろう。
「世間ではハロルド様のことばかりが口の端にのぼりますが、レオン様も十分優秀な方です。そういう意味で、カーライル家はとても恵まれておりますわ」
「レオン様のこと、私、最初は、とても怖い方かと思っていたわ」
「真面目で言葉が少ない方なのでそう思われるのでしょう。けれど、とてもお優しい方です」
本当なら兄の妻となるはずだったベアトリスと突然結婚することになったにも関わらず、レオンは一生懸命寄り添おうとしてくれた。優しい人だということは、ローズにもわかる。
その時、扉を叩く音がした。
「はい」
「あの、ソフィー様、結婚式の打ち合わせの時間なのですが」
ソフィーが答えると、別のメイドの声がした。
「ああ、もうそんな時間なのね」
ベアトリスの結婚式までの日は迫ってきていた。ソフィーはメイドの中でもまとめ役らしく、なにかと準備で忙しい。
「申し訳ありません、奥様。少し行ってまいります」
「お願いね」
ソフィーは軽く頭を下げると、部屋を出て行った。その姿を見てローズは、普通のメイドは部屋を退出するときに、いなくならないでくださいね、などと念を押して出て行くことはしないのだと、あらためてベアトリスが普通のお嬢様を違うのだと再認識した。
閑話休題。
窓から天気のいい空を見上げながら、ローズはため息を一つ落とした。
(私も身代わりだったけれど、レオン様も身代わりだったのね)
☆
次の日、ローズは朝から中庭にいた。レオンからもらったダリアの花を見にいったのだ。
中庭では、かすかな風にピンクの花が揺れている。他にも、紫や白、赤、いろんな花があったが、ピンク色のものはたった三本だけだった。そのうちの一本を選んで、レオンは摘もうとしていた。
(意外と細かいことを覚えているのね)
そんなことを考えていると、ふいに後ろから声がかかった。
「本当に見に来たのか」
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