天使との戦い
右手にグローブを装備したから思いっきり殴れる。グローブは薄いアダマンタイトの板で補強しているからな。攻撃だけでなく防御にも使えるすぐれものだ。これなら武器の攻撃を弾きやすいだろう。
どちらかと言えば防御は左手の方がやりやすいんだけど文句は言えない。元々の素材はドラゴンの革なのだが、魔界の加工技術は失われているから、直すのに手間取ったはずだ。感謝しないとな。
左手側はもっと複雑だ。そもそもの素材も分かってないはず。それを直せって私も結構無茶ぶりしてるな。あとで開発部には差し入れをしておかないと。
おっと、考えている暇はないな。もう少しで結界が壊れそうだ。
ドレアの方を見て頷くと、結界の外に黒いモヤが現れた。
ドレアは色々な虫を操る。本人も強いが用途に応じた虫を使役することでもっと強くなる。正直戦いたくない。
そのモヤが髪の長い天使にまとわりついた。顔に表情がでないので感情は分からないが、多分、嫌がっている。
よし、今のうちに髪の短い天使を倒そう。今度は一対一だ。負ける訳にはいかない。
結界の外に転移して、天使の右側から左ジャブ。転移せずに躱された。さらに踏み込んで左ジャブ。今度は転移で躱された。
この天使は転移で躱すけど、横や私の後方には転移しないようだ。なんというか真後ろにしか転移しない。空間座標の計算を自分の後方にしかできないのかな。天使の転移は見える範囲と自分の後方のみ。それなら何とかなるかも。だが、もう少し調べないとな。
今度は天使がレイピアで突いてきた。速い。相手の後方に転移して逃げたいけど、ここは我慢。躱せるだけ躱して、無理そうな突きは右手で弾く様に受ける。
右手でレイピアを弾くと、相手は体勢を崩した。そこにいつものボディブロー。だが、転移で躱された。やっぱり攻撃を躱すときには後方にしか転移しない。よし、なら次で仕留める。
グローブに魔力を込める。魔道具のように魔法が使えるわけじゃないが、このグローブはギミックが満載だ。それを使って仕留める。
また天使がレイピアで突いてきた。さっきよりも速い。だが、何度やっても同じだ。単調な突きで、フェイントや技がない。これまではそれで問題なかったかもしれないが私なら見切れる。
前回と違い、今度は強めにレイピアを弾いた。天使が大きく体勢を崩す。
「【ロンギヌス】」
意味は知らないが、そう言いながらパンチを放たなくてはギミックが作動しない。
魔力も乗せたフルパワーの右ストレート。踏み込んだ左足で床を砕いてしまったけど気にしない。
モーションが大きいので殴りきる前に転移された。天使は予想通り後方に転移する。
だが、この拳撃は飛ぶ。後方に転移してもそこは私の攻撃範囲だ。例え目の前にいなくてもパンチを振り切る。
重い物が勢いよくぶつかる音がして、天使の胴体に風穴を開けた。さらにその後方にある壁にも穴が開いた。
だが、天使は頭を破壊しないとダメだ。動揺している今がチャンス。
天使の後方に転移して今度は頭を吹き飛ばした。勢いよく頭が床を転がる。相変わらず内側は金属っぽいな。火花が散ってるしちょっと気持ち悪い。
それよりも、ドレアはどうだろう。大丈夫だろうか?
どうやらすでに結界は破壊されていて、ドレアと天使が対峙しているようだ。
「素晴らしい! 魔族よりも強い者がいるとは! 腕と足を一本ずつくれないかね? 研究したいのだが?」
余裕だな。というか病気が発症している。駄目な時のドレアだ。
「黙れ。魔族は使い物にならん。この場で殺してやる」
天使が高速で近寄り、持っていた槍でドレアを突く。ドレアは何もせずに立っているだけだ。そのまま貫かれた。おいおい。
「ガフッ、ほう、この槍はアダマンタイト製かね? なるほどなるほど。これも貰っていいかね?」
……平気そうだな。心配して損した。
「なぜ死なん? 確実に心臓を貫いたはずだぞ?」
「手の内をばらす魔族はおらんよ。そんな事よりもお前はもっと気にしなくてはいけないことがある」
「なんだと?」
「もう一人は倒されたようだぞ?」
天使が振り向いたところにボディブロー。壁まで吹っ飛んだ。お返しだ。
「ドレア、よくやった。お前のおかげで天使を一体倒せた。礼を言う」
「ありがたき幸せ」
「あとは任せろ。アイツ等を頼む」
ドレアは一度頭を下げてからディーン達がいる方へ移動していった。
それを見てから、ゆっくりと天使の方に視線を移す。
衝撃で崩れた壁の瓦礫から天使が立ち上がった。
「馬鹿な。我々を倒せる魔族がいるのか?」
「二人は相手できないがな。一対一ならなんとか倒せる」
「ありえん。そんなことは……まさか、貴様、魔王か」
「違う。それは半年前にやめた。今はタダの魔族だ」
魔王親衛隊の隊長だけど、これは他の魔族達には内緒だからこの場では言えない。
「魔王をやめた? 馬鹿な、そんなことができるわけない。いや、どうでもいいな。全てはお前を覚醒させれば済むことだ。魔王としての職務を果たさせてやろう」
「覚醒とか言うな。それに私は魔王じゃないと言っているだろうが」
魔王様に不敬すぎる。余計なことを言わせないようにとっとと倒してしまおう。
しかし、槍か。あれはなんというのだろう? 十文字槍というのだろうか。なんか槍を引くときにも斬られそうな感じだ。
下手に懐に入ると危ないかな。槍の反対側、なんだっけ、石突? あれで殴られても痛そうだし。
よし、なら槍を壊そう。もしくは奪い取る。戦いの基本だ。
天使が連続で槍を突いてきた。一瞬で三回も突けるのか。もしかしてこっちの方がさっきの天使より強いのか?
パンチで槍の軌道をずらしながらダメージを与えておく。狙いがバレると困るから懐に入るフェイントも仕掛ける。
「どうした? 全く私に攻撃できていないぞ?」
なんだろう? 表情が無いから感情は分からない。でも、いままでの天使よりも感情的な気がする。普通、もっと冷めてる感じなんだけど。
しかし、埒が明かないな。槍を壊そうと思ったけど、アダマンタイト製じゃ壊すのに時間が掛かるか。壊すのは諦めよう。なら今度は槍を奪う作戦だ。グローブをつけている右手なら力負けもしないと思うんだけど。とりあえず試してみよう。
今度は槍を可能な限り躱す。隙をついて槍を握ろう。
何度か躱したり、拳で弾いたりしたら、天使の体が大きく崩れた。チャンスだ。
引き戻すのが遅れた槍を右手で掴む。矛先のちょっと手前部分を掴んだ。ここからは力比べだ。とは言っても相手は両手。このままじゃ負けるな。
「【筋力向上】【筋力向上】【筋力向上】」
強化魔法は三回まで。なんでそんな世界規則があるのだろうか。とにかく最初に使っていた加速の魔法が解除された。遅くなってるから、攻撃されたら槍を捌けない。絶対に離さないぞ。
「私と力比べか? 勝てると思うなよ? 『身体ブースト』」
うお、急に力が強くなった。魔法じゃない。何をした? いや、それよりもやばい。槍を取られて攻撃されたらアウトだ。どうする?
そうだ、私にはスキルがあるじゃないか。多分、これにも使えるはずだ。
「【大車輪】」
なぜか掃除していて覚えたスキル。掴んでいた槍が、その中心を軸に回転した。さすがに回転する槍を持っていられなかったのか、天使は手を離したようだ。私も離したけど。
よし、亜空間にしまってしまおう。回転している槍を改めて掴み、亜空間に入れる。これで天使の攻撃は半減だ。
「『槍術アンインストール』『格闘術インストール』」
何だ?
天使が私と似たような構えをしてから突っ込んできた。そしてパンチを繰り出してくる。コイツ、格闘もできるのか。しかも上手いな。
「【加速】【加速】【加速】」
スピード重視に切り替え。天使のスピードについていけないからな。
私と違ってパンチだけじゃないみたいだ。肘や膝も使って攻撃してきやがる。痛い。
……仕方ないな。そもそも天使相手に被害を減らそうとしたのが間違いだった。
防御は無しだ。相手の攻撃に合わせて攻撃をぶち当てる。痛いのは我慢。
天使が私の顔を殴ってきた。それに合わせて左のボディブローを食らわせると、天使は少し距離を取った。
「我々は痛みを感じない。だが、お前は感じるだろう。そんな無謀な攻撃が続くのか? お前が気を失うのが先だぞ?」
「心配無用だ。その前にお前を壊す。痛みは感じなくてもお前が動けなくなったら私の勝ちだ」
格好悪いが仕方ない。出来るだけ重い一撃をぶち込む。幸い魔力はいくらでも湧いてくる。それに天使の奴は分かってない。それなりの技術はあるが形だけだ。はっきり言って体の芯に響かない。攻撃に力が乗ってない。あれじゃ身体能力に頼った攻撃をしているだけだ。
何度か捨て身のカウンターによる攻撃を行うと、天使の方が壊れてきた。私はまだまだ大丈夫。
「なぜ、こんなことになる? 技術も力も私の方が上なのに」
「お手本のような攻撃だが綺麗すぎて一撃が軽い。それじゃ私を倒せない」
天使が右ストレートで攻撃してきたが、動きが鈍くなっているのが分からないのだろうか。この攻撃はダッキングで躱した。
当たると思っていたのだろう。天使は体勢を大きく崩した。そこに左ボディブローを食らわす。
天使の体がくの字に曲がったので、下から頭を狙いやすくなった。
「【ロンギヌス】」
右アッパーを天使の頭に当てる。天使の頭が吹っ飛んで天井に突き刺さった。砕くつもりだったが、頭は頑丈なんだな。アダマンタイトとか使っているのだろうか。
頭を無くした天使は、そのまま膝をついて前のめりに倒れた。
よし、なんとか倒せたな。それにしても疲れた。
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