第161話 事情聴取



「で、ユリアは何をしているの? ねぇ?」

「いやこれは……違うんですよ……!!」

「うぎゃあああああああああああ!! いやだあああああああああ! 犯されるううううううううううううううううう!!」

「ちょっと!? それは誤解を招くから!!」



 ということで先輩に詰問をされ、リアーヌ王女とシェリーには白い目で見られ、本当に針のむしろ状態になってしまった。


 もちろん僕の弁明と同時に、スコットさんとニックもフォローしてくれたので、僕があろうことか外でサキュバスを襲おうとしているという事実無根の誤解はなんとか解消されるのだった。



「ぐす……ぐす……ぐすん……」

「えっと……キャサリンで、あってますよね?」

「うん……ぐす……ぐす……」

「私はリアーヌと言います。人間の世界で一応王族というものをやっています。大丈夫ですよ。王族の名にかけて乱暴はしませんから」

「本当……?」

「はい」

「さっきの男みたいにぐるぐる巻きにしない?」

「……」

「え!? なんで目をそらすの!? ねぇ!?」

「一応あなたは魔族です。人間に敵対する可能性もあるので、そちらが何かしない限りは何もしませんが……拘束はやむを得ないことなのです」

「そ、そんな!? 私は別に何もしないのに!」

「でもそれを解いたら逃げるでしょう?」

「……に、逃げないよー?」

「なるほど。ユリアさん、担いで結界都市まで運びましょう」

「了解しました!」



 敬礼をリアーヌ王女に向けると、僕は地面に伏せているキャサリンを担ぎ上げる。



「うわあああああああああ!! いやだあああああああああ!! 犯されるううううううううううううう!!」

「はいはい……そんなことしないから……」



 そうして僕たち一行は謎のサキュバスを連れて結界都市へと戻っていくのだった。



 ◇



 その後の話。


 会話ができる。かつ、敵対の意志は見えないということでとりあえずは彼女に対しては尋問が行われることになった。


 だが今は人手がエリア8~10の方にいっているので、キャサリンを連れてきた僕、それにリアーヌ王女とで尋問をすることになった。


 万が一暴れても抑えられるようにとの配慮だろうが、僕はかなり嫌われているようなので色々と思うところもあった。


 ちなみにこのことはすでに軍の内部には通達がいっている。



「う……うぅぅ……私をどうしようって言うの!?」



 尋問室。といってもテーブルと机があり、僕らは向かい合うような形で座っている。それと、キャサリンの拘束はまだ解いていない。


 今回はリアーヌ王女が詰問をして、僕がその内容を紙に残すという形になっている。



「どうもしませんよ。大丈夫です」

「本当?」

「えぇ。嘘はつきませんよ」

「それなら……いいけど……」



 にこりと微笑むリアーヌ王女。その姿を見て、彼女の言葉が嘘であると思うものはいないだろう。ちなみに僕は知っているが、リアーヌ王女は意外とお茶目で平然と嘘をついたりもする。外見的なイメージが先行するが、実際は15歳の少女らしい一面も持ち合わせている。



「まずはそうですね。プロフィールを作成したいので、質問にお答えください。嫌ものは嫌と言っても構いません」

「うん……」

「まず、種族はサキュバスで間違いないですか?」

「うん。サキュバスのキャサリンって言います……」

「なるほど。年齢は?」

「12歳……」

「あら。とても若いのですね。大人っぽい方なので、もっと年上の方かと」

「本当か!? 私、大人っぽい?」

「えぇ。とても大人の魅力に溢れた女性だと思います」

「そっかー。えへへ。そっかー。王女様はいいやつだな〜」



 それは逆説的に僕はひどいやつだと言いたいのだろうか?


 まぁそんなことを気にしていても仕方がない。僕は黙って情報を書き込むだけだ。



「あ! それと私はクイーン候補だということは、忘れないでよね!」

「クイーン候補、ですか?」

「そうだ!」

「サキュバスのクイーンが入れ替わるのですか?」

「う……ま、まぁそうかな? いや、違うかもな〜」



 わかりやすい。でもここで変に追求して意固地になられても困るだろう。リアーヌ王女もそれをわかっているのか、すぐに次の質問に移る。



「それでは続きですが……」

「あ……」



 きゅ〜、と可愛らしい音が室内に響き渡る。尋問室だからこそ、その音が際立ってしまうのだが……キャサリンは顔を真っ赤にして下を向き、プルプルとしている。



「お腹が空いているのですか?」

「うん……もう3日も何も食べてない……」

「そうですか」



 そういうとリアーヌ王女は通信魔法を使用。すぐにこちらに食料を持ってくるように手配して、やってきたのは……。



「おおおおおお!? なんだこれ!? なんだこれ!?」

「どうぞ。召し上がってください。お話はその後でも構いませんよ?」

「いいのか!? めっちゃ、美味そうだけど!」

「信頼の証と思っていただければ」

「おー! 王女様、最高だな! では……!」



 キャサリンは飛びつく。そう。彼女が食べているのは、なぜかカツ丼だった。そのチョイスは謎だが、リアーヌ王女曰くこれは定石らしい。


 豚の肉を油で揚げて、さらにはそれを卵でとじる。出汁がふんだんに使われているようで、それは黄金色をしていた。


 それを美味しそうにモグモグと頬張るキャサリンを見つめること、5分。彼女は瞬く間にカツ丼を平らげてしまった。



「げっぷ……うううう……美味しかったぁ……」

「それは何よりです」

「今ならなんでも答えるぞ! 私はとても、そうとても機嫌がいいからな!」

「では本題を……どうしてあなたはあの場所にいたのですか?」

「そ、それは……」

「それは?」



 はっきり言ってリアーヌ王女の天眼セレスティアルアイで視てしまえば、それで終わりなのだがあれは色々と制約もあるし、できれば使いたくはないとのことだった。


 そしてキャサリンはしばらく黙っていると、その口を開くのだった。



「笑わない……?」

「えぇ。笑いませんよ?」

「えっとその……実は……迷子に……なって……」

「迷子ですか?」

「うん。あのあたりは私のお気に入りの場所だったんだけど、なんか結界が張ってあって……それでムキになって結界をすり抜けてきたんだけど……そこから先は逆に出れなくなるし、今までの場所となんか違うし……それに人間がたくさんいるし……それでうろうろと彷徨っていたの……」

「そうですか……それは大変でしたね」

「うん……」

「ということは人類に敵対の意志はない、と?」

「うん。もともとサキュバスは人魔大戦にも参加していないし……敵でもなければ、味方でもない……ってところかもしれない……」

「かもしれない、とは?」

「なんか最近、サキュバスの国に変な奴らがやってくるの」

「変なやつ、ですか?」

「うん。それは魔族なんだろうけど、私は詳しく知らなくて……」

「なるほど。そうですか」



 その後も詰問を続けたが、これ以上有力な情報が出ることはなかった。


 僕はキャサリンの言った話を全てまとめ、一つの報告書として仕上げる。



「さて。ではここまでで結構です。お疲れ様でした」

「終わりか!?」

「えぇ。終了です」

「なら帰ってもいいのか?」

「それはちょっと……もう少しお話をしたいので」

「えぇ……まだ帰れないのか?」

「またご飯は用意しますよ? 先ほどよりも美味しいものが人間の世界にはあるのですよ」

「さっきよりも美味いもの!?」

「えぇ。それはもう、とびきりのものです」

「……ゴクリ。し、仕方ないなー。本当はめっちゃ帰りたいけど、少しだけ人間の国に居てやってもいいかな〜」

「それはとても助かります。そうですね、現在はエルフが住んでいる場所があるのでそちらの方に移動してもらいましょうか。人間よりも、同じ亜人の方がいいでしょうから。ではユリアさん、とりあえずはキャサリンに付き添って上げてください」

『え!?』


 声が重なる。それは僕とキャサリンのものだった。


「もし逃げられても、ユリアさんなら捕獲できるでしょう?」

「まぁ可能ですけど……」

「ならよろしくお願いしますね」

「……はい」

「……」


 有無を言わせない笑顔。


 それに僕のことをじーっと見つめているキャサリンが、妙に気になるのだった。


 こうしてなぜか僕はキャサリンと行動を共にすることになるのだった。

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