戦乙女部隊

 

 転移門を通り、デュラハンが管理している古城へやって来た。


 振り返るとまだ転移門が残っている。だが、少しずつ塞がっていき、最初から何もなかったかのように空間の歪みがなくなった。


 門を開いておける時間は十分程度だ。その間なら何度でも何人でも行き来可能だが、あまりギリギリで通り抜けるのは止めよう。通り抜ける途中で門が閉じたりしたら、なんかスプラッタな事が起きる気がする。危険は冒さない方がいい。


 周囲を見渡すと、相変わらず幽霊が出そうな部屋だった。


 古城を作り直すこともできるくらい稼いだはずだが、この城は古いままにしているらしい。雰囲気を大事にしているとか言ってたけど、凝り過ぎじゃないだろうか。本棚に蜘蛛の巣とかいらない。掃除して欲しい。


 転移用の部屋を出て、デュラハンのいる玉座の間へ向かった。


 どうやらジョゼから連絡を受けていたらしい。驚くこともなく普通に挨拶された。それとルハラまで馬車を用意してくれたらしい。アンデッドの馬とかじゃなくて、ちゃんとした馬のようだ。


 馬車を使うほどの距離じゃないけど、せっかくなので使わせてもらうことにした。アンリ達の事だ。何かしらあるに決まってる。体力は温存しておこう。


 馬車に乗ると、帝都へ向けて動き出した。馬はアンデッドじゃないけど、デュラハンが御者をするのは聞いてなかった。古城の管理を任せてるのに、することがないのだろうか。


 馬車の窓から外を見る。ルハラに来るのも久しぶりだ。こっちの方の遺跡はまだ調べ終わってない場所がある。というのも、ディーンがいたからあまり来たくなかったと言うのが正直な気持ちだ。


 でも、もうその心配はない。


 ウルが頑張った。頑張ってディーンを倒した。ウルも今ではお妃様だ。二、三年前に男の子も生まれている。ルハラが安泰かどうかは分からないが、後継ぎもできたし万々歳といったところだろう。


 ディーンはまだ私への気持ちはあったが、ウルの頑張る姿に心を打たれたのだろう。ウルが勝負に勝ったとしても反故にすることもできたはず。だが、それはせずにウルを受け入れた。


 ウルを娶ることになってディーンは律儀に連絡してきた。私への気持ちは決して嘘じゃないが、ウルに対しての気持ちの方が強くなったと言っていたな。真面目というかなんというか。そんな事いちいち言う必要はないが、ケジメみたいなものなのだろう。


 それと側室は取らないらしい。これからはウル一筋ですと、これまた律儀に報告してきた。正直どうでもいい。私に変なちょっかいを掛けないなら全面的に応援してやろう。


 そういえば、ロックとベルが結婚したと聞いた。聞いた話では、ロックが「結婚するか?」と聞いて、ベルが「いいよ」と言っただけらしい。酒場で。ロマンチックの欠片もない。以前は仲が悪いと思ってたんだけど、何があったのだろう。


 クルについてはルートといい感じだとアンリから聞いたことがある。紅蓮の団長であるルートと、紅蓮の戦乙女という部隊の隊長クル。いつ頃結婚するのか部隊内で賭けが流行っているらしい。


 アンリやスザンナもその戦乙女という部隊に属していると聞いた。女性だけの部隊で、主に女性の護衛なんかをよくやる部隊だとか。ただ、同じ部隊でも、アンリとスザンナはダンジョン攻略に力を入れているそうだ。


 帝都に戦乙女専用寮があるとアンリは言っていた。問題がなければアンリはそこにいるはずだ。帝都へ行ったらまずそこへ行くべきだな。




 帝都の東門に到着した。


 タイミングが良かったのか帝都へ入ろうとしている人は少ない。あまり時間をかけずに中へ入れそうだ。


 デュラハンに礼をしてから、帰りは転移するからもう大丈夫、と伝えると来た道を戻って行った。


 門番のチェックを受けて帝都へ入る。


 ルハラは魔界から来ている魔族が多いから、帝都で私が歩いていても目立つようなことはない。執事服だからどこかの魔族に仕えているのだろう程度に思われているかもしれないな。


 いま、魔界から誰が派遣されているかは分からない。でも、年寄りが多いだろう。魔界は随分と改善されたがまだまだ危険だ。歳を取ればそれだけ危険になる。なので、若い魔族は魔界に残して、年寄りを人界へ送るという暗黙の了解があるらしい。


 まあ、それは全部お任せだ。新しい魔王が上手くやってくれるだろう。オリスアの後に誰が魔王になったか聞いていないが、問題は起きていないようだし口を挟む必要はない。


 さて、帝都に着いたし、早速アンリを探そう。


 探索魔法でアンリを探すと反応があった。帝都の西だ。そこが専用の寮だと思う。早速行ってみよう。




 反応がある場所へ到着すると、随分と豪華そうな建物があった。レンガでできた五階建てくらいの建物だ。高い壁に囲まれている。これが戦乙女専用寮なのだろう。アンリの反応もこの建物の中にある。


 よく分からないが、受付は建物の中だろうか。そこでアンリを呼んでもらえばいいのかな。


 門を潜り、建物へ近づく。よく見ると、建物の入り口、その左側に受付カウンターらしき場所がある。女性がいるようだし、話を聞いてみよう。


「すまない、ちょっといいだろうか。ここは傭兵団紅蓮の施設で間違いないか?」


「はい、その通りですが、なにかご依頼ですか? こちらは戦乙女専用の施設になっておりますが、依頼の受付も行っていますよ」


 間違いないようだ。早速アンリを呼び出してもらおう。


「いや、依頼じゃない。実は紅蓮に所属している奴と知り合いなので、呼び出してほしいのだが」


「……ちなみにどなたを呼び出したいのでしょう?」


 なんだ? 一瞬、睨まれたような……?


「アンリをお願いしたいのだが」


 受付の女性は、はっきりとこちらを睨んだ。そして盛大にため息をつく。なんだその態度。


「あのですねぇ、もうアンリ様はそういう呼び出しには応じません。邪魔ですからお帰りください。門はあちらですよ」


 かなり邪険に扱われている。どういうことなのだろう?


「なんでいきなり怒ってるんだ? ここにアンリがいることは分かってる。呼び出しに応じないと言われても困るんだが」


「困っているのはこちらです。アンリ様はどなたともお会いになりません。お帰りください」


「何でだ?」


 またため息をつかれた。呆れを通り越して怒りすら伝わってくる。


「貴方もアンリ様に会いたいだけのファンなんですよね? ただ会いたいと言うだけで何度も呼び出すなんて真似をして恥ずかしくないんですか? 犯罪者として突き出しますよ!」


 何度も呼び出した? ここへは初めて来たのだからそんな事してないんだけど。


「待ってくれ、私は今日初めてここに来たんだ。何度も呼び出してない。それにアイツのファンじゃない」


「犯罪者は皆そう言うんです! 早く帰らないと本当に突き出しますよ! まったく!」


 ええ? これはどうすればいいんだ? 勘違いしているのだろうが、どうやって説得すればいいんだろう?


 そうか、村長から手紙を預かっている。これを使おう。


「アンリの祖父から手紙を預かっている。それを渡してもらえば、アンリは分かってくれるはずだ」


 封筒に入った手紙をカウンターに置いた。


 受付の女性はそれを一瞥してから、手紙をこっちへ押し返してきた。


「ラブレターですよね? そういうのも受け付けておりません」


「私は女なんだけど、アンリにラブレターを渡すわけないだろ?」


「憧れのアンリお姉さまってことで渡すんですよね? そういう子は多いんです。貴方もそうですよね? 処分するのが面倒なので持ち帰ってください」


 私の方が年上だぞ、と言いたいところだが、私は見た目が十五だからな。アンリと変わらないかそれ以下としか思われてないのだろう。


 でも、どうする?


 よし、私の名前を伝えてもらうか、もしくはスザンナを呼び出すのでもいいんだ。


「これ、冒険者ギルドのカードだ。私はフェル。アンリの知り合いだから、フェルが来ていると伝えてくれ。もしくはスザンナでもいい」


 ギルドカードを見せると、女性は鼻で笑った。


「なんですか? 『ヒヒイロカネ』? 冒険者ギルドにはそんなランクはありません。ギルドカードの偽造は犯罪ですよ? それにスザンナ様まで巻き込むなんて……見逃してあげるから早く帰りなさい」


 ヒヒイロカネ使えないな。それにスザンナもダメなのか。どうしよう。大声でも出して気付いてもらうか?


「貴方、何をしているの?」


 急に背後から声を掛けられた。振り返ると十人ぐらいの女性達がそれぞれ木製の武器を持って立っていた。


「あ、レイヤ様」


 受付の女性がそう言った。一番前にいる十代後半くらいの女性がレイヤと言うのだろう。黒髪のショートカットで背が高い。百八十くらいか? そんな女性が革製の軽装で木の剣を腰にぶら下げている。こちらを訝し気に見ているようだ。


「私はアンリの知り合いなんだ。頼むから呼んで来てくれ」


 そう言ってみると、レイヤは「ああ、そういうこと」と言って少し笑った。


「なら呼んできてあげるわ」


 おお、話が分かる奴がいて助かった。


「でも条件があるわ。私達全員に勝てるならアンリ様を呼んで来てあげる。アンリ様の知り合いならそれくらいできるわよね?」


 できるけど何でそんなことになるのだろう……そうか、私をまだ疑っているんだな。仕方ない。ぶちのめそう。

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