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「腕によりをかけて、奥様の美しさを引き出してみせますわ」
言いながら年配の女性が、先にしてあったローズの化粧を落としていく。
「簡単でいいのよ」
「そうはまいりませんよ。なんといってもレオン様の奥様になられる方ですから」
「レオン様は……どんな方なの?」
あの色がこの色がと話をしていた女性たちが、口々に教えてくれる。
「穏やかな方ですよ」
「ちょっとぶっきらぼうなところがありますが、怖い方ではありません」
「奥様のお肌、とてもきれいですね。これなら、おしろい、もっと白い方がいいかしら」
「とても素直な方よね。まっすぐというか……」
「レオン様はそこがいいのよ」
「ねえ、紅はこちらの方がよいのではなくて?」
「もう二十四歳になられるのに、たまにすごくお可愛らしいと思うこともなさいますよ」
「そういえば、知ってる? この間……」
「さあさあ、あなたたち、口ではなく手を動かして」
話に夢中になりかけたメイドたちを、ソフィーとはまた違う年配の女性が指示してメイドたちはまた自分の仕事に戻る。
(レオン様、好かれているのね)
お世辞を言っている雰囲気ではなかった。外面がよくても、使用人は主人をよく見ている。その使用人たちがこう言うのなら、レオンは本当に人がいいのだろう。
(お嬢様のお相手が変な人でなくてよかった)
「いかがでしょう? とてもお美しいですよ」
しばらくして一通り化粧を終えて鏡を渡されたローズは、そこに映った自分を見て息をのんだ。
式用の少し派手な化粧を施されたローズの顔は、いつものベアトリスに似せたものではなく、ローズ本人の顔だった。メイドの言った通り、見違えるくらい自分が美しくなっていたが、これではだめなのだ。
(こんな……これでは、当日のお嬢様のお顔と違いすぎてしまう!)
「できたのか」
動揺するローズの耳に、レオンの声が聞こえた。あわててローズは、ヘッドドレスのベールを顔にかける。
レオンが入ってくると、気を利かせたのかソフィーをはじめメイドたちやお針子たちが入れ替わりに部屋から出て行った。二人きりになった部屋で、レオンが窓辺に座っていたローズに近づく。
「これでは見えぬではないか」
不満げな声でレオンは言うと、ローズの止める間もなく、ひょい、とベールをあげてしまった。
「あっ!」
うっかり見上げてしまったローズは、思いがけなく近い距離でレオンと目を合わせる。
レオンが目を見開いて絶句した。
ベールをあげた手をそのままに固まってしまったレオンに、ローズは落ち着かない気分になった。
(どうしよう……この顔を見られてしまうなんて……せ、せめて何か言って欲しい)
胸の動揺は押し隠して、ローズはつん、とそっぽを向いた。
「もっと美しい妻ならよかったと、いまさら後悔しないでくださいね。こう見えても二十歳ですから、れっきとした大人です」
ローズの言葉で、レオンは我に返ったように目を瞬く。そして手に持ったままだったベールを離すと苦笑した。
「最初に会った時に言ったこと、根に持っているのか」
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