王都到着

 

 エルリガの町を出てさらに北上中だ。今日の夕方には王都へ着くらしい。


 途中に町があるのだが、そこへは寄らず、一気に王都まで行くことになった。王都はそれなりに厳重なので、中に入るのにも時間が掛かるそうだ。夜に着いたら入れない可能性もあるので、とっとと行こうということになった。


 お昼はサンドイッチを町で買った。まあ、嫌いじゃない。


 そんなこんなで、数時間移動したら、ちらほらと雪が降ってきた。ゴンドラから地上を見ると、雪がそれなりに積もっているようだ。いつの間にか吐く息が白い。


 ヴァイアの店で買ったローブを執事服の上から羽織った。サイズがちょっと大きめだけど、小さいよりはマシか。さらにマフラーを装着。あと、魔力を流すとじんわりと暖かくなる石を胸ポケットに入れておく。


 みんなも似たような格好だが、頭に暖かそうな帽子を被ったり、手袋をしたりしていた。さすがにディアの手袋は指ぬきじゃなかったな。ユーリは服装に変化はないようだ。服に体温調整の魔法でも付与されているのだろうか。だけど、見てるだけで寒い。


 さて、カブトムシのおかげでかなり早めに着くとは聞いていた。王都にはどれくらい滞在するのだろう。


「ディア、これからのスケジュールを教えてくれるか?」


「えっと、三日後にギルド会議があるから私はそれに参加するよ。その日は一日潰れちゃうかな。ちなみにフェルちゃんも参加してね」


「参加するとは昨日聞いたが、私が参加する意味ってあるのか?」


「あるよ! フェルちゃんは私の専属冒険者ということで、お披露目するんだから!」


 晒しものじゃないか。あまり目立ちたくないんだが。


「私も参加しますよ。ギルド会議はギルドマスターともう一人、護衛を連れて行って構わないのです。私の場合はグランドマスターの護衛として参加します」


 どうやらユーリも参加するようだ。知らない奴だらけじゃないなら多少は気が楽かもしれない。ユーリのフォローを期待しよう。


「そうなのか。でも、会議に護衛を連れて来る必要なんてあるのか? なにかバイオレンスなことでもあるのか?」


「そういうのはないよ。単純にその場で自分の専属冒険者を自慢するんだよね。こんな強い人が自分の専属なんだって、これ見よがしに連れて来るんだよ!」


 ディアがエキサイトしてきた。防寒具がいらないくらいに。


「前回のギルド会議に参加した時、そんなこと知らなくてね、えらい恥かいたよ! その上、ギルドマスターの二人に馬鹿にされるし、どれだけ異端審問官の技を見せてやろうと思ったか!」


「見せなかったんだな。偉いぞ」


「うん、飲んでいるお茶を激辛にしたくらいで何もしてないよ」


「それは何もしてないとは言わない」


 それはともかく護衛として私も会議に参加するのか。ディアの護衛として来ているから、参加するしかないのだろう。それになんとなくかわいそうだ付き合ってやるか。


「私が参加するのは了承しよう。だが、ギルド会議は三日後だろ? それまではどうするんだ?」


「王都を観光しよう! フェルちゃんをもてなすよ!」


 そういえば、そんなことを言ってたな。何も解決はしていないけど、いつの間にか私の気分も軽くなった気がする。ここ数日、魔王様の従者とか、魔界がらみの仕事をしていないからかな。


 魔王様からはそのうち連絡が来ると思うから、それまではこのままでもいいか。長期休暇というヤツだ。


「分かった。なにか色々計画を立ててくれたんだよな? なら、もてなしてもらおう」


 三人とも笑っている。計画に自信があるのだろう。楽しみだ。


「フェルさん、グランドマスターとの面会はいつがいいですか? ギルド会議の時でもいいですけど、その前に顔合わせしますか?」


 そういえば、そっちの用事もあったな。面倒なことは早めに終わらせたいが、今回はダメだ。


「話すのはギルド会議の時にする。みんなが何か計画をしてくれているようだからな。変な予定を入れたくない」


「分かりました。では、そう伝えておきます」


 明日、明後日はもてなしてもらって、三日後はギルド会議。不敬だが、しばらくは魔王様からの呼び出しが無いといいな。




 予定通り、夕方頃に王都へ着いた。


 王都へ入るまでには時間が掛かりそうだ。門のところから随分と道に沿って人が並んでいる。


 並んでいる奴らはカブトムシを見て驚いていたが、特に攻撃してくるような真似はしないようだな。


 ただ、門の方から兵士が来た。


「もしかしてカブトムシに乗る魔族、フェルさんですか?」


「なんでそんな肩書になっているんだ? 魔族のフェルでいいだろうが」


「ええと、クロウ様からそういう情報が来ておりまして」


 あの野郎。いつか痛い目に遭わせてやる。


「あと、敵対しない限りは襲ってこないから、普通に接するようにと国中に御触れが出ております」


 そうだったのか。もしかして他の町で門番が普通に通してくれたのは、そのおかげだったのかな。それは感謝しておくか。


「では、確認が取れましたので戻ります。クロウ様には連絡しておきますので。それと王都へ入るのは順番ですので特別扱いは致しません。寒いところで待たせてしまって申し訳ありませんが、ご協力願います」


 当然だな。割り込みは良くない。


「分かった。順番になるまで待つから、クロウに連絡しておいてくれ」


「ちょっと待ってくれ。俺達はフェルの親友なんだが、俺達が一緒にいるのはぼかしてくれないか?」


 門番が帰ろうとしたところで、リエルがそんなことを言い出した。


「えっと、同行者がいない、という報告をするのでしょうか? さすがに虚偽の報告はできないのですが」


「同行者は居ていいんだ。ただ、明確に誰が来た、というのはぼかしてくれるか? クロウの護衛に俺達が来たってことを内緒にしたいんだよ。クロウには言ってもいいけど、護衛に伝わらない感じで頼む」


 リエルは何を言っているんだろう? 護衛と言うと、ノストとあのメイド二人か? なんで内緒にするんだ?


「む、難しいですね。ええと、分かりました。同行者四名とだけ報告しておきます」


「悪いな。頼むぜ」


 門番は敬礼してから門の方へ戻って行った。


「リエル、一体どういう話なんだ? なんでノスト達にお前達が来たことを内緒にしようとする?」


「サプライズだよ、サプライズ」


「サプライズ?」


「俺達が来ることをノストは知らないだろ? そこへヴァイアが会いに来るんだ。そして驚いたノストに向かってヴァイアが『来ちゃった』って言うんだよ。これでイチコロだぜ!」


 そういえば、そんな話をしてヴァイアを焚き付けていたな。脈はあると思うんだけど、どうだろう? ノストのことだから喜ぶとは思うんだが。


「ノ、ノリと勢いでここまで来ちゃったけど、だ、大丈夫かな? 今になって心配になってきちゃったよ。嫌そうな顔をされたらどうしよう?」


「何言ってんだ。ここでガツンと行動しねぇといつの間にか別の女とくっ付いちまうぞ? だいたいな、遠くから会いに来た女に嫌そうな顔をする奴だったらやめとけ。そんな奴はいい男じゃねぇ。こっちから振ってやれ」


 相変わらずの理論だが、まあ共感できるかな。


「それにな、ノストが好きなら信じてやれ。相手を信じられなくて何が恋愛だ。捨て身でぶつかれよ。恋愛は常に背水の陣だぞ?」


「そ、そうだね! よーし、頑張るよ! えっと、来ちゃった、違うかな? 来ちゃった、かな?」


「そこは上目遣いで行くべきだな。元気良すぎてもダメだ。迷惑じゃないかな? という雰囲気を演出するんだ」


 来ちゃった、の練習を始めやがった。他人の振りをしたい。


「もっと若いころにこういうのを見ていたら、ちょっとショックを受けますね。こういうのは計算でやるものですか?」


「ユーリは俺達より大人なのにダメだな。いいか? 女はいつだって女優だ。主演女優。男と素で話す? そんなのは結婚してからでいいんだよ!」


 なんという暴論。そんなわけないだろうが。なにをこじらせたらこんな感じになるんだろうか。そして女神教もなんでコイツを聖女にした。


 そんなやり取りを見ていたディアが大きくため息をついた。


「リエルちゃんは人をその気にさせるのが上手いよね。私は気を付けなきゃ」


「その気にさせるって言うか、洗脳じゃないのか?」


「女神教を潰しても、新たなダメな宗教ができそうだね。その時も大金貨百枚で潰すの引き受けてくれるかな?」


「無料でいいぞ。私にも責任がありそうだから」


 リエルが作る宗教は私が監視してやろう。変な事を始めたら、即、潰さないとな。

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