暴露合戦
朝日が眩しいうちから町を出て、帝都を目指している。朝は涼しいから移動も快適だ。風が心地いいぐらいだ。
結局、昨日は町で一晩明かした。
リエルの治癒魔法を住民に行き渡らせるのに時間が掛かったし、シャルロットとマリー、そしてロスが動けなかったからな。
襲った町の宿を使うというのはどうかと思ったが、必要以上に金を払ったら普通に泊めてくれた。余計な金額の分は食糧とかもくれたし扱いとしては普通だったと思う。
ルハラの軍隊は町の外で野営をしたらしい。町を出る時に各隊長に話を聞くと、改めて戦うつもりは微塵もないとのことだった。
そもそも勝てない、というのもあったが、念話越しに皇帝からクズ呼ばわりされた影響が大きいようだ。話をしている最中、皇帝を咎める言葉が結構でた。
もしかすると、皇帝は嫌われているのかもしれないな。これならディーンが皇帝になっても結構すんなり認められるかもしれない。
そんなことを考えながら、カブトムシが引っ張るゴンドラに乗っている。
途中で捕まえた斥侯達は町に置いて来たから、ゴンドラの中はそれなりに広い。だが、私とドレアが追加で乗ったからゆったり、という感じではないな。
ロスは動けるようにはなったが、私を運んでいけるほどまでは回復しなかった。乗せられないと言った時に地面に頭をこすり付けて謝っていたけど、私のせいでもあるから気にしなくてもいいのに。……乗せられないのは体重が重いとかじゃないよな?
そう言えば、さっきからヴァイアが笑顔でこちらを見ている。どうしたんだろう?
「誤解が解けて良かったね、フェルちゃん」
「誤解も何も、間違いなく私がやったことなんだがな」
昨日、スキルの影響で町の住人全員に被害が出た。私がやったことなのは間違いない。
だが、リエルは治癒魔法を使いながら、住民に皇帝が何をしようとしたかを吹聴したらしい。
侵略行為ではないし、戦う場所を決めたのは軍隊の方だ、という話も伝わって、私への批判的なものはかなり軽減したそうだ。そういうのもあって宿に泊まれたのかもしれないな。
男好きでも聖女。その威光は絶大のようだ。皆、騙されていると思うけど。
「なんか失礼なこと考えてねぇか?」
勘がいいな。
「そんなことはない。感謝している。だが、なんでそんなことをしたんだ? これは私がやったことだから、批判されても構わなかったのに」
自分がやったことの責任は取りたいとは思ってる。
「フェルは人族と友好的な関係になりたいんだろ? ならちゃんと説明しなきゃ駄目じゃねぇか。何のためにオリン魔法国とか、冒険者ギルドから声明をだしてもらったんだよ。魔族が人族と敵対したわけじゃない、という理由を広めたいからだろ?」
なんと。ちゃんと考えてくれていたのか。ありがたい話だ。
声明と言えば朝にディアから連絡があった。オリン国、冒険者ギルド、女神教、メイドギルド、メノウファンクラブからそれぞれ声明が出たらしい。
ルハラの皇帝は魔族が懇意にする村を襲うといったので、魔族の怒りを買った。魔族が何をしようともそれを支持する、という旨だったようだ。声明に関しては二度目だから、かなりの反響があったとか言っていたな。
それにしても仕事が早い。でも、この内容で人族は納得するのだろうか? 事情があるから魔族が人族に敵対したわけじゃない、という意味でとらえてくれるかな。うーん?
急に正面に座るヴァイアの口から「ふふっ」と笑いがこぼれた。
「どうした? 笑うところじゃないぞ? 思い出し笑いか?」
ヴァイアがリエルの方を見て笑顔になった。
「リエルちゃんはね、ズガルでも同じことをしてたんだよ?」
「なんでそれをヴァイアが知ってんだよ! ……あ」
ズガルって、私が貰った町のことだよな? リエルが魔族の評判を落ちないようにしてくれた、ということか?
リエルの方に視線を移動させると、顔を逸らされた。仕方ないのでヴァイアに聞いてみよう。
「どういう意味か教えてもらえるか?」
「リエルちゃんがフェルちゃんに町へいい男の人を探しに行こうとか言ったんでしょ? それ、嘘だよ。フェルちゃんが付いてこないようにそんなことを言ったみたい」
誘われた気がする。確かに私なら絶対に行かないと言うだろう。
「なんでも教会に行って自分が聖女だって言った上で、フェルちゃんの事をシスターさんにしっかり説明したらしいよ」
リエルがムスっとした顔になっている。
「なんで知ってんだよ? 俺は一人で行ったんだぞ?」
「フェルちゃんがリエルちゃんにドッペルゲンガーさんを護衛につけていたんだよ。そのドッペルゲンガーさんからの情報だね。見てはいけないものを見たからフェルちゃんに報告できないって相談されたんだ」
リエルが驚きの表情で固まっている。護衛がいたことを知らなかったようだな。
ドッペルゲンガーにバレないように護衛しろって言ったわけじゃないんだけどな。それに見てはいけないものってどういうことだよ。普通に報告してほしかった。
「相談されて、どうしたんだ?」
「私の方から伝えておくよって言っておいたよ。だから、ここぞという時に言おうとタイミングを見てたんだよね。そしてそれが今だと思ったんだ」
もう一度リエルの方を見ると、バツの悪そうな顔をしている。
「そうか。リエル、色々やってくれているんだな。助かる。ありがとう」
私はお礼を言える魔族。感謝したなら頭を下げないとな。
リエルは顔を逸らして手を左右に振った。
「やめてくれって。フェルに礼を言われたくてやったわけじゃねぇんだ。まあ、なんとなくだよ、なんとなく。でも、ヴァイアよぉ、なんでばらすんだよ。こういうのは隠れてやるから恰好いいんじゃねぇか」
「フェルちゃんも、リエルちゃんも感謝されるのが苦手なタイプだよね。でも、ちゃんと言わなきゃ伝わらないことってあると思うな」
「けっ、ノストに告白もしてない奴に言われたくねぇよ」
「ちょ! リエルちゃん、そ、それは、今、関係ないでしょ!? それに、ほら、告白って男の人からするもんじゃない!?」
なんだか話が変わって来た。
「お前等、落ち着け。状況は分かった。まず、リエルには感謝してる。まあ、なんだ、これからもよろしく頼む」
「お、おう。面と向かって言われるとかなり照れるな」
そしてヴァイアの方を見る。
「ヴァイア、まだノストに告白してないのか。遅すぎる。亀か」
「フェルちゃんまで!」
今回の話はヴァイアが変な情報を握っていたのが問題だからな。安全圏にいると思っている奴にも攻撃だ。
それにしても、私は恵まれているな。魔族に友好的な人族と巡り合えるとは。
だからこそ、友好的な人族を攻撃するようなことを言った皇帝の奴は許せん。必ず後悔させてやる。
「まあ、時間の問題だよな」
リエルがニヤニヤしながら何か言い出した。
「何の話だ?」
「ヴァイアがノストに告白するのが時間の問題ってことだよ」
「わ、私はノストさんからの言葉を待つの! 例えおばあちゃんになっても!」
それはそれで重いと思う。
「でも、ズガルで勇気の出る下着を買ってたじゃねぇか。アラクネと服を買い物に行ったときによぉ」
ヴァイアの顔が一瞬で真っ赤になる。亀だと思ったらタコだった。
「俺が知らねぇと思ってんのかぁ? サイクロプスって感じの下着を買っていただろう? アラクネから聞いたぜ? それを装備してノストに告ればいいじゃねぇか。勇気百倍だろ?」
アラクネの方を見ると、急速にゴンドラから離れていった。賢いな。
しかし、どんな下着なんだよ。一つ目ってことか? それとも大きい? どちらにしても見たくない。というか、想像したくない。そういう下着を買うなよ。帝都に行く途中なんだから。ああ、いや、あの時はニアを助け出した直後か。食糧の買い込みを頼んだ直後だった気がする。気が緩んだか。
「リエルちゃん! ど、どうしてばらしちゃうの!」
「先にばらしたのはヴァイアだろうが!」
「喧嘩するな。ゴンドラは狭いんだから」
おかしいな。今、皇帝を制裁する真面目な旅路なんだけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます