ダンジョン生成

 

 早速ダンジョンを作ろう。借りている畑が手狭になっているから、植物チームが畑は渡さんぞ、という感じの顔になってきてる。普段からキラービーと蜜を巡って争いをしているからな。畑に他の魔物がいると気が気でないのだろう。


 ダンジョンコアを亜空間から取り出す。現在はひし形ではなく四角だ。何度見てもどういう原理かわからん。開発部からは絶対に壊さないようにと言われているが、そもそもどうやって壊すのだろう?


 ダンゴムシが住んでいた状況を見ると住居型のダンジョンコアだと思う。だが、一度、開発部の奴等を呼んで確認してもらうか。住居型でなくても問題はないが、利用中のダンジョンコアを把握したいとか言っていたしな。今の状態なら一人ぐらい魔族を呼んでも問題ないだろう。


 まあ、それは後だ。まずはダンジョンの生成だ。


 ダンジョンコアに魔力を流すと、青白い光を放ちながら変形を繰り返した。しばらく待つとひし形のダンジョンコアになる。


「起動しました。ご用件をどうぞ」


 ダンジョンコアが感情のない声でしゃべった。ちょっと周囲がざわついている。初めて聞くと驚くよな。


「ここにダンジョンを作りたい」


「申し訳ありません。ダンジョン、の意味がわかりません。私は疑似永久機関です。現在のタイプはシェルターです」


 そういえば開発部からダンジョンコアの正式名称は疑似永久機関だと聞いたことがあったな。タイプがシェルターというのは住居型という事だろう。なら、シェルターを作る、でいいのかな?


「ここにシェルターを作りたい」


「その動作を行うためには一定以上の権限が必要です。チェックします。しばらくお待ちください」


 相変わらず権限が必要なのか。


「権限を所持していることを確認しました。命令を実行します。生体エネルギーを注入してください」


 生体エネルギー? ああ、魔力のことか。確かそう聞いたことがある。


 ダンジョンコアに触れて魔力を流す。なんというか、ものすごく魔力を吸い取られるのだが。


「生体エネルギーの充填を確認。地下座標に空間を展開します。所要時間は約五分です。しばらくお待ちください」


 ダンジョンコアが回りながら光を放った。ダンジョンの空間を作っているのだろう。言われた通りしばらく待つか。


「フェル姉ちゃん。これはなに?」


 アンリがダンジョンコアを不思議そうに見ている。


「ダンジョンコアという、ダンジョンを作る核みたいなものだ。私も詳しくはしらんが、いわゆる旧世界で作られた物だな」


 アンリがさらに不思議そうな顔をした。


「旧世界ってなに?」


「魔界が汚染される前の時代を指してそう言ってる。本当かどうかは知らないが、そのころは魔界にも人族が住んでいたらしいぞ?」


「そうなの? どれくらい昔の話?」


 結構食いつくな。


「さあな。魔界にそういうのを調べている機関があるが、正確なところは分かっていない。魔族のもっとも古い記録は、二千年前ぐらいだから、それ以上、昔の話だな。もしかして、こういう話が好きなのか?」


「好き。ロマンを感じる」


 アンリがうれしそうな顔をしている。


 たしかにロマンだな。今よりも過去の方が高度な文明を持っていたとか心が躍る。ものすごい戦争が起きて文明が滅ぶなんて本を読んだ時は感動して泣いた。


「人界にもそういう話がある。今の人族は第四世代。過去に三回滅亡した」


 滅亡し過ぎだろう。


「なんで分かる?」


「理由は知らない。学者さんがそういうことを言ってるって聞いた。遺跡の様式がどうとか、壁画がどうとか。いつか見に行きたい」


 なるほど。滅亡するたびに建築物の様式が変わっているのが分かったのかな。壁画というのは壁に描いた絵のことか? 時代に合わないような絵が出てきたんだろうか。


 うーん、ロマンだな。私も見たい。人族と友好的な関係を結べて、魔界の食糧問題が解決したらちょっと見に行こうかな。


「フェル姉ちゃん、いつか一緒に見に行こうよ。アンリも成長すれば強くなって行動範囲が広がる」


「そうだな、いつになるかわからんが、アンリが強くなったら一緒に遺跡巡りでもするか」


 アンリが満面の笑顔になった。そんなにうれしいのだろうか。だからと言ってここで素振りをするな。危ない。


「空間の展開が完了しました」


 ダンジョンコアからアナウンスがあった。どうやらダンジョンが出来たらしい。


「状態を報告します。初期生体エネルギーの容量により、第三階層まで展開しました」


 三階層か、それなりに出来た気がする。


「制御ルームは最下層に展開しました。一定の権限を持つ方は制御ルームへ転送が可能です」


 ダンジョンコアが設置されるのは最下層か。転送に関しては勝手にやってくれたみたいだ。面倒なくていい。


「次にシェルターの設定を行います。必要な機能を設定してください」


 必要な機能か。確か聞けば教えてくれたよな?


「使える機能を教えてくれ」


「利用できる機能は、維持管理、拡張、防衛、自律、の機能です」


 維持管理はダンジョンの維持管理だよな。拡張は階層の拡張、防衛は階層内のトラップを増やす感じか? 自律とはなんだろう?


「自律の機能って?」


「思考プログラムを起動してシェルターの管理を行う機能です。思考プログラムには名称の設定が必要になります」


 聞けば聞くほど、分からないことが多いのだが。


「思考プログラムってなんだ?」


「疑似的に構築された思考のことを指します」


 さっぱりわからん。


「自律機能について、もう少し簡単に説明してくれ」


「シェルターの管理を自動で行います」


 そういうことか。単純な命令を聞くゴーレムみたいなものかな。


「じゃあ、自律機能を使ってくれ」


「名称の設定をお願いします」


 名称か。これはアビスだろうな。


「アビス、にしてくれ」


「アビス、でよろしいですか?」


「それでいい」


「認識しました。思考プログラムを構築します。構築完了まで約三分」


 色々と面倒くさいな。だが、これで終わりかな?


「フェル姉ちゃん、さっきから何をしているの?」


「私もよく分かってない。どうやらこのダンジョンを自動で管理してくれるらしい。管理してくれるやつの名前をアビスにした」


「おおー」


 周囲の魔物達からも感嘆の声が聞こえた。


 そんなにアビスって名前がいいのだろうか? センスって難しいな。


「思考プログラムを構築しました。起動します」


 終わったのかな?


「私はアビスです。このシェルターをどのように管理しますか?」


 普通に維持管理してもらえればいいかな。


 そう答えようとしたら、アンリが手を挙げた。なんだ?


「最強で最高のダンジョンにして。手抜きは許さない」


 おい。


「ダンジョンの認識が曖昧です。検索します。……確認しました。テーマパークの施設と判断。認識しました。あらゆる権限を使い、最強で最高のダンジョンにします。タイプ、シェルターを破棄、タイプ、アトラクションで再構築」


 やらかした気がする。

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