MVP

 

 アンリやスライムちゃん達と下のフロアに移動した。


 第二階層は森というかなんというか、植物が多い感じのエリアだ。従魔達は普段から森に住んでいたから、ここなら快適に住めるかもしれない。私は嫌だが。


「アビス、ここは森なの?」


『ここは植物園です。生命体に適した環境にするため、森林エリアに変更中です』


 植物園というのは分からないが、森林にするようだから問題ないだろう。もっと木や草なんかを増やすのかな。出来れば食べ物がなる木を増やしてほしい。


「ここにある木も魔力で出来てるの?」


 アンリが木をペシペシと叩きながらアビスに聞いた。確かに私も気にはなっている。


『正解です。ダンジョン内で作られたものは、すべて魔力で生成されています。オリジナルに比べ、五割程度の再現率ですが、ほぼ問題ないと認識しています』


 半分というのはほとんど再現していないと思うけど問題ないのだろうか。


 木を触ってみると感触は普通だった。これが本物の木だと言われても気づかないと思う。これで半分程度の再現率なのか?


「本物と変わらないように思えるのだが、何か違うのか?」


『主に見た目と耐久性のみ重視しており、それ以外の再現をしていません。例えば木に樹液がない等です。他にも木の匂い、味などもほとんど再現していません』


 そういうことか。でも、そうなると従魔達は食事ができないのかな?


「この森にあるものを食べても意味がないか? 栄養は含まれてるかどうかなんだが」


『栄養は含まれていません。ですが、魔力で生成されていますので、食べれば魔力を吸収できます。魔力の還元率が低いのでやってほしくはありませんが』


 食事はダンジョンの外でやってもらうしかないんだな。オークや大狼の狩りとかに期待するしかなさそうだ。


 そうだ、狩りではなく、畑仕事ならどうだろう。


「ここで食物を育てることは出来るのか? トマトとかの種を持っているんだが」


『地面の土も魔力で作り出したものですので、オリジナルの土で育てた場合と比べ成長率が著しく低くなります。また、魔力に反応してまともな食物にならない可能性が高いです』


 駄目か。仕方ない、ダンジョンの外で育てよう。持っている種は、ひっそりと育てるんだ。絶対にバレてはいけない。動くトマトとか嫌だ。


 そんなことを考えていたら、アンリに服の裾を引っ張られた。


「フェル姉ちゃん。そろそろ帰ろう。冒険心に火が点いちゃう」


「そうだな。そろそろ帰るか」


 そうだ。よく考えたらそろそろ結婚式の準備をする時間だ。


「アビス。従魔達に連絡してくれ。村の広場に従魔達を向かわせる約束をしているのだが、そろそろ時間なんだ」


『確認しました。従魔とは空間内の生命体の事と判断。情報を更新します。村の広場に集合しろという旨の連絡でよろしいですか?』


「それでいい。というか、転移が可能なんだよな? 強制的に外に出してくれ」


『命令を確認しました。空間内の従魔達に連絡します。しばらくお待ちください』


「わかった。よろしく頼む」


『従魔達は村の広場に集合してください。繰り返します。従魔達は村の広場に集合してください。十秒後に順次、空間の外へ強制転移を実行します。ご利用ありがとうございました』


 今のアナウンスはフロア全体に声が届いていたのだろう。私達には聞こえ方に違いはないけど。


『アンリ様たちは最後に転移しますのでしばらくお待ちください』


 どうやら転移は最後らしい。どれくらいの時間が掛かるのかな。狼たちが多いからな。


「フェル姉ちゃん、明日、またダンジョンを攻略しよう」


 ダンジョンが気にいったんだな。でも、明日は駄目だ。


「明日は結婚式だろ? そんな暇はないんじゃないか?」


「そうだった。せっかく出し物の練習をしたんだから、ちゃんとお披露目しないと」


 出し物? アンリは明日の結婚式で何かするのだろうか?


「何をするんだ?」


「それは秘密。ヤト姉ちゃんとディア姉ちゃんとアンリの三人でやる、とだけ言っておく」


 なんだ、その面子。というか、ヤトもやるのか。何をするんだろう?


「危ない事じゃないんだよな?」


「それは大丈夫。危ない事じゃない。今日より安全」


 ならいいか。明日の楽しみにとっておこう。


『みなさんの番になりました。準備はよろしいですか?』


「うん、お願い。転移って始めてだから楽しみ」


「こっちも大丈夫だ。やってくれ」


『転送します。またのご利用をお待ちしています』


 ふっと、足元が無くなる感覚があると、次の瞬間には目の前に畑が広がっていた。


 周りにはフラフラした従魔達がいた。転移酔いかな。急に視界が変わると気持ち悪いからな。


「よし、お前達、村の広場に行くぞ。全員で行くと邪魔だから狼たちはここで待て」


 百匹以上いるからな。大狼だけで十分だ。


「みんな、広場に行こう。結婚式のお手伝いは大事」


「アンリ、行くのはいいのだが、なんで私の背中に登った? おんぶするのか?」


「フェル姉ちゃんの背中は、乗り心地がいい。ベストフィット」


 それは理由になっていないと思うのだが。それにいいとして、狼たちやカブトムシ、さらにはスライムちゃん達から敵意を感じる。もしかしてアンリを背負いたいのだろうか? むしろ譲りたいのだが。




 広場に着くと、村の奴らステージのようなものを建てていた。半円型のステージだな。ここで出し物をするのかな?


 そしてステージの脇では、ロンがねじり鉢巻きで大きな木槌を持っていた。どうやら村長と話しているようだ。まずは村長に話しかけるか。


「従魔達を連れてきたが、どうすればいい?」


「フェルさん、来てくれましたか。ロンにだいたいの構造を伝えましたので、その指示に従ってステージを作ってもらえますか」


「ロンはこういうのが得意なのか?」


「おうよ。やぐらから砦まで何でも作れるぞ」


「そうか。猫耳が好きなだけのおっさんじゃなかったんだな。とりあえず、従魔達を連れて来た。何をすればいいのか分からないので、直接教えてやってくれないか」


「わかった。魔物達は人族の言葉を理解できるんだよな? じゃあ、魔物達を借りるぞ」


「無茶なこと以外はなんでもやってくれると思うから、色々と指示してやってくれ」


 ロンは連れて来た従魔達に向かって色々と指示を出しているようだ。ロンというだけでちょっと心配だが、多分、大丈夫だろう。


 よし、これで私の任務は終わりだ。今日、明日とゆっくりしよう。


「アンリ、そろそろ背中から降りてくれ。私は食堂で休憩する」


「フェル姉ちゃんは手伝わないの?」


 アンリがそういうと、広場にいた奴等からの視線が集まった。だが、私には正当な権利がある。負けんぞ。


「リエルを連れてきたり、森の騒動を解決したりと、色々と結婚の事前準備をしてきたんだ。そろそろ休憩してもいいはずだ」


 今の時点でも間違いなくMVPのはずだ。超貢献してる。


「そうですな。結婚式を行えるのはフェルさんが頑張ってくれたおかげです。全部任せてしまってはいけませんな」


 村長から助け船を出してくれた。いいぞ、頑張ってくれ。


「そうだな。ここまで来たなら、あとは俺達に任せて休んでいてくれ」


 ロンからも援護が来た。いい奴に見える。


 従魔達も頷いている。おお、なんか頑張ったのが報われた気分だ。ちょっと泣きそう。


 よし、心置きなく休もう。


「宿にいるから、何かあったら言ってくれ」


 とりあえず気を遣う振りをして宿に向かう。建前って重要だ。


「フェルちゃん! 丁度良かった! 手伝って! ……なんで嫌そうな顔をするのかな?」


 嫌だからに決まってるだろうが。

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