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「そんなもの、結婚式当日に見ればよいことでしょう」


「あまりの奥様のお美しさに心を奪われて、当日レオン様が何か失敗でもしでかしたらいけませんもの。レオン様、一時ほどお待ちくださいませ。最高のお姿をお見せいたしますわ」



 ローズとしては、今ウェディングドレスを着た姿を見せて当日違和感を持たれても困るのだが、あまりかたくなに拒んでせっかく良くなってきたレオンとの仲を壊したくはない。


(ああもう本当に、身代わりなんてやめとけばよかった……)


 きりきりと、胃の痛み始めたローズであった。



  ☆



「この度はおめでとうございます、奥様」


「おめでとうございます」


 ウェディングドレスのおいてある部屋には、数人のお針子たちが待っていて、口々にローズに祝いの言葉をかける。


「さあ、お召替えを」


 あっというまに身ぐるみはがされると、ローズの体には白いドレスが合わせられた。実際に着てみると、使っている布の量のわりにはふわりと軽い着心地にローズは驚く。



「軽いわ」


「こちらのドレスに使われました布は、一枚布ではなく細かいレースで編まれております。その分軽く、通気性がよいので暑さを感じない作りになっております」


 確かに体をぴっちり覆っていても、締め付けるような感覚はまったくない。思ったより伸縮性のある生地だった。


(よかった。これならお嬢様でも着られるかもしれない)



「あら……奥様、お痩せになりました?」


 胸のあたりや腰のあたりを、お針子たちが器用につまんで針を刺す。緊張しつつも平静を装いながら、ローズは答えた。


「え、ええ、夏の暑さにまいってしまったみたい。でももうすっかり元気になりましたし、こちらのお食事がとてもおいしいので結婚式までにはきっともとに戻ってしまうわ。だからあまり詰めないでちょうだい」


「かしこまりました」


 そう言って余裕を持ってもらうが、それでもローズは内心気が気でない。


(どうかお嬢様が結婚式まで太りませんように)



 ローズの心など知らない針子やメイドたちに、ソフィーが笑顔で言った。


「あとでレオン様がいらっしゃるそうよ。奥様をお着飾りいたしましょう」


「まあ、レオン様が」


「きっと楽しみにしていらっしゃるのね」


「ではお化粧も、結婚式のように」


 鳥のようにさえずりながら、メイドたちが楽しそうにローズを飾り付けていく。



「ベールは短いのね」


 ヘッドドレスにつけられたベールは、顔にかける方はともかく、後ろは床まで引きずるくらいが貴族のウェディングドレスとしては一般的だ。だがローズの頭につけられたベールは、腰のあたりまでしかなかった。これではまるで、町娘の結婚衣装のようだ。



 ローズの言葉が不満と聞こえたのか、メイドがなだめるように説明する。


「最近は、短くて薄い生地でつくられたものが流行りなのだそうです。特にこのデザインは最新なものを組み合わせてあるので、きっとそれに合わせたのでしょう」


「そうですよ、奥様。きっとハロルド様も……」


「ちょっと!」


 何か言いかけた一人を、隣にいた針子が厳しい声で制した。


「え?」


「奥様、ちょっと腕をあげてください」


「え、あ、こう?」


「はい、ありがとうございます」


「すみません、ちょっと下を向いて……お首、苦しくないですか?」


「大丈夫です」


「奥様、お髪はいかがいたしましょう? ご希望の髪形などありますか?」


「そうね……」


 あわただしく寸法合わせが終わると、ローズは窓辺の椅子に座らされた。

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