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「レオン様は大人の女性の方がお好みのようでしたから。子供っぽいこんな化粧では、わたくしの美しさは引き出せませんわ。当日はもっと美しく見えるように化粧いたします。どうぞご期待くださいませ」


(ごめんなさいごめんなさい、メイドさんたち。本心じゃないの、きれいにしてくれてありがとう。でもこれじゃだめなのよ!)


 針子たちが外に出ててくれて本当によかった、とローズは心底思った。一生懸命やってくれた彼女たちに、こんな言葉は聞かせられない。



「いや、十分美しい……」


「……え」


 思いがけない言葉に振り向くと、は、としたようにレオンが目をそらした。その顔は、真っ赤になっている。


 その顔を見て、ローズまで頬が熱くなるのを止められなかった。



「……なら、きっともっと……」


「な、なんでしょう?」


「いや。すまない。女性に慣れている者ならきっともっとうまい言葉がでるのだろうが……俺は不調法者でな。こんな時に、どんな言葉をかけたらいいのかわからないのだ」


 そんなもの、生まれてこのかた男性に褒められたことなど一度もないローズにもわからない。



「あ、あの、本当に綺麗ですよね、このドレス、お針子さんたちが上質のレースで半年もかけて縫い上げてくれたものなのだそうです。この細かい刺繍やデザインも最新のもので……」


「そうではない」


 一生懸命ドレスの説明を始めたローズに、しかめっ面を赤く染めた顔のままレオンは言った。


「俺が美しいと思ったのは、そのドレスを着たお前だ。そのお前を賛美する言葉を……残念なことに、俺は知らない」


「え……あ、あの……」


「そうか。来週には、そのドレスを着たお前の隣に俺が立つのだな。……楽しみだ」


 レオンは、珍しく嬉しそうに微笑んだ。



「改めて、お前を娶る俺は幸せ者だと実感した。お前にもそう思ってもらえるよう、俺もこれから精進しよう」


 座っているローズに目線を合わせるように、レオンはその前にひざまずいた。


「家同士のつながりとはいえ、縁があって夫婦となるのだ。昨日お前に先に言われてしまったが、俺からも、お前を必ず幸せにすると約束する。俺は、人に倣うことなく、お前と共に歩き俺の愛し方でお前を愛すると誓おう、美しき我が妻よ」


 まっすぐにローズの目を見てそう言ったレオンは、彼女の手をとってその甲に口づけた。



 ローズ十八歳。あきらかに自分の許容量を超えるレオンの言動に、頭に血が上ったローズはふらりと倒れかける。


(な……なにが不調法者よ! これだけ言えれば立派な……)


「お、おい!」


 椅子から落ちかけたローズをあわててレオンが抱き留めるが、その腕の中でローズは気を失ってしまった。



  ☆


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