魔王の決意
昨日は色々あったが、今日は朝から体調がいい。
正直なところ、魔王様が眠りにつかれてしまったことや、自分が不老不死という事実にへこみそうにはなった。それにイブやセラの事もある。楽観視できることは何もない。
でも、皆が色々と気を使ってくれたから、それほど落ち込むことも無かった。成長という点で、ものすごく慈しむような目で見られたのが辛かったが、些細な事だと思う。
夕食後も色々とアビスと話をした。
魔王様はどこかの遺跡で眠りについている可能性が高いらしい。イブにも知られていないような場所で眠っているはずだから、イブよりも先に見つける必要があると言っていた。
確かにその通りだろう。イブよりも先に見つけないと何をされるか分からない。
空中庭園から逃げるとき、私ではなく、魔王様を捕まえようとしていた。もしかすると、イブが魔王様を殺そうとしていたのはポーズだったのかもしれない。イブは嘘つきだからな。本当の目的のために、魔王様を捕らえたかったということか。
魔王様がいつ、どこでお目覚めになるのかは分からない。でも、魔王様はいつか私に会いに来ると言った。
魔王様は私の事を分かってないな。私が待つだけの女だと思ったら大間違いだ。ここはヴァイアを見習って押し掛けるべき。私だって「来ちゃった」くらい言える。必ず見つけ出そう。
イブに関してはこちらに干渉して来ないだろうとアビスは予測している。
魔王様は、自分が受けたものと同じウィルスか、それ以上の物をイブにも食らわせていた。あそこにいたイブは本体ではないが、イブの本体にも影響があると魔王様は言っていた。そのことをアビスへ言ったら、イブも同じように眠りについた可能性がある、ということだ。
そもそもイブは私が絶望することを望んでいる。つまり、私を殺すような事が目的ではない、ということだ。
ただ、あくまでも憶測であり、注意は必要になる。
イブは勇者ではないので、私を殺すことはできない。だが、イブは因子を取り出すことができる。魔王の因子が無くなれば、私はタダの魔族だ。その状態ならイブも私を殺せるだろう。
セラについては分からない。イブの計画に賛同はしているようだが、どちらかというと人質を取られているような感じがする。イブが私を殺そうとしない限りはセラもそれに従うだろう。
これがアビスと意識をすり合わせた結果だ。そして、これらの事から今後の予定が決まった。
まずは魔王様を探す。
これは人界中の遺跡を調べるしかないだろう。ただ、それには注意が必要になる。
イブは私の記憶を消したと思い込んでいるはずなので、私の記憶が戻ったことがバレると、また記憶を消しに来るかもしれないとのことだ。イブの状態や思惑が分からない限り、記憶がない振りを続けた方がいいだろう。
なので遺跡の調査は従魔達にお願いすることにした。私も冒険者への依頼という理由で探しに行くことになるが、数は限られる。メインの調査は従魔達だ。色々やり過ぎる可能性があるから心配だけど、まあ、大丈夫だろう。
次は情報の収集だ。
私には知らない事が多すぎる。特に旧世界関連。色々調べることで、もしかしたらイブの思惑も分かるのではないか、という期待もある。
図書館の情報ならすべてが分かるのだろうが、消されている情報も多いだろうし、私では頭が痛くなる。それにアビスでは閲覧権限がない情報も多い。それらを調べることになるだろう。
アビスが言うにはデジタルな情報媒体ではなく、アナログな情報媒体を調査した方がいいとのことだ。よく分からないが、日記とかそういう物らしい。遺跡を調査する過程で手に入れた物を片っ端から調べることになるのだろうな。
さしあたり、魔界の魔神城に行くことにした。アビスが言うには魔神ロイドが魔族を管理していたので、そこから調べてみてはどうか、との提案を受けた。
もしかしたら、両親がなぜ殺されたのかが分かるかも知れないと思い、その提案を了承した。魔界に帰ることで、イブに気取られる可能性もあるが、魔界に行く理由はいくつか用意しているので、多分、大丈夫だろう。
最後に、もっと強くならなくてはいけない。
私はどこまでも強くなれるらしい。どれだけ強くなっても、世界規則によって勇者には絶対敵わないが、それ以外で負けることはないそうだ。
魔王の因子によって私は限界以上の力を出せるらしい。ムキムキになるわけではなく、魔力によって限界以上の力を補完してくれるとか。詳しくは分からないが、際限なく強くなれるということだろう。
イブに勝てるくらいには強くならないといけない。また記憶を消されたら困る。日記があればなんとかなるだろうが、日記自体がバレる可能性もあるんだ。そうならないためにも強くならないとな。
それにイブは色々な元凶で、両親の仇だ。必ず復讐する。
これからやるべきことは、こんなところか。
魔王様を探し、情報を集め、強くなる。
はっきり言って、どれくらいの時間が必要になるのか分からない。だが、幸か不幸か私には時間がある。必ずやり遂げて見せる。
そんな決意を抱きながら、朝食を食べて、いつもの服装に着替えた。
そして、魔王様の小手を手に取る。
アビスが言うには、これには私の使用権限が付与されているらしい。ユーザー登録されているとかなんとか。
左手にはめてみると、ちょっと大きい。だが、次の瞬間に私の手にフィットするようにサイズ調整された。金属っぽいのに凄いな。薄い手袋を付けているだけのような感触だ。
『フェル様、聞こえますか?』
アビスの声が聞こえた。念話か?
「聞こえるが、急にどうした?」
『成功ですね。フェル様がその小手を身につけたのが分かりましたので、話しかけたのです。ちなみに、念話ではなく旧世界の技術で話しかけてます』
「そうなのか。ちょっと驚いた。でも、念話でいいんじゃないか?」
『こちらの通信の方が安全です。念話のように盗聴されたり、チャンネルを奪われたりすることもありません。ただ、私との直通ですけど』
他の皆とはこれで通話できないという事か。まあ、それはいいだろう。
「そういうものか。ならアビスとの会話にはこれを使うことにする」
『はい、そうしてください。あと、私が遠隔でその小手の機能を色々使います。要望があれば言ってください』
「要望と言っても何ができるのか分からないぞ?」
『後で暇なときにマニュアルを読んでください。作っておきますので。まずはステルス機能を使います。その小手を魔王様が装備されていたのなら、イブやセラが気付くかもしれません。見えないようにしておきましょう』
アビスがそう言うと、黒い小手が透明になり、私の左手が見えた。ただ、小手の輪郭がうっすらと青い線で見える。見えないって程じゃない。
「小手が透明になって地肌が見えるようになったが、小手の輪郭も見えるぞ?」
『その輪郭はフェル様にしか見えません。他の方には輪郭も見えませんから安心ですよ。それにフェル様にも見えなくなったら、無くすかもしれませんからね』
「そういうことか。ちょっと違和感があるが、しばらくすれば慣れるだろう」
手をグーパーして感触を確かめる。はっきり言って素手とほとんど変わらない。
『ちなみにその小手はヒヒイロカネという金属で出来ていますので、かなりの強度です。壊すのは不可能なレベルですね』
「そうなのか? なら防具として使えるか?」
『もちろん使えます。自己修復機能も備えているようですし、同じヒヒイロカネの武器で攻撃され傷が付いたとしても、すぐに直ります。ですので防具として使っても何の問題もありません』
私の左手につけるグローブはあるんだけど、いつ直るか分からないからな。他の装備に浮気するのは良くないが致し方ない。
あの装備も旧世界の物だと思う。アビスにこの小手と併用できないか後で相談してみよう。
それにしても、魔王様はすごい物を渡してくれたんだな。これを残してくれた理由はおっしゃっていなかった。ただ、肌身離さず持っていて欲しいと言っていただけ。私を守るため、なのだろうか。だったら嬉しいのだが。
どんな理由があったのかは分からないが、少なくとも私を思って残してくれたのだろう。なら、それで十分だ。
よし、準備は整った。リハビリを兼ねて、今日は色々と挨拶をしにいくか。
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