命と数字
ピラミッドの中で目を覚ます。
また墓の中で寝てしまった。意外と寝心地がいいのが負けた気分になる。
昨日、あれから結構遅くまで対応していたからな。そのせいでよく眠れたと思っておこう。
こちらの思惑通り、シシュティ商会はダンジョンを管理する能力がないと判断された。偶然近くに訪れていた遺跡機関の職員達がいて、即決したそうだ。
ここ最近のシシュティ商会は、メイド達がほぼ全員撤退していたし、魔族達も離れた。金はあっても武力面に不安があると言う事で即座に決まったようだ。
そしてこれまた偶然近くにいたヴィロー商会の商人が管理を名乗り上げた。当然金銭的に不安があるヴィロー商会だが、なぜかお金がいっぱいあった。それに武力面も多くの冒険者を雇っているらしい。しかも、復興支援という事で相当なお金をこの町、ラオザルに提供したそうだ。
……自分で思っていてアレだ。偶然なわけがない。アビスが遺跡機関に根回しした結果だ。ヴィロー商会のお金も私のお金を使ったのだろう。
「フェル様のお金が結構あったので、計画を前倒しして進めました。ちなみに他のダンジョンも似たような状況になっています」
顔は見えないが、多分、ドヤ顔で言ってる。人界中のダンジョンで魔物暴走が発生し、そのほぼすべてでシシュティ商会は防衛できなかった。当然、アビスが起こしたものなので、被害らしい被害はない。あったとしても、ヴィロー商会が私のお金を使ってフォローしているから何の問題もないとのことだ。
これでシシュティ商会はすべてのダンジョン管理を放棄せざるを得なくなった。残念ながらヴィロー商会も全部のダンジョンを管理することはできない。
このピラミッドとか、もともとヴィロー商会が所有していたダンジョンだけを管理するように手続きをしているところだそうだ。他のダンジョンは国が管理することになるだろうとアビスは言っていたな。
そしてシシュティ商会は大きな利益を生み出すダンジョンがなくなった。
落ち目と見たのだろう。それにシシュティ商会は色々と横暴なところがあった。金や武力で物を言わせていたので、一緒に甘い汁をすすっているような奴ら以外は擁護することもない。色々な場所でシシュティ商会と縁を切ろうとしているそうだ。
状況の変化が早すぎないか、とアビスに聞いたところ、「メイドギルドを使って、シシュティ商会が危ないという情報を流しましたので」としれっと言ってきた。メイドギルドが絡んでいると言う事で、思い切り納得してしまった。
アビスが言うには、シシュティは巻き返しを図ろうと、迷宮都市に集結しているらしい。市長選に勝ち、アビスを管理する権利と迷宮都市を手に入れれば再起できると考えているそうだ。
そして不死教団。どうやら聖人教の中にいるらしいとメイドギルドが報告をあげてきた。さらに勇者協会とかいう組織を操っているとのこと。どうやら勇者協会というのは勇者バルトスと賢者シアスが作り上げた組織らしい。
アイツらの仕業じゃないんだけど、また私に迷惑を掛けるのか。アイツら本当は最後まで魔族が嫌いだったんじゃないのか? 怨念のようなものを感じる。気持ちは分かるけども、一応手打ちになったんだから大人しくしてほしいものだ。
まあいい。それは今度聖都にいったら解決すればいい話だ。今日は闘神ントゥを起こすことに力を注ごう。
準備をして部屋を出ると昨日モニターを展開していた部屋に出た。そこにはドゥアトがいて、なにやら忙しそうにしている。
「ドゥアト、おはよう」
「……おはよう。私にも挨拶をするんだな?」
「それくらい礼儀だろうが。で、忙しそうにしているがどうした?」
「昨日、色々あったからな。思ったよりもダンジョンの破損が激しい。魔物の発生を抑えて修復に魔力を使っている」
昨日の戦略魔道具は確かにかなりの威力だった。石造りのダンジョンだが、色々な装飾が削れてしまったのだろう。
「シシュティの奴らめ、アイツらは最後まで碌な事をしない。アイツらが最初にここを管理した時にどうしたと思う? 壁を削ったんだぞ? この完璧な模様に傷をつけるとは……思い出しただけではらわたが煮えくり返る」
シシュティ商会が嫌いな理由ってそれなのだろうか。アビスも作ったダンジョンにこだわりがあったみたいだし、ダンジョンコアってそう言う物なのかな。ヴィロー商会にもちゃんと言っておこう。
「私はこれから闘神ントゥのところへ行ってくる。ここは任せて大丈夫なんだよな?」
「もちろんだ。むしろ、私がそっちに付いていけないことが申し訳ないのだが」
「場所はアビスに確認するから大丈夫だ。むしろ、こっちを早めに対応してもらって、ヴィロー商会の利益になって貰わないと困るからな」
「もちろんだ。百年前よりもさらに栄えたダンジョンと町にして見せる。アビスに負けてなるものか」
切磋琢磨、なのだろうか。まあいいけど。
その後、ドゥアトが私をピラミッドの外へ転移させた。ピラミッドの北側だ。
よし、闘神が埋まっているところに向かうか。
アビスのナビゲートで闘神ントゥのいる場所へやって来た。
でも、到着してから思った。もしかしてこれを掘り出すのか?
「アビス、地中に埋まっているのを掘りだすのにいい方法はないのか? さすがに一人で掘り出すのは無理なのだが」
『ご安心ください。そんなこともあろうかと、砂を操る球体を近くに埋めておきました。ントゥが使っていた球体を改良したものですね。それを遠隔操作しますので、少々お待ちください』
「さすがだ。じゃあ、私は見ていればいいのか?」
『大丈夫だとは思いますが、途中で球体の魔力が切れたら補充してもらえますか?』
「それくらいならお安い御用だ。早速始めてくれ」
そう言うと、地面が少し振動を始めた。それが徐々に大きくなり、砂の中から球体が浮かび上がった。直径二メートルくらいの球体だ。
それが周囲の砂を巻き上げている。それが砂の竜巻の様になって、別の場所へ砂を移しているようだ。
遠くから見ている分にはなかなかの迫力だ。近寄って砂まみれになるのだけは避けたい。できるだけ近づかないようにしよう。
三十分ほど経っただろうか。砂の竜巻がなくなった。
『闘神ントゥの本体が見えました。中へ入れる扉も見えています。いつも通りお願いできますか?』
「分かった。早速対応しよう」
闘神ントゥの本体である球体に近づく。入り口の近くに私の手を認識する装置があった。そこに手を近づけると、扉が自動的に開く。
中は暗いが小さな明かりはある。中に入っていつもの箱を探した。
箱はすぐに見つかり、いつもの通り、箱を元に戻して起動を行う。そして壁から紐を取り出し、小手につなげる。これで私のやることは終わりだ。
部屋の中が徐々に光だした。小さい振動音が聞こえる。
「目を覚ましたか?」
『随分と眠っていたようだ。少し待ってくれ。アビスからの情報を確認している……どうやら色々な事があったようだな』
「聞きたいことは一つだ。イブを倒すために協力してくれるか? ダメならまた眠らせるつもりだ」
闘神ントゥの砂を操る球体は三つとも壊されている。本体の球体にも移動能力はあるようだが、それだけだ。それにいまは球体の中にいるからな。もし戦いになったとしても勝てるだろう。
『もちろん手を貸そう。創造主を殺したのは我だが、そうさせたのはイブという奴ならその報いを受けさせないと気が済まない。それに――』
ントゥが言葉を切った。どうしたのだろう?
「それに、なんだ?」
『アビスからの情報で分かった。創造主から息子のように思われていたのは本当だったのだろう。オルドが推測で言っていた通りだったのだな』
オルドか。ヤトと同じく獣人達の英雄の一人として挙げられている。結局、最初の一回だけで、それ以降戦う事は無かったけど、会うたびに戦えってうるさかった。最後に会った時は「儂が寿命で死ぬとはな」とか言ってたな。
オルドはアンリの王位簒奪の時も戦いに参加していたし、戦いの中で死にたかったのかもしれない。まあ、寿命で死ぬ方が偉いんだぞ、と言ってやったら、笑ってたな。懐かしい思い出だ。
『頼みがある。手助けする代わりと言ってはなんだが、イブを倒した後は我も破壊してくれ』
「何を言ってる?」
『さっきも言ったが我は創造主を殺した。それは許される罪ではない。それに我はいざという時に人族を間引きするための管理者だ。今の人界に我は不要。ならば、存在する必要もない』
ネガティブな奴だな。だが、そんなことをしてやるつもりはない。
「お前は眠る前に魔王様から人族や獣人達がただの数字でないことを考えるように言われたのだろう? その答えがもう出ているのか?」
『追放された創造主のことは覚えていないが、それを考えるべきという事は覚えている。その答えはまだでていない。だが、ただの数字で表現してはいけないのだろうという事は何となくわかる。命とは尊いものなのだろう?』
「その通りだ。そこまで分かっていて、自分は壊れようとしているのか?」
『……それは我にも命があると言っているのか?』
「それ以外にどういう意味がある? そんな分かり切った答えを言わせるな。恥ずかしいだろうが」
『……そうか、我にも命があるのか』
管理者とかダンジョンコアって頭がいいはずなんだけど、たまに頭悪い。もっと常識を学んで欲しい。
「とりあえず、理由は分かったな? 事が終わってもお前を壊すつもりはない。壊れたいからと言って暴れたりするなよ?」
『ああ、もうそんなことは言わないし、暴れたりもしない。お前の――いや、フェル様のために戦い、そして生き続けよう』
また様付だ。普通にフェルでいいんだけど。ドゥアトを見習ってほしいところだ。だが、これで四柱が味方になった。あとは女神と機神の二柱。
次は女神かな。近いのは機神だが、ロモン国に用事がある。
メイドギルドのおかげで不死教団の情報が手に入ったから、早速アプローチをかけないとな。
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