第46話 第六結界都市




「もう少しで着くね」

「思ったより早いわね」

「まぁ……二人での移動だし、それに魔物もあまり出なかったからね」



 現在はシェリーと第七結界都市を出発し、第六結界都市へと向かっていた。移動するのはもちろん安全区域だが、魔物が僅かながらもいたので二人でそれを駆逐しながら移動している最中だ。その中でシェリーの剣戟を目にしたが、それは以前の彼女のものではなかった。確かに、ベルさんが推薦するだけのことはあるんだろう。



「……お、見えたよ」



 僕は視界に第六結界都市を捉えた。そして僕とシェリーは第六結界都市に入って行くのだった。



「……代わり映えしないわね」

「まぁ同じ結界都市だしね。違うのは王城のある第一結界都市だけだよ」



 そんなことを話している間に、軍の基地へと移動しようとする。基本的な構造に違いはない。だからこそ、すぐに基地の場所はわかると思ったが目の前に唐突に何者かが現れた。


 え、誰と言うか……いつの間に……?



「じゃーん! 驚いた!? ねぇ、ねぇ、驚いた?」

「「……」」


 唖然とする僕とシェリー。そう、それはあまりにも唐突だった。僕たちは基地に向かおうと歩みを進めていた。特に隠れる場所などもなく、開かれた道を歩いていた。だというのに、目の前に女性が現れたのだ。


「あれ? 驚かせすぎちゃったかな? かなかな?」

「あ……」


 僕は思い出していた。確かこの人は……。


「ユリアちゃーん、久しぶりだねぇ」

「あ、えっと……序列6位の方ですよね……?」

「いかにも! 私は序列6位のシーラだよ! 気軽にシーちゃんとか、シーラちゃんとか呼んでね!」

「ははは……よ、よろしくお願いします……シーラさん……」



 明るいというか、能天気というか……その話し方はかなりフレンドリーなものだった。オレンジ色に近い金髪をしており、それが肩にかかる程度にまで伸びていて、ぱっと見て20代前半だろうか……まぁ女性に歳を聞くのは良くないので、さすがに言及はしないが……。



「そっちの子は、シェリーちゃんだね?」

「あ……はい。シェリー・クレイン。階級は少尉です」

「にしし、可愛いね〜。ユリアっちも隅に置けないね〜、このこの」



 と、肘で体を突かれるが……隅に置けないとはどういうことだろう? シェリーの方は少しだけ顔を赤くしているがよく分からない……。



「さて、二人ともよく来たね。先に宿舎に荷物置いて来てよ。もちろん、案内は私がするよー」

「「よろしくお願いします」」



 僕とシェリーはシーラさんに挨拶をすると、そのまま宿舎に向かう。



 ◇



「第六結界都市はシーラさんだけなのですか?」

「いや〜、あとでクロっちが合流するよ〜」

「えーっと、クローディアさんですか?」

「そうそう。ユリアっちも大変だね〜。こんな時に出張とかさ」

「まぁ……仕方ないですね。上からの命令ですし」

「それにしても……ベルっちの推薦した子がこんなに可愛いなんて予想してなかったな〜」

「え……えっとその、恐縮です……」

「ふふ、シェリーちゃんは可愛いねぇ」



 現在は3人で食堂で話をしている最中だ。午後からの黄昏の遠征に僕とシェリーも同行する予定なのだが、思ったよりも早く到着したのでこうしてここで少しばかり時間を潰しているところだ。



「……ユリアっちは誰だと思う?」

「え?」

「例の件……だよ」

「……」



 今までは明るい雰囲気で話していたが、シーラさんの口調は鋭いものになる。やはり……誰もがあの件を気にしているのだろう。



「僕にはさっぱり……まだ帰って来たばかりで、軍のことも、特級対魔師の皆さんのこともよく分かりませんから」

「そう……だよね。ユリアっちには荷が重い話だよね〜」

「シーラさんは見当がついているのですか?」

「んにゃ。全然。特級対魔師になって結構経つけど、自分たちの中に裏切り者がいるなんて考えたこともなかったし。それに他の全員とは一緒に黄昏で戦った仲でもあるから、それなりに信頼はしてたよ。それがこうして疑うことになるなんてね〜。あ、シェリーちゃんはどう思う?」

「え? 私ですか?」

「うん。特級対魔師以外の意見も大切だしね」

「えっと……大まかなことしか知りませんが、特級対魔師か王族か軍の上層部の中にいるという考えですが……特級対魔師が一番確率が高いと思います」

「どうしてそう思うの?」

「特級対魔師や他の一級対魔師を閉じ込めた結界。それはおそらく、かなりの技量が必要とされます。それが可能なのは特級対魔師だと考えるのが道理ですが……それもまた、相手の罠なのかもしれませんね……すいません、お役に立てずに……」

「あ〜、違うよ〜、シェリーちゃんは何も悪くないよ〜。ごめんね、お姉さんが怖い口調でそう聞いちゃったから〜。ほら、よしよし」

「……」


 シェリーは隣に座っているシーラさんに頭を撫でられて顔を少しばかり赤くしている。



 シェリーの話は僕も考えたことがある。確かに、特級対魔師の中にいると考えるのが合理的だ。でもそれは誰でも思いつくことである。さらに裏をかいて別にいる……という可能性も捨てきれない。それに……例の件も気になっている。



「シーラさんは、変死事件のこと聞いてますよね?」

「うん聞いてるよ〜。でも、変だよね。全くの無傷なのに、血液とそれに臓器もないなんて」

「裏切り者のせいなんでしょうか?」

「そう考えるのが一番妥当かもね〜。タイミングばっちりすぎるし〜。でも、今は隠れるべき時期。あえてそうしているのか、それともそうせざるを得なかったのか……はぁ……嫌になるね」

「そうですね……」



 こうして話しているも、僕はシーラさんもまた疑う必要があるのだ。極論を言えば、僕は自分自身以外を信頼できない状況だ。エイラ先輩、シェリー、ソフィア、それにリアーヌ王女に、ベルさんなど……全員は違うと思っているが、それは僕が勝手にそう思い込んでいるだけだ。全員が裏切り者ではないという証拠はないのだ。リアーヌ王女は独自に色々と探っているみたいだけど、僕は本当の意味で心から信頼できる相手がいない。


 なぜなら、僕が戻って来たのはつい最近のことで、今の人間関係が構築されたのは後になってからだ。裏切り者が以前から潜んでいて、僕に近寄って来ている可能性もある。本当に……嫌になる。親しくしていて、心から信じたいのに、疑う必要があるなんて……。



「……あ、そろそろ時間だね。二人とも、準備はいい?」

「「はい」」



 シーラさんにそう言われて、僕とシェリーはブリーフィングルームへと向かうのだった。結局、僕たちは何も分かっていないまま前に進むしかないようだ。

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