二人の王

 

 二時間ほどで城下町にいたゴーレム兵は一掃された。


 それなりにゴーレム兵はいたようだが、簡単に対処できたようだ。おそらくミトル達が強いのだろう。それに、ここまで来るのにかなりゴーレム兵を倒していたようだし、効率的な方法を知っているのかもしれない。


 アンリ達と共にゴーレム兵のいなくなった町を城の方へ歩いた。残すは城の中だけだ。


 トランの王都というのは、金属でできた家が多いな。木とかレンガとかと比べると強度はありそうなんだが、なんかこう冷たい感じがして嫌だ。あまり住みたいと思わない。


 そんな街並みを眺めながら、ジェイに城の話を聞いた。


 ジェイの話では城の中には多少のゴーレム兵しかいないそうだ。


「なんで城の中の方が少ないんだ? そもそもお前達が外へ来ているのもおかしいよな? 護衛ってそばに居ないと意味ないと思うが?」


「……えっと、レオちん、どういうことかな?」


 ジェイには難しかったようだ。ジェイは私の質問をレオに振った。


 レオは歩くことと話すことくらいはできるくらいに直っている。アビスのところで休んでいても良かったのだが、ジェイと一緒にいるといって付いて来た。


 ジェイに話を振られたレオは少しだけ考えるそぶりをしてから口を開く。


「護衛の仕事は俺達の役目だった。ここで戦った後、魔石を別の体に入れると聞いていたが、ジェイの話では、それは嘘らしいな。しかも、俺達の魔石はトラン王に食わせるとか」


「この耳でしかと聞いたよ。それに裏切ろうしたら私達の魔石を狙って来たんだよね。だから間違いないよ!」


 確かにジェイやレオを襲おうとしていた。襲ってきた奴らはアビスが直している最中だから今は意識がない。詳しい話を聞けないだろう。


 レオは「だとすると……」と言って腕を組んだ。


「もう護衛は要らない、と言うことなのだろう。おそらくだが、トラン王は強くなったということだ。それこそ俺達が必要ないくらいにな」


「トラン王はそんなに強いのか?」


「トラン王は魔素の体を持っている。身体的に言えば相当強いだろう。そして魔石を使った知識や技術の継承ができるようだ。もしかすると、私達とは別の魔石をすでに食べた、という可能性はある。それに――」


 レオは何かを言いかけたが、喋るのを止めてしまった。言うべきかどうか迷っている感じだろうか。


「言いにくい事なのか?」


「……いや、どう思うか分からなかったので躊躇してしまった。言っておくべきだろうな」


 レオはいったい何を言う気なのだろう。


「ゴーレム兵達は常にデータの収集や解析を行っている。その情報はトラン王に届く様になっているんだ。つまりゴーレム兵は例え負けても戦えば戦うほどトラン王は情報を得て強くなるわけだ。ここまで来るのに何万体ものゴーレム兵を倒しただろう? 全ての戦いが有益な情報になったかは分からないが、知識や経験はかなり手に入れているはずだ」


 厄介極まりないな。魔素の体に、ゴーレム達の戦闘経験まで手に入れているのか。


「だが、ジェイのおかげで俺達の魔石は食われていない。その分は弱体化したと言えるんじゃないか?」


「うっそ、私ってばまたファインプレー? やばい。きてる、私、超きてる。今日のラッキーカラーに間違いはなかった!」


 言い方にイラッとするが、ジェイの功績といえば功績かな。ジェイの格闘術とか、レオの剣術とかの知識を得られていたらかなりヤバかったはずだ。


 だが、おそらくアンリの戦い方とかはゴーレムを通して情報を取られているだろう。手の内をどれくらいばらしているかが気になるな。


「アンリ、ゴーレム兵と戦ったか?」


「もちろん戦った。今日は戦ってないけど、町を解放するときは私がいつも一番槍」


「大将が一番槍をするなよ」


 ウロボロス内で魔物暴走が起きた時は、私もよくやったけど。そういえば、ヤトといつも一番槍を争っていたな。


 おっと、そんなことはどうでもいい。こっちに集中だ。


「アンリ、お前の戦い方は弟のダズマに知られている可能性が高い。戦うときは気を付けろよ?」


「ゴーレム兵と戦った時は常に力をセーブしていたから大丈夫だと思う。私をいままで程度の強さだと思っているなら、弟は一瞬で終わる」


 随分と自信があるようだが、調子に乗っていると言う感じじゃなさそうだ。これなら期待できそうだな。


 そんな話をしていたら、いつの間にか城の入り口に到着した。


 城の周りにはかなり深そうな堀があり、城の入り口へ行ける跳ね橋は上がっていた。


 どうしたものかと考えていたら、跳ね橋が下がって来た。


 入ってこいという意思表示なのだろうか……いや、違うな。スザンナが跳ね橋を入り口の方から歩いて来た。どうやらスザンナが城の内部から跳ね橋を下げたようだ。


 見てなかったけど、水竜に乗って城を囲っている城壁の内側へ入っていたのだろう。


「言われた通り跳ね橋を下げて来た」


「ありがとう、スザンナ姉ちゃん」


 アンリはそう言ってから、この場にいるメンバーに色々と指示を出した。


 どうやらアンリは王位の簒奪だけではなく、トラン国民の解放も同時に行うらしい。


 アビスの調査でトラン国民が閉じ込められているのは城の地下だと分かっている。アンリはそちらの解放に何人か人を割いたようだ。


 でも、いまさらながら疑問に思う。トラン国民を全員収容できるものなのか? 詳しくは知らないが、国なんだから百万人以上いるよな?


『アビス、城の地下にトラン国民が全員いるのか? その、多すぎるだろ?』


『地下は疑似永久機関でできている上に、機神ラリスの拠点です。おそらく博士とやらが、地下のフロアを拡張したのでしょう。閉じ込めるだけなら可能ですが……どれほど生き延びているかは分かりません』


『……そうか。ならアビス。お前も地下の方へ行ってくれないか? お前の知識が色々と役に立つと思う。それに機神ラリスの状況も確認しておいて欲しい』


『なるほど、分かりました。すぐに向かいましょう』


 アンリにも地下へはアビスを連れて行って欲しいと頼んだ。アンリも元々お願いする予定だったらしく、アビスは問題なく地下へ行くチームに割り振られた。


 次に王位簒奪のチームが決まった。


 アンリ、スザンナ、村長、アンリ父と……よく見たら畑仕事をしてる皆だ。顔が半分近く隠れているヘルメットだったからいままで気付かなかった。


「なんでここにいるんだ? 最近見ないと思ってたらこんなところにいたのか」


「いや、俺らの本職はこっちなんだよ。一応トラン国の親衛隊隊員だったんだぞ?」


 そうだったのか。畑仕事と猫耳が好きなだけの奴らだと思ってた。あの頃からずっとアンリを守っていたって事かな。それはともかく信頼できるメンバーであることは間違いない。


 メンバーは十分だろう。私が手を出さなくても大丈夫な気はする。でも、念のため私も連れて行って貰おう。見届け役をしないと。


「アンリ、私も付いて行っていいか?」


「もちろん。こっちからお願いしたいくらい」


 決まりだ。アンリに同行しよう。いざとなったら守ってやらないとな。


「私達は行かないよ? 変に近づいて魔石を食べられたら困るし」


「そうだな、この体では戦うこともままならん。ここで大人しくしている。俺達を危険だと思うなら強い奴に見張らせてくれ」


 ジェイとレオの言うことはもっともだろう。アンリもその意見には同意して、ミトル達に見張りを頼んだようだ。


「皆、行こう。この先に弟がいる」


 アンリが跳ね橋を渡りだした。皆もそれについていく。


 跳ね橋を渡り、その先の広場を通った。そして城の入り口から中へ入る。


 城は石造りだ。町のように金属でできてはいない。こっちの方が何となく好きだが、埃っぽいな。掃除をしていないのか?


 ふと、親衛隊に護衛されているアンリを見た。アンリはここで生まれたのだろう。でも気持ち的には初めて来た気分なんだろうな。


 懐かしいと思う事はないだろうし、特に感情はないのかもしれない。でも、アンリが装備しているフルプレートの足音が何となく弱気になっている気がする。得体の知れない恐怖とかを感じているのだろうか。


「アンリ」


 何となく呼び止めてしまった。最後を歩いていた私を全員が振り返って見つめる。


「その、なんだ。皆がいるんだからそんなに緊張するな。アンリにとって信頼できる頼もしい仲間達だろ? 不安に思う事なんて何もないぞ?」


 そう言うと、アンリは驚いた顔になってから、一度深呼吸をした。そして笑顔になる。


「ありがとう、フェル姉ちゃん。落ち着いた。今の私なら神でも殺せる気がする」


「一応、私も魔神って名乗ってるから、試さないでくれよ?」


 そう言うと皆が笑い出した。どうやら全員緊張していたようだな。顔つきが少し緩んだようだ。少々気負い過ぎだったからちょうどいいだろう。


 アンリが皆に頷いてから、また歩き出した。


 長い廊下を歩き、豪華な扉の前に着く。どうやらここが玉座の間らしい。


 両開きの扉を親衛隊の二人が押し開けた。


 部屋の中はそれなりに広い。奥行きは百メートルくらいあるだろうか。その一番奥には人族と思われる奴らが三人いた。


 玉座に座っている男がアンリの弟、ダズマなのだろう。


 ダズマを正面に左側に立っているのは煌びやかな黒い服を着ている女性、おそらくダズマの母であるラーファ。そして右側には白衣を着た男がいる。見た目は村長と同じくらい。これが博士か。


 アンリは何も気にせず歩き出す。そして玉座の二十メートル手前あたりで「控えよ」と声が聞こえた。女性の声だからラーファが発言したのだろう。


「王の御前である。頭を下げよ」


 アンリは立ち止まるが頭は下げない。ずっとダズマの方を見たままだ。


「何をしておる。目の前にいらっしゃるのはトラン王じゃ。頭を下げるのは当然じゃろう?」


「なら早く頭を下げるといい。私がトラン王なのだから跪け」


 アンリは自分がトラン王だと宣言した。さて、どうなるかな。

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