第二章 Doll house

2-1

 寝静まる者と蠢く者が交わる夜の街。

ヘッドライトで埋め尽くされた夜道の反対側ではこれから夢の中へ誘われる子ども達が暖かなベッドの中で、絵本を読む母親の声を子守唄にしている……そんな陰と陽の交差する世界。


 闇に浮かぶ大きな建物の前に数名の男が現れた。手にアタッシュケースを提げた彼らは、耳に接続したインカムから聞こえる指示に従って散り散りに建物内部に入っていく。


{A地点到着}

{B地点到着}


仲間が所定の配置についた連絡がインカムを通して伝わる。暗がりでは小型のライトの明かりだけが頼りだ。

彼らはアタッシュケースの中身を慎重に取り出して所定の場所に置くと、素早くその場を立ち去った。


         *


 そして場面はひっそりと寝静まる無機質な空間に変わる。誰もが深い眠りに落ちている頃、布団から這い出たその者は開けられた扉から一歩外に出た。


長い廊下を歩いて右に曲がり、指示通りの扉からまた外に出る。ここまで来る間に通過した扉の鍵はすべて開いていた。予定通りと言うことだ。


 最後の扉を開けた先には夜空が広がっていた。雲がかかる暗い空に月はいない。

夜明けまでまだ3時間近くある。この時間帯はより冷え込みが厳しく、手に息を吹き掛けてその者は歩を進めた。


 約束の時間に約束の場所に行けばまた、たのしいことが待っている。神はそう言っていた。


『待っていたよ。ドラジェ』


ああ……あの声だ。これは神の導きの声。


『私と一緒に行こう』


神に導かれるまま、その者の姿は闇に吸い込まれて消え失せた。


 マリオネットが動き出す

 カタカタカタカタ

 音を立てて、動き出す


 それからまた別の場所でマリオネットが動き出した。


 彼女は鍵が外された扉から外に出た。予想以上に冷え込む外気に触れて彼女は一瞬身震いする。

寝静まる者と蠢く者が交差する夜が間もなく明ける。東の空が明るさを増した。あれは神が我々に贈る祝福の光。


 これでまた、手に入る。一番欲しいものが手入る。


『クリスティーヌ。こちらへ、いらっしゃい』


神の声の聞こえる方へ彼女は足を進めた。


 マリオネットが動き出す。

 カタカタカタカタ、音を立てて。

 彼らはもう一度動き出した。

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