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 その後のんびりと館内を見回って部屋へと戻ったローズは、今度は部屋中が様々な花で埋め尽くされているのを見て目を丸くした。



「これは……」


「レオン様からの贈り物でございます」


 部屋でまだ花を活けていたメイドの律儀な答えに、ローズはげんなりする。花は嫌いではないが、これほどの量はさすがにむせ込むのを止められない。



「この量を……ですか?」


「はい。温室の中にあったものと、あとは市場で少し」


(なんでこう、適量ってものがわからないのかしら、あの人)


 なるべくかかわりを持ちたくないローズにとって、これは余計なお世話以外のなにものでもない。はあ、とローズは小さくため息をついた。



(お菓子といいお花といい……これは一言言っておいた方がいいのかもしれない)


 そうでないと、次はなにでこの部屋を埋め尽くされるか分かったものじゃない。



「……レオン様は、今はどちらにいらっしゃいますでしょう」


 ローズが尋ねると、ソフィーは少し考えてから言った。


「先ほど館にもどられたようでしたので、おそらくご自分のお部屋に」


「お邪魔してもいいかしら。お花のお礼を言いたいので、案内をお願いします」


 ずるずると重い気分を引きずって、ローズは案内をするソフィーの後について行った。


 レオンの執務室は、本館の中でも離れのすぐ近くにあった。



 コンコン。



「レオン様、ベアトリス様がいらっしゃいました」


 ソフィーが声をかけると、中から静かに扉が開いた。開けてくれたのは、黒髪の青年だった。朝、ガゼボでお茶を飲んでいたレオンを待っていた青年だと、ローズは気づく。服装からして、レオンの執事だろう。



「どうぞ」


 柔らかい物腰のその青年は、わきにどいてローズを中へと誘った。


「どうした」


 机に向かったレオンは、何か書類を呼んでいるらしく顔も上げない。


 邪魔をしてしまっただろうか、とローズはひるんだが、相手が忙しいならちょうどいい。挨拶だけして帰ろうと、膝を折って礼をする。



「今朝のお菓子も嬉しかったのですが、部屋いっぱいの花に囲まれる経験も初めてです。お気遣いありがとうございます」


「そうか」


「レオン様のお気持ちは十分頂戴いたしましたので、今後はどうか過分なお気遣いをなさりませぬようお願い申し上げます。わたくしは、レオン様のご負担にはなりたくありません」


 レオンが、少しだけ驚いたような顔をあげた。



「気にいらなかったか?」


「そうではありませんが……」


 うまく言えずにローズは口ごもる。ローズ自身、人からこんな贈り物をもらったことなどないのだ。どう言ったら失礼にならずに断れるのか、うまい言葉が浮かばない。


「レオン様」


 と、後ろで控えていた執事の青年が口を開いた。


「ですから、ほどほどが大事だと言ったではないですか。量よりも質ですよ。適切な時にたった一つの贈り物の方が人の心を打つものです」


「そういうものか」



 助け舟を出してもらったのはいいが、この執事の発言もかなりのものではないだろうか。こっそり目を向けると、ローズの視線に気づいた執事が、こちらもこっそりと片目をつぶって合図してきた。


(ちょっとレオン様とは違う性格みたい)



「では、これで……」


 ローズが言いかけると、レオンは立ち上がった。

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