第67話 世界縮小
対峙。自然と向き合うのは、ベルとギル。他の特級対魔師たちは自然とこの二人が戦うのを見越して、今はベルとギルとは距離を取っている。序列2位と序列3位。サイラスがいない今、それは実質頂上決戦とも呼ぶべきものだった。
二人はこうして何度も剣を向けあったことがある。といってもそれは訓練での話だ。こうして互いに殺意を向けあうことなどありはしなかった。
ベルが持つのは、太刀。ギルが持つのはクレイモア。互いにその武器の特性、戦闘スタイルは知っている。ベルはその圧倒的なスピードで相手を屠り、ギルはその圧倒的なパワーで相手をねじ伏せる。
「ぐッ……!!」
「……ギルに私は斬れないよ」
すでに
(止むを得ないか……)
ギルはそう考え、
「その眼……」
ぼそりと呟くベル。それはありふれた
必ず行動には魔素が伴う。特に、戦闘をしている場合にはそれが顕著に現れる。その流れを読み切り、相手の攻撃を先読みする。それこそがギルの強みだった。
「くッ……!!」
そう声を上げるのはベルだった。間違いなく自分が圧している。だというのにベルには確かな焦燥感があった。何故ならば、繰り出す攻撃がことごとく躱されるからだ。今まではギルは防戦一方だった。今は違う。あの緋色に光る双眸は確かに自分の動きを捉えているのだと知る。
はっきり言って、対人戦の経験はそれほど多くない。そのためベルは思考を変える。これは魔人と戦っているのだと想定すべきだと。魔人もまた、人間に似ている能力を持つ。そして互いにどのような能力があるのか探りつつ戦う。しかしベルはそんな探り合いをする対魔師ではなかった。
「どうしたベル、俺にはお前が斬れないんじゃないのか?」
「……」
確かにそう思っていたが、やはりそれは奢りなどだと悟る。相手もまた、長年人類を最前線で守っている特級対魔師なのだ。認識をさらに切り替えると、ベルは刀を鞘に収める。
そして姿勢を低く構え、腰に差している刀の柄に手を添える。この構えはベルの代名詞でもある秘剣だ。ギルもまた、知っている。互いに戦っている時にベルが繰り出しているのは何度も目撃しているからだ。
「……秘剣か。いいだろう」
ギルもまた、
「――第八秘剣、紫電一閃」
ベルが距離を詰めてきて、そして間合いに入った瞬間に抜刀。光り輝くそれは、人間の知覚を超える。もちろんギルもただの五感では、その秘剣を知覚はできない。しかし
ベルの紫電一閃は発動すれば、勝利できる。それは今まで一度も躱されたことがないからだ。紛れもない事実。だが、ベルのそれは……ギルに躱されることになる。
「……なッ!!?」
そう。ギルは
そしてギルはカウンターを叩き込もうとするが……。
「――第四秘剣、
完全に油断していた。ベルの紫電一閃はその後に硬直があるはずだ。今まで幾度となく見てきた。だというのに何だこれは? ギルはそう思うしかなかった。硬直などない。しかも、連続して使用するのは秘剣。ベルは今度は縦に切り裂くようにして一閃。瞬間、氷の剣撃が地面を走っていく。
「ぐ、ぐううううううううううううッ!!!」
「まだ……やる……?」
「……いや。俺の完敗だ」
互いに殺し合いをしているわけではない。そのため、完全に本気というわけではないが、ベルの方が上手だったのは自明。そしてギルは自分の持つクレイモアをゆっくりと地面に下ろすのだった。
◇
周囲にいた対魔師たちはギルとベルの戦いが終わったことを理解した。それでもこの戦いが止まることはない。現在は二重に
シーラ、デリック、ロイ、レオは全員が近接戦闘型。一方のイヴ、クローディア、エイラ、ヨハンはヨハン以外が魔法特化の対魔師。本来ならば、近接戦闘型が有利だが今は
「おい、オメぇら……、イヴのあれどうにかできねぇのか?」
「……無理かな〜。しかも、エイラちゃんの
「……ここで本気出すのも、ちょっと問題ですしね」
「は? デリック、お前はいいのか? このままだとユリアが逃亡するぞ」
「うーん。どうやら今回の件、かなり歪になっている見たいですし……僕としては少し様子をみたいですね」
「おい。負けを認めるのか、テメェ……」
そしてその言葉には、レオが反応した。
「ロイ、シーラ、デリック、どうやらこの場は引いた方が良さそうだ。と言っても、彼らが逃がしてくれるとは限らないが……負けだろう。ギルさんが残っていればまだ勝機はあったが、もうダメだね。シーラの言う通り、
「おいッ!! そんなことを認めるわけにはいかねぇだろッ! 裏切り者に届くかもしれねぇんだぞッ!」
「だからこそ、だ。ここは冷静に……?」
「どうした……?」
「いや、何だあれは」
そうして四人が見たのは、いや四人だけではない。全員がある一人に注目していた。
「……? クローディア、何をしているの……?」
「え?」
「あなた、魔素が異常なぐらい集まっているじゃない」
「あぁ……なるほど……いえ、これは別に何でもないの」
「何でもないって……そんな訳が……」
「エイラ、下がってッ!!」
「……え?」
その声は、イヴのものだった。とっさに庇うようにして覆いかぶさるイヴ。そしてクローディアの指先から眩い光が出現。同時に、この世界を包み込んだ。
最後に彼女はこう呟いた。
「――
瞬間、世界が暗転した――。
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