異端者
化け物同士? 私とセラの事か? 何言ってんだコイツ。とうとう変になったか? それにあの方……?
セラが亜空間から何本も剣を取り出した。全部で八本だ。魔剣とか聖剣とかの類だろうか。二本だけ手に持って、残りの六本はセラの周りを浮いている。
「フェル、私ね、ずっと寂しかったの」
寂しい? セラが? なに気持ち悪いことを言ってんだ。
「同じ人族なのに自分だけが違う気がする。誰といてもなにか違和感がある。他の人は自分と比べて脆すぎる。自分が人族ではない、何か別の生き物だと思っていたわ」
セラはものすごく落ち込んだ顔をしている。さっきまで笑っていたのに。随分と感情の起伏が激しいな。
「一年前、あの方から魔界の事を聞いたの。魔界に私と同じ人がいるって」
今度は笑顔で私の方を見た。
「魔王君がそうだと思ったけど違ったわ。会った瞬間に絶望した……でもね、フェル、貴方がいたの!」
今度は悦に入ってる。ものすごく気持ち悪い。
「一目で分かったわ。私と同じだって。私と同じ化け物がいるって!」
「気のせいだ。私は化け物じゃない」
「そうね、模擬戦をした時の貴方は弱すぎた。でも、力を抑えているのは分かっていたわ。だから貴方の力をどうにかして解放させたかったの。そして、今、それが叶った!」
セラは笑顔で右手に持った剣の剣先をこちらに向けた。
「ああ、フェル。私と同じ世界の異端者。私の同族……いえ、家族? それとも私そのものかしら……?」
「さっきから気持ち悪いんだよ。お前と同じなんて虫唾が走る。それに自分語りがうざい。聞いて損した。とっとと決着をつけるぞ」
「私と遊んでくれるのね? なら、私の孤独という飢えが満たされるまで戦いましょう?」
「なにが孤独という飢えだ。ポエムか。二十歳過ぎてるくせに思春期なんて痛すぎるだけだ。お前もアレか? チューニ病か?」
下らんことに時間を取った。とっとと殺してスキルを解除させる。
連続転移で目を回すとか気持ち悪いとか言ってられない。あらゆる攻撃手段を使う。手数で勝負だ。
セラの真左に転移して、死角からの攻撃。当たったと思ったが、浮いていた剣が私の拳を弾いた。自動防御か? ユーリの触手みたいなものか。
セラが右手に持った剣で横薙ぎした。それを転移して躱し、今度はセラの真右に転移。自動防御があるだろうから、強めの左ジャブ。防御用の剣を弾いた。そこへ顔を狙った右のストレート。
それも難なく躱されてしまった。だが、手は止めない。当たるまで殴る。剣に弾かれたり、躱されたりするが、今の私なら何度でも攻撃できる。当てるまで転移と攻撃を繰り返すぞ。
……お互い致命傷にならない程度の怪我はしているが、決め手がない。こうしている内にも時間が無くなっていく。でも焦るな、焦ったら負けだ。
そう思ったらセラが少し距離を取った。
「フェルは寂しくないの?」
寂しい? 急に何を言ってんだ?
「私達と皆は違う。人族でも魔族でもない、別の生き物。人界にも魔界にも、そしておそらく天界にも、私達と同じ者はいないわ」
「私は魔族だ。だが、お前の言うように別の生き物だったとしても、それがどうした?」
「え?」
「同じ種族がいないから寂しい? 違うな、寂しいというのは一人でいる時の事だ。姿形や種族に違いがあろうと、誰かと一緒なら寂しくない。お前は自分を異端者だと決めつけて、誰とも親交を結ばなかっただけだろう?」
セラの顔が微笑んだ。
「フェルは心も強いのね。そこだけは私と違うわ」
「アホか。そこだけじゃなく、全然違う」
「私も昔はフェルと同じだったのよ? でも、少しずつ変わっていった。今ではもう、生きているのが辛いぐらいに」
昔? 何言ってるんだ? 二十歳前後で人生を語るな。
「ねえ、フェル、私を殺して? 貴方ならそれができるはず。私達は友達でしょ? やってくれるわよね?」
「お前のその自分に酔った感じの態度が気にいらない。友達じゃないがやってやる。潔く死ぬがいい」
「アハ! アハハハ! やっぱり貴方は最高よ!」
「ああ、よく言われる」
セラが高速で近寄ってくる。くそ、死にたいなら素手で来やがれ。さっきから言ってることと、やってることが違うじゃないか。
孤独が満たされるまで、とか言いながら死にたいとか、死にたいと言いながら攻撃してくるとか。支離滅裂すぎる。
……もしかして混乱してるのか? 前見た時はこんなんじゃなかった気がする。それに、あの方、という言葉。なにか引っかかる。
余裕はないが念のため魔眼で確認だ。
……痛! なんだ? アラート? 神眼による情報遮断? なんだこれ?
「フェル、私をそんなに見つめちゃ嫌よ? 恥ずかしいわ」
「ぐうっ!」
魔眼の痛みで怯んだところに攻撃を食らい、村の外までふっとばされた。くそ、村のアーチを壊したか。
「フェルは魔眼を持っているのね。私の目は神眼よ。やれることは同じだけど、対策していないのはダメね」
シンガン? 心眼……いや、神眼か? セラの目はそれなのか? それに対策なんてものがあるのか。いや、それは後でいい。まずはセラの状態を確認しないと。
魔眼で見れないなら直接聞いて予測しよう。
「セラ、聞かせろ、何故死にたい?」
「さっき言ったじゃない。もう、生きているのが辛いのよ」
「なら、なぜ私に攻撃する。攻撃しなければ一瞬で終わらせてやる」
「嫌よ。攻撃しなければ、フェルは本気を出してくれないでしょ?」
「私は本気を出してる。それ以上、何を望んでるんだ?」
「だから、私を殺してよ。生きているのが辛いのよ」
ループしてる。話が通じてない。本当に殺していいのだろうか? 皆を救うためにはそれしかないだろうが、セラに違和感があり過ぎる。
「もういい? それじゃあ、もっと遊びましょう?」
くそ、どうする? 防御はできるが、このままじゃ皆が危ない。だが、なんとなくセラをこのまま殺すのもまずい気がする。
それに左の小手はそろそろ限界だ。迷っていたら私が殺されてしまう。
「フェルちゃん!」
ヴァイアの声だ。だが、そちらを振り向く余裕はない。
「どうした!?」
「皆に魔力を中和する魔道具を渡したからこっちは大丈夫だよ! 動けないけど、死んだりはしないから安心して!」
流石だ。後で飯を奢ってやる。
「羨ましいわ、フェル。貴方には素敵な友達が何人もいる。嫉妬しちゃうわ」
「ああ、私には勿体ないぐらいだ」
「……でもね、フェル。それがいつか、貴方を苦しめることになるわよ?」
「なに?」
「貴方は強い。でもずっと強くはいられない。私のようにね」
何を言っているのか分からん。
だが、ヴァイアのおかげで余裕ができた。死ぬ危険がないなら、セラを殺す必要もない。なんとか気絶させよう。
「予定変更だ。お前を殺してやらん。気絶ぐらいで済ませてやる」
「そうなの? ということは、私の飢えを満たしてくれるのね? 嬉しいわ」
セラの言葉を聞いていると、こっちの頭がおかしくなりそうだ。もう、無視しよう。
右手のグローブに魔力を込める。
重い一撃より、そこそこの攻撃を連打しよう。見えないパンチの原型で勝負を決める。
セラが近寄って来た。剣が防御寄りから攻撃寄りにシフトした。両手に持っている剣以外も私を狙っている。
致命傷寸前までは覚悟を決めてる。こっちにはリエルがいるんだ。死ななきゃ平気だ。
竜巻のような斬撃をかいくぐってセラの懐に飛び込んだ。かなり斬られたが、問題なし。驚いているセラが目の前にいる。
「【ジューダス】」
右手のグローブが高速で動く様になった。本気の見えないパンチを食らえ。
一瞬で三十発のパンチをセラに浴びせる。顔、腹、胸、どこに当たったかは分からないが、とにかくパンチを当てた。流石のセラもよろめいている。
高速で動かし過ぎたから右手が痛い。だが、もう一撃だ。今度は渾身の右ストレート。
セラの顔に当たって、後方に吹っ飛んだ。セラは地面に大の字で倒れている。その周囲に剣が散らばった。なんとかなったか?
「アハ! アハハ! アハハハ! 楽しい! 楽しいわ、フェル! これがお友達との遊びなのね!」
私にとっては悪夢でしかないけどな。頑丈すぎるだろうが。
セラがゆっくり起き上がると散らばっている剣も宙に浮きだす。
くそ、アレで駄目ならどうすればいいんだろう?
「それじゃあ、今度はこっちの番よね?」
剣が六本飛んできた。両手でその剣の群れを撃ち落とす。
その間にセラに近寄られた。くそ、連撃か。数回、斬撃を弾いたが、もう左の小手が持たない……!
何度目かの斬撃を左手で受けると、ひときわ大きな音がして小手が砕けた。そして次の瞬間にはセラの剣が上下から迫って来た。やばい!
そう思った瞬間、黒い影が私の前に躍り出た。
腹に響くような低重音が一度だけ鳴り、急に静かになる。あ、この感じは……。
「あら、来ちゃったんだ? せっかく二人で遊んでいたのに。空気が読めないとモテないわよ?」
「そうだね、昔、よく言われてたよ」
ああ、この背中。そして、この安心感。もう大丈夫だ。
「やあ、フェル。どうやら間に合ったようだね?」
魔王様が来てくださった。
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