恋バナ
「――というわけでだな、コーンの中身にもクリームが入っているべきだと思うんだ。お前らもそう思うだろ? 明日、販売店に直談判するつもりだ」
夕食が終わった後、城の広場で光球に照らされながら女子会とやらをしている。地面にゴザを敷いて座っているのだが、椅子とか机を城から借りられないのだろうか。
いや、今はそんな事よりもソフトクリームの事だ。
ヴァイア、リエル、ルネ、ヤト、アラクネが深刻な顔をしている。アレだ、人生の選択を迫られている時の顔。
「どうした? 悩むところじゃないだろ? 食べ物の中が空洞だったら詐欺じゃないか」
「いいか、フェル。落ち着いてよく聞けよ?」
リエルが真面目な顔をしている。これはちゃんと聞いてやるべきだろう。頷くことで回答を促す。
「どうでもいいんだよ、そんなことは」
「なんだと、この野郎」
「箸が転んでもおかしい年頃の女がこんなに集まってんのに、なんでソフトクリームの話をしてるんだよ? もう一度言ってやる。どうでもいいんだよ、そんなことは」
馬鹿な。あんなに美味しい物を食べておいて、螺旋の中身が空洞だとか、コーンの中が空っぽとか期待を悪い意味のまま裏切っているだろうが。やるならいい意味で裏切ってほしい。ゆで卵が中に入っているとか。
「あのね、フェルちゃん、アレはああいうものなの。皆、知ってて買ってるんだよ。フェルちゃんは初めてだったからそう思うだけだから」
「俺は初めて食ったけど、詐欺だとは思わなかったけどな。フェルがおかしいんだ」
私がおかしいのだろうか。いや、まだ二対一、ルネとヤトとアラクネがいる。期待の眼差しで三人を見た。
「そもそも何で私にソフトクリームとやらを買って来てくれなかったんですかね? あんなに頑張っていたのに……! あ、空洞の件はどうでもいいです」
「フェル様は食に関してはおかしいニャ」
「詐欺だとは思わないクモ」
アウェーだ。味方はいない。孤立無援だ。
ここにニアがいてくれれば助けてくれたはずだ。ニアはロンが寂しがるとか言ってこの女子会に参加してくれなかった。ニアだったら分かってくれると思うんだが。
「もういいだろ、それより恋バナしようぜ?」
それこそ、どうでもいいだろうが。他人のノロケを聞いて何が楽しいんだ。
「じゃあ、私がノストさんと一緒にダンジョンにいった時なんだけど――」
「その話は聞き飽きたからしなくていいぜ。ため息と舌打ちしか出ねぇし」
「リエルちゃん、ひどいよ!」
リエル、よく言った。心の中で褒めてやる。偉い。
「なら僭越ながら私が。魔界に私と同じ総務部の受付嬢がいるんですがね、仕事中に隠れて念話してるんですよ。怪しいとは思いませんか? ひいき目に見ても私の方が強いんですが、何で私は彼氏の一人もいないんですかね?」
「モテるモテない以前に仕事中に念話してるのを咎めろ。後、ルネがモテないのは性格だと思う。ちなみに、それ恋バナか? 人生相談だろ?」
「フェル様のつっこみは相変わらずですね! でも、こんな性格でもいいって言ってくれる男はどこかにいるはずですよ。必ず見つけ出す……!」
頑張れよ、としか言いようがないのだが、正直なところ、どうでもいい。
「そう言えば、獣人達はどうなんだ? なんだかヤトの近くをウロウロしてたよな? もしかしてモテたのか? 俺より先に結婚するのは許さねぇぞ?」
「気にいられた感じはするニャ。だけど、誰かとつがいになるつもりはないニャ」
「なんでだよ? アイツ等なら選び放題じゃねぇか」
「アイドル冒険者は恋愛禁止ニャ。特定の誰かと付き合うなんてとんでもないニャ。私は皆のアイドルニャ」
そんなルールがあるとは知らなかった。どうでもいいけど。
もしかしてメノウとかもそうなのかな。確かに付き合っている男がいるような感じはしなかったけど。どちらかというと、弟のカラオが先に結婚しそうだ。
「恋愛禁止? 多分、ディアに騙されてんぞ、それ」
「ニャ!?」
ディアならありえるな。
「アラクネちゃんは何かないの?」
ヴァイアがアラクネに恋バナを聞いている。確かアラクネは結構長生きだ。なにかしらのロマンスがあったかもしれないな。
「アラクネの雄っているかどうかも分からないクモ。会ったことがあるアラクネは雌だけだったクモ。いたとしても気にいるかどうか分からないクモ」
イメージでしかないけど、確かにアラクネは雌、という感じがする。なるほど、長く生きても相手がいないのか。それはそれで大変だな。
「なんだよ。それじゃ一生独身か? つまらなくねぇか?」
「そうでもないクモ。今は服作りが楽しいから問題ないクモ」
趣味に生きるのか。私も本を読んだり書いたりする生活をしたい。
「そういうもんか。なら次は――フェルは聞くまでもねぇな。どうせねぇだろ?」
「なんだとコラ」
確かに何もないけど、魔王様と踊った。あれはジャンル分けするなら恋バナに該当するはずだ。だが、言わん。あれは私だけの記憶だ。
「じゃあ、リエルちゃんは何かあるの?」
「お、聞くか? 俺の恋バナ。あれは、俺が純情だった頃の話でな――」
「そんな頃はないだろ? 創作か? いや、妄想?」
「リエルちゃん、恋バナは多少盛ってもいいけど、嘘は駄目だよ?」
「お前達、俺に喧嘩売ってんのか? 高くても買うつもりだぞ? あぁ?」
聖女らしからぬ声をだしながら威嚇してきた。怖くはないが、女神教徒達に同情したくなる感じだ。
いきなりルネが「あ!」と声をあげた。驚いた、というか何かに気付いた、という声だけど、どうしたのだろう? 恋バナじゃないよな?
「なにかあったのか?」
「侵入者ですね。捕まえてきます」
ルネはそういうと、その場から消えて、人形が代わりに置いてあった。こういう交換での転移って結構いいな。
数秒後にルネが帰って来た。黒ずくめの男を脇に抱えている。
「アラクネっち。糸で縛っておいてもらえますか?」
「おまかせクモ」
アラクネは手慣れた感じに男を糸で縛る。そして地面に転がした。イモムシだな。
「コイツが侵入者か?」
「はい、北の城壁を登って来たみたいですね。夜は門を閉めているそうですから」
北の城壁か。北からとなるとルハラの斥侯かな。本隊が来るのは四日後らしいから、この町の近くにいた奴をこっちへ寄越した可能性がある
「えっと、どうしましょうか?」
「特に聞くこともないし、牢屋でいいかな。しばらくこういうのが多いかもしれない。これから捕まえた奴は全部捕まえて牢屋にいれておいてくれ」
「了解です!」
ルネは男を抱えて城の中へ入って行った。よく考えたらルネも結構頑張ってくれている。褒美をあげないと駄目だろうか。でも、結構お土産として色々渡している気がするな。うーん?
そんなことを考えていたら探索魔法に反応があった。どうやらジョゼフィーヌ達が帰って来たようだ。
全員が簡単に城壁を超えてくる。門が閉まっているからなんだろうけど、城壁って意味ないな。
そして全員が広場に集まった。
「フェル様、依頼を達成してまいりました」
ここは褒めてやるのがいいのだろう。デキる上司になるのだ。
「えーと、お前達、よくやった。上司として鼻が高いぞ」
なんだかポカーンとされた。せめて反応しろ。
それはともかく、上司として釘を刺しておかないといけないことがある。
「ジョゼフィーヌ。今のうちに言っておくが魔物ギルドの人界征服はなしだ。お前達が人界を征服しようとするなら私が全力で阻止するぞ?」
「それは……畏まりました。アンリ様もフェル様が手伝ってくれるなら、と条件を付けていましたので、フェル様が乗り気でないのなら人界征服は諦めます」
おお、いう事を聞いてくれた。それでこそ我が従魔。今後もその調子でお願いしたい。
「それで念話で話したが、トランの魔物とやらはどこだ?」
「はい、私の体内に入れてきましたので、今、ここに出します」
ジョゼフィーヌの体内から数体の魔物が出てきた。全部気絶しているようだ。
よく見るとワンコだ。ワンコの魔物だ。是非とも部下にしたい。
だが、それは後だ。まずは魔眼で確認。……間違いなく隷属されているな。
「ヴァイア、隷属魔法を解除できるか?」
「この子達に隷属魔法が掛かっているんだね? ならパパッと解除するよ!」
普通、パパッと解除はできないんだけど、ヴァイアだからな。
「ふう、これでいいかな?」
数分で終わってしまった。出来るとは思ってたけど思っていたよりも簡単にやったな。
念のため魔眼で確認。……うん、問題ない。
「リエル、とりあえず、治癒魔法を使ってやってくれないか? ところどころ怪我してるみたいだ」
「いいぜ。ちょっと待ってな」
こっちは数秒で終わった。みるみる傷が塞がっていく。傷跡すら残ってない。二人とも化け物だな。
「是非とも部下にしたいが、話を聞くのは明日だな。いまは寝かせてやろう。だが、暴れたりしたら困るから念のため見張りをしておいてくれるか?」
「畏まりました」
ジョゼフィーヌが色々と指示を出している。どうやら順番で見張りをするようだ。なら安心かな。
「さて、皆、遅くまで付き合わせて悪かったな。助かった。今日はもういいからゆっくり休んでくれ」
「おいおい、俺の恋バナが終わってねぇだろ?」
「いや、興味ない」
本当に興味ない。
「なあ、親友。今日は夜更かしして語り合おうぜ? このままパジャマパーティと洒落込もうじゃねぇか。ディアともやったことあんだろ? なら俺ともやるべきじゃね?」
親友ってなんだろう? 嫌がらせを受ける間柄だというなら解消したい。
「なら私も参加だね! 私とノストさんのメモリーが炸裂するよ!」
しなくていい。
でも、このままじゃ解放してくれないだろうな。仕方ない、聞いてやるか。その方が早く寝れる。
「わかった。手短にしろよ」
その後、魔物達を巻き込んでパジャマパーティとなった。誰もパジャマなんて着てないけど、パジャマパーティらしい。
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