三年ぶりの帰宅
転移門を開き、帝都からアビスの中へと戻って来たわけだが、なぜか傭兵団の一人であるレイヤが一緒について来た。私だけでなく、アンリとスザンナも驚いているようだ。
別に駄目だと言う話じゃない。でも、なんでいるのだろう?
最初に動いたのはスザンナだ。不思議そうな顔でレイヤを見ている。
「レイヤ、どうしてここに?」
「も、申し訳ありません! 実はクル隊長からお二人に付いていくように言われておりました! 一緒の馬車に乗せてもらう予定だったのですが、急に現れた門にお二人が入ったため、慌てて付いて来たのです!」
この前の話し方とは違って、恐縮しているような話し方だな。立場的にはアンリやスザンナの方が上なのだろうか。
「そんな話は聞いていないけど、どうして付いて来るように言われたの?」
「クル隊長が言うには、私をアビスというダンジョンで修行させることが目的だったようです。他にも、アンリ様やスザンナ様に何かあれば助けるように、と言われております!」
アビスでの修行か。そういえば、クルも昔、修行としてアビスに籠ってたな。
「そう……フェルちゃん、別に構わない?」
「ん? 何がだ?」
「レイヤが付いて来たこと。追い返す?」
レイヤがぎょっとした目でスザンナを見る。その後、私の方へすがるような目をしてきた。
レイヤには寮で色々面倒な状況にされた。とはいえ、あれはアンリの身の安全を守るための行動だろう。事実、ジェイが私の恰好をして寮に来ていた。ああいう対応された時はイラッとしたけど、当然の処置だった様な気もする。
それに追い返すと言っても転移門は明日以降じゃないと開けない。馬車で帰すのも悪い気がする。
「問題を起こさないなら別に構わないぞ。まあ、事前に話をしておいて欲しかったけど」
「す、すみません。サプライズを演出しようとしたら、こちらが驚いてしまいまして……」
確かに転移門を初めてみたら驚くだろう。私は使い慣れていたからそのことを考慮してなかった。今後は使う場所をちゃんと考えないとな。
「フェルちゃんがいいと言うなら問題ない。なら一緒に行動しよう」
スザンナの言葉にアンリも同意した。
「うん、ダンジョン攻略の時と同じパーティーだから安心。アビスを攻略するのもいいかも」
「は、はい! スザンナ様、アンリ様、よろしくお願いします!」
どうやら話はまとまったようだ。よし、村長のところへ連れて行くか。
『アンリ様、スザンナ様、お久しぶりです』
アビスの声がダンジョン内に響いた。心なしか嬉しそうな気がする。
「うん、アビスちゃん。久しぶり。最近は念話してなかったけど元気だった?」
『はい、それはもう元気です。それといつもダンジョンの情報を送ってくれてありがとうございます。いいデータが取れました』
「こっちもダンジョン攻略の情報を貰ってるからお互い様。しばらく滞在するから、また来るね」
『はい、お待ちしております。外へ転移しますか?』
「うん、お願い」
アンリがそう言った直後、いきなり視界が変わりアビスの外にいた。
アビスの入り口で手続きをしている冒険者達がこっちを見て驚いている。騒ぎになる前に村長の家に行こう。
「アンリ、スザンナ、それとレイヤ。村長の家に急ぐぞ」
アンリとスザンナは頷くと、歩き出した。ただ、レイヤは放心状態だ。
「あ、あの、フェルさん、これって一体……?」
「説明が面倒だから後でアンリ達に聞いてくれ。まずはアンリの家に行くぞ」
「は、はぁ……」
放心気味のレイヤを連れてアンリ達に追いつく。広場に到着したアンリ達は周囲を見渡していた。
まあ、三年ぶりだからな。色々と変わっているから驚いたのだろう。私なんか一ヶ月町を空けただけで結構驚く。
「ニャントリオンが大きくなってる……そうだ。支給されている防具だと防御力がいまいちだから、ディア姉ちゃんに何か作って貰おうかな?」
「アンリは防具なんていらないでしょ? ダンジョンで攻撃が当たったのを見たことない」
「慢心は良くない。それなりの防具で身を固めるべき……でも、それなら、グラヴェおじさんに頼んだ方がいいかな? ニャントリオンは革製品しかないから、本格的な鎧はそっちの方がいいかも知れない」
そんな事を言いながら、広場を横切り、村長の家についた。
「えっと、話はまとまっているな? 二人で違ったことは言うなよ?」
「うん、大丈夫。クル隊長が悪いことになった」
「隊長だから仕方ないと思う」
「……そうか」
哀れというかなんというか。まあ、クルが誘わなければ、アンリ達もルハラへは行かなかったと思う。きっかけを作ったのはクルだから、一番の責任はあるかもしれないな。
そうだ。レイヤはどうしよう。いきなり村長に会わせていいのだろうか。
「レイヤはどうする? 宿が必要なら案内してやるが?」
「えっと、どうしましょう?」
それを私が聞いたのだが、特に何も考えてなかったようだな。
「それならレイヤ姉ちゃんもおじいちゃんに紹介する。同じ傭兵団の同僚として」
「異議なし。しばらくは一緒に行動するだろうから早めに村長へ紹介したほうが手間が省けていい」
「あ、ありがとうございます!」
「そうか、なら四人で入ろう。私も仕事を終えた報告をしないといけないからな」
とりあえず、私が先頭に立って、村長の家に入った。
「村長、いるか? アンリ達を連れて来た」
私が入った後に、アンリとスザンナが「ただいま」と言って入って来た。三年ぶりの帰宅でもアンリにとっては何も変わらないのだろう。自然体というか、物おじせずに入って来た
アンリ達の後には、レイヤが小さい声で「お、お邪魔します」と言った。
家の中では村長達が立ったまま出迎えてくれた。
村長は笑顔になると、アンリとスザンナを見る。
「おかえり、アンリ。それにスザンナ君」
「うん、おじいちゃんただいま」
「ただいま帰りました」
村長はアンリを抱きしめた。今や村長とアンリは同じくらいの背だ。
「アンリ、よく無事だったね。それとスザンナ君、ありがとう。アンリを守ってくれていたのだろう?」
「アンリは強いから自分で身を守れる。私は大したことをしてない」
「それでもだ。本当にありがとう……ところで、そちらの方は?」
村長はアンリから離れると、レイヤの方を見た。その視線に反応するように、レイヤは敬礼をする。
「初めまして! 傭兵団『紅蓮』の団員でレイヤと言います!」
「私とスザンナ姉ちゃんの同僚。傭兵団の中でダンジョン攻略のパーティーを組んでる」
「ああ、そうでしたか。アンリの祖父です。いつもアンリ達がお世話になっております」
「い、いえ! お世話になっているのは私の方でして……その、頭をお上げください!」
レイヤは慌てていたが、それぞれの自己紹介は終わったようだ。
そして村長がこちらを見る。
「フェルさん、ありがとうございます。アンリを無事に連れ帰ってくれて助かりました」
「私は迎えに行っただけでほとんど何もしてない。そこまで礼をしなくていいぞ。それじゃ私は宿へ戻る」
仕事が終わったので宿に戻ろうとしたところ、村長に止められた。
「何を言うのですか、沢山の料理を用意しておいたのです。フェルさんも是非食べて行ってください」
「アンリとは久しぶりだろ? 部外者が居ていいのか? 家族の団らんを邪魔する形になると思ったから帰ろうとしたのだが」
スザンナはともかく、私とレイヤは遠慮した方がいいと思う。積もる話もあるだろうしな。
「部外者なんて水臭い事を言わないでください。フェルさんも食べるのを見越して料理を用意しているのですから、食べてもらわないとこちらが困ります」
村長がそう言うと、アンリの母も笑顔で頷いた。そこまで言われたなら仕方ないな。
「分かった。それなら頂こう。手加減はしないぞ?」
その後、昼まで時間があったので、アンリがこの三年間何をしていたかをスザンナと一緒に説明していた。念話でも村長に連絡はしていたはずだが、面と向かって言うのとでは色々違うのだろう。
村長達はそれを頷きながら聞いている。顔は嬉しそうだが、少しだけ目に涙を浮かべていた。
アンリ達の説明は途中だったが、お昼の時間になった。その時間を見計らい、アンリ母がテーブルの上に大量の料理を用意している。料理には気を使ったのだろう。アンリの嫌いなピーマンが一つもない。
「さあ、皆、たくさん食べて。おかわりもいっぱいあるからね」
「うん、お母さんの料理は久しぶり。喰らい尽くす。いただきます」
「いただきます」
「で、では、私もいただきます」
皆が笑顔で料理を食べている。私も食べよう。仕事を終えた後の料理は五割増しで美味しい。それに皆の笑顔は料理をさらに美味くしてくれるはずだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます