合流
朝方は結構冷えるな。だが、魔界に比べたら可愛いものだ。魔界のダンジョンだといつの間にか氷点下とかあるからな。
皆は色々と準備をしてくれている。私も何かしようかと思ったら、フェル様はゆっくりしていてくださいと、何もさせてくれなかった。それはそれで寂しいんだけど。
最近、というかユニークスキルを使ってから魔物達が色々と世話してくれるようになった気がする。
もしかして怖がられている? うーん、恐怖で縛りたくはないんだけどな。そもそもそんな事するつもりないし。
なにか対策を考えないと。……朝食を食べてからだな。
シルキーが運んできてくれたパンとベーコンを食べてゆっくりしていたら念話が届いた。
『おーい、フェルちゃーん、起きてるー?』
「ディアか? 起きてるぞ。おはよう」
『おはよー。ディーン君から連絡があったから伝えようと思って。今、時間は大丈夫?』
「大丈夫だ。何の連絡があったんだ?」
『うん、帝都に近い町で会いたいって。フェルちゃんに合わせて攻め込むよりも一緒にやった方がいいからって』
うーん? それはそれで間違いじゃないんだけど、私におんぶ抱っこじゃ困るんだけどな。
アイツ等が自分たちの力で帝位を簒奪しないと周囲が認めてくれないと思う。とはいえ、一度失敗しているし、もう後がないからなりふり構っていられないのかな。
「とりあえず、その町の名前を聞いていいか?」
『ゴールヴだって。もうディーン君達は着いてるみたいだよ』
「わかった。なら町に行って会ってみる」
『うん、ディーン君に伝えておくね。フェルちゃんの方からは何か連絡はある?』
「いや特にないな」
あれ? なにか忘れているような……あ、そうだ。
「ディア、ちょっと待て。ディーンじゃなくて、エルフに伝えて欲しいことがあった」
『うん、何を伝えればいいのかな?』
「戦略魔道具を無効化したから、それに怯える必要はないとだけ言っておいてくれ」
『ああ、エルフの村で言っていた件だね? フェルちゃん、そんなことまでやったんだ? 分かった、伝えておくよ』
「まあ、やったのはヴァイアだから、それも伝えておいてくれ」
『そうなんだ、ヴァイアちゃんすごいね。ならそれも伝えておくよ。他には何かある?』
「いや、もうないな」
『うん、じゃあ、フェルちゃん、気を付けてね!』
念話が切れた。
さて、ディーン達と合流するか。えっと、ゴールヴだっけ。これから向かう町なのかな?
ルハラに詳しい奴は……ヴァイアだな。
「ヴァイア、ちょっといいか?」
「うん、なあに?」
「ゴールヴって町を知ってるか?」
「もちろん。これから行く町のことだよ。今から出発すれば、お昼頃ぐらいには着くと思うよ」
昼か。ならそこで食糧とか調達したいな。魔族や魔物がいたら町に入れないかな? その時はヴァイア達にお願いするか。ついでにディーン達も呼んでもらおう。
よし、準備して出発するか。
ヴァイアの言った通り、昼ぐらいに町に着いた。
どういう理由か分からないが、魔族や魔物がいても普通に入ることができた。
なぜか町の住人からは拝まれたりしている。なんなのこれ。
「フェル」
町を皆と歩いていたら名前を呼ばれた。誰だと思ったらウルか。エルフの森以来だ。
以前見た時よりもしっかりした装備だし、凛々しい感じがする。
「ウルだったよな? 随分と久しぶりだな」
「本当にね。えっと、目立ち過ぎだからこっちに来て。ディーンに会わせるわ」
それだけ言うとウルは歩き出してしまった。
仕方ないのでそれについて行く。
「どこに行くんだ?」
「私達が泊っている宿に連れて行くわ。そこにディーンがいるから」
宿? ディーン達って反逆者みたいなものじゃないのか? なんで普通に宿に泊まっているんだろう?
ウルがこちらを少しだけ見た。
「私達が普通に泊まっているのが不思議?」
見透かされたか。
「そうだな。負けたと聞いたから反逆者として指名手配されているのかと思ってた」
「間違いじゃないわね。ただ、思った以上に現皇帝は人気が無くて、支援してくれる人が多いのよ。この町なんか町ぐるみで協力してくれているしね」
そうなのか。でもそれなら戦わずに、ディーンが名乗り出るだけでなんとかなったんじゃないか? 元老院とかも助けてくれる気がするけど。
「着いたわ」
なんだか随分と立派な宿だ。クーデターを起こした奴が、こんなところで寝泊まりしてるのか?
お前らの襲撃失敗って気のゆるみからだと思うぞ。
「ええと、今日は貴方達にもこの宿に泊まってもらおうと思っているけど、その、さすがに大きい魔物は入れないのよね。中庭でもいいかしら?」
大きい魔物というと、スライムちゃん達やシルキー、バンシー以外の全員だな。
中庭で問題ないか聞いてみると、全員問題ないとの回答だった。
「問題ないそうだ。だが、その分、食事をいいものにしろよ?」
「調理師に伝えておくわ。お昼はまだよね? 食事をしながらディーンと話をしてもらいたいんだけど、大丈夫かしら? 全員は無理だから数名に絞ってもらいたいのだけど」
時間は問題ない。誰を参加させるかだな。いや、それよりも何の話をするかだ。
「話をするのはいいのだが、何の話だ?」
「そうね、まずはお礼よ。それと帝都へ攻め込む話ね」
お礼は別に必要ないけど、帝都の件か。本来なら私だけ帝都に乗り込んで、スキルを使うつもりだったけど、それはヴァイアに止められてしまったんだよな。
とりあえず、ヴァイアとリエルにはいてもらおう。あとはジョゼフィーヌか。
そうだ、ドレアにも参加してもらう。人族を観察しろと昨日言ったからな。
「ヴァイア、リエル、ドレア、それとジョゼフィーヌ。一緒に来てくれ。他は部屋で待機。ウル、これでいいか?」
「いいわ、待機する人、というか魔物ね。今、部屋に案内させるわ。えっと、人族の言葉は分かるのよね?」
「大丈夫だ。人型のシルキーやバンシーなら喋るのも可能だ。それにルネもいる。三人とも何かあれば通訳してやってくれ」
三人は頷いた。これで待機組の方は大丈夫だな。
「じゃあ、ディーンのところへ案内してくれ」
「こっちよ」
連れてこられた場所は宿の最上階だ。これはアレだな。スイートルームって奴だ。いいところに泊まってやがる。ちょっとイラっとした。
「フェルを連れて来たわ」
ウルがドアの前でそういうと、両開きのドアが部屋の内側に開いた。えっとベルだっけ? どうやらベルが開けてくれたようだ。
部屋の中が結構広い。しかも調度品が豪華な気がする。
将来的には皇帝なんだろうけど、まだ傭兵だろ? なんでこんなに豪勢なんだ? 資金に困ってたんじゃないのか?
「フェル、こっちの部屋よ」
ウルは部屋に正面から入って左側のドアに向かった。
「フェルをお連れしました」
「入って貰ってくれ」
今の声、ディーンだよな? 本当に捕まってなかったんだな。
ドアが開かれると、中には長机があり、ディーンが座っていた。
ディーンは普通の姿だ。幻視とかは使ってはいないようだな。
机にはロックや、少女が座っている。少女はエルフの村で見たな。クル、だっけ?
「フェル、よく来てくれた。軍隊を引き付けてくれた礼をしたいので呼ばせてもらった」
「ああ。そんな事よりもお前ディーンか? ドワーフの村で会った時と話し方が違うだろ? そっちが素なのか?」
ロックが笑った。それをウルが睨む。ディーンは表情が固まっている感じだけど、汗がすごい。
「ロック、ディーンの言葉遣いに注意しなさいといったでしょ?」
「そう言うなよ。しゃべり方なんて皇帝になってから練習すればいいじゃねぇか。たまには羽を伸ばさせてやれよ」
「お前達は一体なんの話をしてるんだ?」
「ウルの奴がディーンに皇帝っぽい喋り方って言うのを練習させてんだよ。ドワーフの村での喋り方が素なんだ」
アホなことしてるな。
「はぁ、ディーンは皇帝になるのよ? 平民相手にも丁寧な言葉を使うんだから困っちゃうわ。宿もいいところじゃなくて馬小屋でもいいとか言うし!」
なんだかウルはご立腹だ。庶民派の皇帝だっていいじゃないか。
「ウル、とりあえず、ここでは普通の喋り方をさせてくれ。これではまともにしゃべれない」
「だから練習しておけと……わかったわ。今回だけよ」
お前等、緊張感がないな。というか緊張感を持っているのは、私だけなのか?
「ではフェルさん、椅子におかけください。すぐに料理も運ばせますので」
とりあえず、全員で座った。ウルやベルも私たちの正面に座る。長い机に十人が五対五の形で座る形になった。
「まずはフェルさんに感謝を。帝都の兵を引きつけて頂き、ありがとうございます」
「あれは私と皇帝のやり取りが原因だ。引きつけようと思ってやったわけじゃない」
あの程度の挑発で全軍に近い兵を送ってくるっておかしいよな。沸点が低すぎる。
「過程は関係ありません。結果的に手助けしてもらっているのですから」
律儀な事だな。だが、そんな事よりも気になることがある。
「まあ、それはいい。むしろ聞きたいのはお前達が何故負けたのかだ。ほぼ全軍をこっちに引きつけたのに何で負けた?」
そういうとディーンが渋い顔をした。
「それは私から言うわ」
ウルがディーンの代わりに答えてくれるようだ。原因が分かっているのかな?
「襲撃のタイミングがバレていたみたいね。多分、念話を盗聴されたと思うわ」
そう言えばヴァーレの奴もそんなことを言っていた気がする。しかし、念話の盗聴か。そんなことが出来るのか。
「でも、それは想定内だったの。問題は皇帝のヴァーレ自身が強かったというのと、側近の二人が異常な程強かったことね」
「ヴァーレと戦ったのか? しかもアイツが強い?」
「そうね。でもそっちよりも側近ね。なんというか、勝てるイメージが無かったわ」
それは凄いな。ウルは結構強かった。それが勝てそうにない、か。アダマンタイトの冒険者かもしれないな。
「そこでフェルさんにお願いがあるのです」
「なんだ?」
「側近の二人を倒してもらえないでしょうか」
側近を倒す、か。
「なら、ヴァーレはディーンが倒すのか?」
「はい、そうしなければならないと思っています」
そうか、私が殴ってやりたかったんだけどな。でも、次の皇帝になるならディーンがやらないとダメか。
「よし、分か――」
「一つ、よろしいですかな?」
急にドレアが割り込んできた。珍しいな。なんだ?
「失礼ですが貴方は? 魔族の方とお見受けしますが?」
「私の名はドレアだ。フェル様の部下だな」
「そうでしたか。私もちゃんと名乗っていなかったですね。ディーンです」
「言いたいことがあるのだが構わないかね?」
「ええ、どうぞ」
何だろう? ドレアが気になるような話はしてないと思うのだが。人族を観察しろと言ったから、なにか興味を惹くものがあったのかな?
「なんで貴様はそんなつまらん事をフェル様にお願いしているのだ?」
空間が凍った、ような気がする。ドレアは空気読まないからな。いや、分かってて発言しているのかも。
どっちにしろ面倒な事になりそうだ。
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