第185話 交流
あれから数日が経過。
僕たち特級対魔師には特別な任務は降りてきていない。黄昏危険区域での魔物との戦闘を続けているが、それでもあまり危険なものはなく、日常の一部としてそれを淡々とこなしているだけだ。
そんな中。僕は早朝に、リアーヌ王女と出会った。
「おはようございます。リアーヌ王女」
「あら、ユリアさん。おはようございます」
よく見ると、その後ろにはエイラ先輩もいるようだった。
「おはよ。ユリア」
「おはようございます。先輩」
挨拶も交わしたので、通り過ぎようとすると……リアーヌ王女に呼び止められるのだった。
「ユリアさん。少しいいですか?」
「はい。なんでしょうか」
踵を返すと、彼女と視線を交わす。
「これはまだ非公式なお話なのですけど」
「もしかして……?」
その前振りから僕は予想していた。おそらくそれは……きっと、あのことだろう。
「サキュバスの女王である、サンドラ様は大変ここを気に入ったようです」
「つまり、正式に調印を結ぶと?」
「おそらくそのように話は進んでいくでしょう」
「なるほど……ということは、うまくいっているのですね」
「はい。おそらくもう少し地盤をしっかりと固めることができれば、特級対魔師は黄昏危険区域にさらに進むことになるでしょう」
その言葉を聞いて、僕の視線は先輩と交錯する。
黄昏危険区域。
おそらくこれから先は、レベル5を超えるエリアに出向くことになるだろう。黄昏にいた経験から分かることだが、レベル5を超えた先に待っている魔物は文字通り格が違う。
全く異質な存在だと言ってもいいだろう。
僕が黄昏にいた時は、レベル5より先は逃げることを優先していた。サイズが大きのはもちろんだが、黄昏の濃度もかなりのものになる。おそらく、現地に赴くことのできる対魔師は限られてくるだろう。
僕の憶測に過ぎないが、一級対魔師以上で無ければ……その先に向かうのは不可能だろう。
僕ら特級対魔師の存在は、さらに重要になってくるだろう。
「ユリア。分かってるわよね」
「はい。もちろんです」
鋭い視線を向けてくる先輩だが、きっとその視線の意味は……ベルさんのことだろう。
まだこの心の傷は癒えてはいない。だからこそ、僕らは進む必要があるだろう。
「ではユリアさん。私たちはこれで失礼します」
「はい」
通り過ぎていく二人を僕は見送る。
その後ろ姿をじっと見つめる。おそらく、一番心に傷を負っているのはリアーヌ王女だ。だというのに、今まで以上に仕事に励んでいる彼女見て、僕もまた特級対魔師としてさらに進んでいくべきだと。
そう思っている。
そうして安寧の時は終わりを迎え、さらなる激動の時が徐々に迫ってくるのだった。
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