原因
会議室に料理が運ばれてきて、皆と食事をした。
食事に関しては、美味しかったと思う。辛かったけど。
それはいいのだが、ディーンがぼーっと私を見つめている。どうした?
「ディーン、私になにか言いたいことがあるのか?」
「え? えっと、その、フェルさんがゾンビのマスクをつけて料理を食べていたのは、笑顔を隠すためだったんですね?」
確かにドワーフの宿で食事をしたときは常にマスクを着けていた気がする。
そうか、食事中の私を見るのは初めてか。
「そうだな。見られたくはないのだが、人族と友好的になるには笑顔の方がいいと言われてな。今はそのまま食べてる。ただ、普通の料理では笑顔にならなくなったな。美味い料理じゃないとダメだ」
私はグルメになってしまったという事だ。もう、魔界の食べ物で笑顔になることはないだろう。私が魔界に帰る前に料理事情を改善せねば。その前に食材を何とかしないと駄目だが。
「そうでしたか。なら、今の料理は美味しかったようですね?」
「ああ、美味かった。でも、できれば辛くない料理がいい。あと、卵を使え」
ヴァイアなんかは「辛い料理は痩せるらしいよ!」とか言いながら食べてたけど涙目だった。
そんなわけで今はソフトクリームを食べている。今度は中が空洞とかいう罠もない。それにカットした果物をソフトクリームの上に乗せるって天才か? あとでニアに教えてやろう。知ってるかも知れないけど。
「ところでディーン達はこれからどうするんだ? というか、あの後どうなった? あの後すぐに寝てしまったから状況がよく分かってないのだが」
「あの後、ウル達が仲間に引き込んだ元老院のメンバーに接触して、私が皇帝になることを認めさせました。ヴァーレがあの状態でしたし、根回しも済んでいましたからあっさり認めてくれましたね」
「これもフェルのおかげね。エルフの村で言われた通り、ディーンが皇帝になった時に味方してくれる人をしっかり仲間に引き込めたわ」
本当に上手くいったのか。失敗するかもしれないと思っていたけど、ヴァーレに不満を持っている奴が多かったのかもしれないな。
「そして不穏分子の排除をすることになりました。帝国が混乱している時に一気に片付けてしまおうと。それをドレアさんに相談したら、あのような形になりましたね」
「フェル様が手伝った帝位の簒奪が意味のないものになったら困りますからな」
私のために手伝ってくれたのか。ディーンが気にいったとかじゃないんだな。
「あの、そのことなのですが、フェルさんにお願いがあります」
「お願い? 聞くだけ聞いてやってもいいぞ」
ディーンが真面目な顔をしている。決意を秘めた目だ。何を言う気だろう?
「ドレアさんを私の相談役として、ルハラにいてもらうことはできないでしょうか?」
……は? ドレアを相談役? 最近はマシになったけどマッド入ってるんだけどな?
ドレアの方を見ると、ドレアも驚いていた。そんな顔は初めて見た。
「私は継承権を持っていましたが、皇帝になれるような教育は受けていません。皇帝として足りないことが多いのです。それを補佐して頂ける方が近くにいると安心できるのですが」
「私からもお願いするわ。私達の傭兵団は戦うことが専門で、そんなことをできる人はいないし、やりたいという人もいないしね」
「お前達の中にはいないかも知れないが、ルハラにはいるだろ? 例えば宰相とか」
「宰相はさっき牢屋に行きましたね」
あの中に宰相がいたのかよ。ルハラって本当に駄目だな。
「ルハラでそういう人材を見つけるまででいいのです。ただ、私に厳しく指導できる人となるとほとんどいませんので、時間が掛かると思いますが」
うーん、人族と友好的になるためにはそういう事もするべきだろうか。
いや、その前にドレアの意見を聞くか。
「ドレア、お前はどうなんだ?」
「お断りします。研究の時間が減りますからな。それに私は皇帝に指導できるほどの経験はないのですよ。ディーンに対して言っていることも以前読んだ本の内容ですからな」
本人がやる気ないんじゃ駄目か。
「ディーン。すまないが本人がこう言ってる。私としても無理強いさせたくない」
「普段は研究していてもらって構いません。この国にも多くの魔道具や魔法書などはありますからね。私が皇帝として振る舞う時だけ近くにいてもらって指導してもらえればいいのですが」
おお、それなりに交渉している。相手のことも考えた交渉だ。
「それは魅力的な提案だが、他にも理由がある。私はソドゴラ村に行きたいのだ」
「私が呼んでおいてなんだが、なんで行きたいんだ?」
「まずはダンジョンコアですな。調査が必要だと聞きましたが?」
そう言えばそうだった。アビスをみてもらおうと思ってたっけ。
あれ? 今、「まずは」って言ったか?
「まずはって言ったが、他にも理由があるのか?」
「そうですな。ソドゴラ村に居るニア殿の料理を食べてみたいですな」
「ニア? なんでお前がニアを知ってる?」
「ヤトからの定期報告で聞いておりますぞ? 死にそうになるくらい美味いとか。研究のしがいがありますな!」
ヤトからそんな報告がいっているのか。研究って料理の研究だよな? ニア本人のことじゃないよな?
「ヴァーレに聞いたのですが、この国にはニア殿ほどの料理人はいないとか。残念ですな。いればこの国に留まってもいいかとは思いましたが」
「ちょっと待て。ヴァーレにニアの事を聞いた?」
「そうですな。私が捕まった時に、ソドゴラ村にいるニア殿という料理人よりも美味い料理を作れる奴はいるのか、と尋ねたことがありますな」
……嫌な予感がする。
「ニアの事を言ったのは、ヴァーレにだけか?」
「そうですな」
気のせいか。さすがにそんなことは無いよな。杞憂ってやつだ。
「まあ、貴族達が念話を使って会議している最中でしたが」
「お前のせいか!」
「何のことですかな?」
なんでムンガンがニアの居場所を知ったのかと思っていた。どう考えてもコイツのせいだ。
おそらくムンガンはドレアの言ったことを念話で聞いたのだろう。ニアがソドゴラ村に居ることをそれで知った。だから傭兵団をソドゴラ村に送ってさらわせたんだ。
つまり、ニアがさらわれたのはドレアのせい。
……頭痛い。
「ドレア、ソドゴラ村でニアに謝罪しろ。その後、罰としてディーンの補佐をさせる」
「謝罪? どういう事ですかな?」
「ニアがムンガンにさらわれたのはお前のせいだ。お前からニアの情報が漏れた。だからニアへ謝罪させる」
「なんと、私のせいだったのですか……」
さすがに予測できない事だけど、今後、情報の取り扱いには注意させないと。
「しかし、色々な問題を解決できた面もある。ニアの問題は解決できたし、戦略魔道具は無効化できた。それにルハラの脅威はなくなったからな。だが、元々の原因はお前だから、罰としてディーンの面倒を見ろ。お前の行為が今の状態を作っているんだからな」
ニアがさらわれる原因を作ったわけだから何かしら罰を与えないとな。研究の時間を少しでも減らしてやる。
「しかし、私への罰がその程度でよろしいのですか? ほとんど罰ではないと思いますが?」
「もし、ニアに何かあったのなら殺していたがな。だが、ちゃんと助け出した。それなら罰もその程度だ。それにお前への罰なら、研究以外の事をさせたほうが罰になるだろう」
「……感謝いたします」
ドレアが椅子から立ち上がり、私の前に跪いた。そこまでしなくていいんだけど。
「ディーン、聞いていたか? すまないが、ドレアを一度ソドゴラ村に送ってから改めてここに来させる。それでいいか?」
「こちらとしてはありがたいのですが、よろしいのですか?」
ディーンは私とドレアを見比べるように尋ねている。
「構わない。ディーンはドレアから学びたいと思っているようだが、魔族も人族から学ぶことが多い。どちらかと言えばこちらからお願いする案件だ。それにこれは罰でもある。研究できなくなるくらい、こき使っていいぞ。いう事を聞かないようなら私に連絡しろ」
「このドレア、フェル様の決めたことに逆らうような真似は致しませんぞ?」
「そうなんだろうが、お前は無意識にやらかす可能性が高いんだよ。知らなかったとはいえ、私に喧嘩を売った前科があるだろうが」
「おお、そんなこともありましたな」
数日前の話なのにドレアの中では昔の事なのか?
これはもっとお話をしないと駄目だな。
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