違和感

 

 相手は天使じゃない。でも、制限は解除してもいいと思う。エデンにいたキマイラ相手にも解除したから問題ないだろう。


「【能力制限解除】【第一魔力高炉接続】【第二魔力高炉接続】」


 それに身体強化もしないとな。障壁は要らないだろう。多分、役に立たない。


「【加速】【加速】【加速】」


 あと、服が切れたり燃えたりするのも嫌だ。


「【状態保存】」


 最後に右手にグローブを装備して、と。これで良し。あとは相手の出方しだいだけど、どんな攻撃をしてくるのだろうか。


「能力向上を確認……セキュリティレベル向上……使用武器レベル最大まで解放」


 また変形した。今度は翼が生えて、尻尾が伸び、首が三つに増えた。体長は変わらない。大体、二メートルくらいか。普通のドラゴンよりもかなり小さい。


 相手はやる気だ。先手を譲る必要もないだろう。ここは先制攻撃だ。


 ドラゴンの真横に転移して右ストレート。障壁があったようだが気にせず貫く。


 鈍い音が響いた。だが、ドラゴンは全く動じていない。一応金属の体がちょっとへこんだか? 本気で殴ったんだけど、固すぎるだろう。


「破損率二パーセント……自動修復起動」


 そんな声が聞こえてくるとへこんだ部分が元に戻った。おいおい。


 ドラゴンは体ごとこちらに向き直し、三つの首が同時に口を開けた。口元に何か光が集まっているようだ。多分、危ない。


 ドラゴンの背後に転移する。すると、私がいた場所へ三本の光線が絡まりながら回転して攻撃した。ものすごい熱量のある攻撃のように見える。捕縛ってなんだろう? 絶対に殺しに来てる。


 でも、チャンス。今の攻撃はモーションが大きすぎて隙だらけだ。再度ドラゴンの横へ転移して右ストレート。それから連打。


 ……結構殴ったんだけど、ドラゴンの体はちょっとへこむ程度だった。そしてまた修復が始まる。これは一撃必殺でやるしかないな。


「【ロンギヌス】」


 ギミック発動。胴体に風穴を開けてやる。


 ドラゴンの尻尾攻撃を躱しつつ相手の死角へ転移。食らうがいい。


 渾身の右ストレートを放った。ドラゴンの胴体に穴が開いて、床を転がりながら吹っ飛んだ。さすがのドラゴンも胴体に穴を開けられては動けまい。


「破損率八十パーセント……急速自動修復起動……修復まで三分」


 三分で元に戻るってことなのか? なんてデタラメなんだ。仕方ない、追撃しよう。


 ドラゴンの近くに転移して再度殴りつけようとしたが、首や尻尾に邪魔された。くそう、次にロンギヌスを撃つにはちょっと時間が掛かる。改めて魔力を貯めないと打てないのが玉に瑕だな。


 さて、どうしよう。私の一番破壊力のある攻撃はロンギヌスだ。それ以上のものはない。それを上回るだけの威力を何とか出さないと同じことの繰り返しだ。


 とは言っても、いきなり破壊力を上げるようなマネは魔法の筋力強化くらいしかない……そうだ。ゾルデのマネをしよう。


 それにはコイツの翼をなんとかしないと。飛ばれたら意味ないからな。よし、まずはドラゴンが体を修復している間にグローブに魔力を貯めよう。後は私の馬鹿力を見せてやる。


 どうやら魔力が溜まる前にドラゴンの方が動けるようになったようだ。三つの首がこちらを見ている。そして飛び上がった。


 逃げる、というわけではなさそうだ。空中を旋回しながらこちらを見ている。


 いきなり急降下してきた。足が変形して針のようにとがる。刺す気か?


 その攻撃を転移で躱す。直後に甲高い音が響いた。床に足の針が当たったようだ。それなりの衝撃だと思うが、ドラゴンはそんなことを気にせずまた上空へ上昇する。今度は飛び回らずに同じ場所に浮いているようだ。


 翼が動いていないのにどうして浮けるのだろうか? もしかしてヴァイアが作った魔道具みたいに重力遮断をしているのかな? それだと翼をもぎ取っても意味ないんだけど……まあいいか、やってみれば分かる。


 ちょうど魔力が溜まった。もう一度食らわせてやる。


 ドラゴンはまた三つの口を開いた。そこに光が集まる。よし、チャンスだ。


 光線が放たれる寸前に空中にいるドラゴンのさらに上空へ転移。


「【ロンギヌス】」


 とりあえず右側の翼に穴を開けてやる。


 ドラゴンよりも上空から下に向かってパンチを放つ。空中だから踏ん張りがきかない。腕力だけの攻撃だ。


 だが、ちゃんと翼を貫いた。そしてドラゴンは回転しながら落ちていく。


 良かった。翼が無いと飛べないようだ。


 ドラゴンが地面に落ちたのを確認してから、自分も地面に転移した。


「重力遮断システムの致命的破損……急速自動修復起動……修復まで五分」


 本体よりも翼を直す方が難しいのかな。いや、疑問に思っている場合じゃない。すぐに取り掛かろう。


 倒れているドラゴンに近づくと、首で攻撃してきた。首の攻撃を躱すと、次は尻尾での攻撃。その攻撃は受け止める。そして両手で尻尾を掴んだ。


「【筋力強化】【筋力強化】【筋力強化】」


 多分行けるはず。コイツは硬いけど、それほど重くはないと思う。


 尻尾を持ち背負い投げの要領で床に叩きつけた。


 甲高い音が響き、すこしだけドラゴンの体がへこんだ気がする。


「破損率二パーセント向上……自動修復起動」


 うん、少し壊れたようだ。でもこれだけで全壊することは無いだろう。でも、もう少し壊しておかないとな。


 何度か床に叩きつけると、少しずつ壊れてきたようだ。でも、致命傷にはなっていない。現状維持と言ったところか。でも、それで十分。次のロンギヌスが撃てるまで続けよう。


 ……よし、溜まった。ゾルデの技を見せてやろう。


「どっ、せーい!」


 気合を入れながらドラゴンを抱えて上空へ飛んだ。さすがに重いが、制限を解除している今ならそれでも結構飛べる。二十メートルくらい飛んだだろうか。さっきドラゴンが飛んでいた場所よりも高い。


 そこからドラゴンを地面の方へ投げ飛ばした。ゾルデの技はこんな感じだった気がする。だが、さらに追加だ。


「【ロンギヌス】」


 ドラゴンが地面に叩きつけられたのを確認してから、そこへ向かってロンギヌスを放つ。見事に命中した。


 空中から下りて、倒れているドラゴンをよく見た。胴体に穴が開いているのは最初に貫いた時と同じだが、それ以外にも全体的に壊れている。これなら修復できないと思うのだが。


「破損率……百……修復……不……可……」


 ドラゴンの目から赤い光が失われていった。よし、これで何とか大丈夫かな。


「すごいね、フェル。アレを倒せるなんて相当なものだよ」


 背後から魔王様の声が聞こえた。


「魔王様、あの、見ていたのなら手伝ってくださっても良かったと思うのですが?」


「見ていたと言っても、ついさっきだよ。ちょうどフェルが飛び上がった時だね。どっせーいって」


 一番見られたくないところを見られた。恥ずかしいが、ここは何でもないような顔をしよう。


「そうでしたか。魔王様の方はもうよろしいのですか?」


「そうだね。実はさっき拾った天使が動き出してね。中途半端な感じだけど、切り上げたよ」


「天使が動いた?」


「うん、そっちの対処で部屋を出るのが遅れたんだ。すまなかったね」


 そんな事情があったのか。天使は空気を読めないんだな。


「そのドラゴンが動いたことといい、天使が動いたことといい、どうやら管理者、龍神ドスが目を覚ましたようだね」


「龍神ドス? それは魔王様の戦友が止めたのでは?」


 さっきの立体映像でそんなことを言っていた。


「そうなんだけどね……フェル、確認したいんだけど、戦友がここへ来るという話を誰から聞いたんだい?」


「龍神の巫女というドラゴニュートです。龍神の声を聞けるのはそのドラゴニュートだけだとか」


「そうなんだ。戦友を祠へ導いてやってくれって言ったんだよね」


「はい、そう聞いています」


「でも、アイツは立体映像で『どういう理由があってここに来たのかは分からないが』と前置きしていた。何となく違和感があるんだよね。その巫女の話に間違いないなら、来た理由は導かれたから、と言うこと以外ないんだけど」


「そんなに違和感があるものですか? 私にはよく分かりませんが」


 特におかしいようには思えない。魔王様は仲間とか親友だからこそ違和感を感じるのかも知れないけど。


「巫女に導く様に話をしているなら、巫女の話を聞いて来てくれたんだな、的な事を言うと思ってね」


 そう言われるとそうかもしれない。でも、他の可能性もあるかな?


「ええと、あの映像を残した後に巫女へ伝えることができたのでは? それかドラゴニュートの村まで来た理由が分からないという意味かもしれません」


「なるほど、それらの可能性はあるね……前者は映像を撮り直せばいい話なんだけど、それができないくらいになっていた可能性もあるだろう。まあ、他にも違和感があるけど、それはまた別かな」


 あの映像に他の違和感でもあったのだろうか? おかしな点は無かったと思うけどな。


「さて、次はドスが動いた理由を確認しに――」


 魔王様がそう言いかけると悲鳴が聞こえた。女性の悲鳴か?


「フェル、急ごう。ドスが置いてある部屋の方だ」


 魔王様が走りだした。ものすごく速い。私も急ごう。

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