大狼
宿でリエルと雑談していると、外の方が騒がしくなった。なんだろうと思っていると、ディアが駆け込んできた。
「フェルちゃん、リエルちゃん! 大変だよ! ちょっと来て!」
随分と慌てているようだ。何かあったのだろうか?
「わかった。どこに行けばいい?」
「すぐ広場に来て! リエルちゃんも!」
「俺もか? 分かった」
急いで宿の外に出る。
広場には村長やノスト、それに村の奴らが水の入った桶やタオルを持って集まっていた。その中央にはオーク達と結婚男が血を流して倒れているようだ。
見た感じかなりの怪我を負っているようだが、意識は保っているように見える。何があったのだろう?
ディアがリエルを服を引っ張り、オーク達の近くに連れていった。
「リエルちゃん、怪我を治してあげて」
「えーと、だれも怖がらないところを見ると、オークもフェルの従魔なのか?」
「そうだ。すまないが、男やオーク達も治してやってくれないか?」
リエルは頷くと、治癒魔法を使い始めた。魔法が発動すると、あっという間に傷が塞がる。ノストの時もそうだったが、リエルの治癒魔法は凄いな。村の奴らも感嘆の声をあげている。
「よし、傷は塞いだ。だが、治癒魔法は流れた血が元に戻るわけじゃねぇ。ゆっくり休ませるか、ポーションを飲ませてやれ」
男の横にいた結婚女がリエルに何度も礼をしている。
「あー、気にすんな。同じ村に住むご近所さんだ。どうしてもお礼をしたいというなら教会に寄付してくれ」
リエルも感謝されるのが苦手と見える。私も同じタイプだ。リエルと同じなのがちょっと嫌だが。
「一体何があった? オーク達も一緒にいて、こんな状況になるとはちょっと信じられん」
少し落ち着いた男が説明をしてくれた。
どうやら、いつもの狩場で狩りをしていたら、大きな狼に襲われたらしい。
夜にしか現れないはずの狼だったので反応が遅れてしまったそうだ。オーク達は、まず男の命が最優先ということで、大狼やその取り巻きの狼とは戦おうとはせずに、男を庇いながら逃げるように帰ってきた。また、村まで来させるわけにはいかないので、遠回りをしたり、川を渡って匂いを消したりと色々やってきたらしい。
「そうか。よく男の命を優先した。世話になっている村の住人を優先するのは正しい行為だ。よくやった。体調が戻るまでゆっくり休め。あと、これはポーションだ。飲んでおくといい」
オーク達にポーションをそれぞれ一本ずつ渡す。ついでに男にも渡した。
結婚男と女、そしてオーク達が頭を下げてから、それぞれの家に帰って行った。村の奴らも一安心したのか、それぞれの家に帰って行った。広場には私とディア、リエル、村長、ノストだけが残っている。
「ふーむ、何があったのでしょうな。大狼が昼間に出ることはなかったのですが」
「いままで襲われたことは無かったのか?」
「昼の目撃証言は全くありませんでしたな。ですが、広い森です。単純に行動範囲が夜だけ広かった、という可能性もありますが」
夜だけ現れる狼か。それなら吸血鬼が変身していると言う可能性もあるが、今回は昼間だ。それはないだろう。ということは、狼型の魔物が変な進化を遂げたのだろう。ネームドの魔物は面倒だな。
「すぐに見回りをして警戒しておこう。色々と対策をしながら逃げてきたようだが、つけられた可能性はあるからな」
「それでしたら、見回りは私達が」
ノストが一歩前に出て志願してきた。だが、ノストにやらせるわけにはいかないな。
「いや、今回の件は私と従魔達がやる。私の部下に手を出したんだ。それは私に喧嘩を売る行為だと言える。やられたらやり返さないとな」
とりあえず、従魔達を広場に集めて指示を出そう。
スライムちゃんに念話を送り、広場に来るように伝えた。
数分後、従魔達が全員集合した。
ヤトも来ている。さすがにウェイトレスの服ではない。
「すでに聞いているかも知れないが、森に居ると言う大狼にオークが襲撃された」
ざわついている。少し怒りも伝わってきた。
「言っておくが、オーク達は怪我をした村の住人を優先したから逃げたんだ。決して力負けしたわけではない」
実際に大狼がどれぐらいの強さなのかは分からないが、負けるとは思えない。
「その大狼を見つけ出してやり返す」
従魔達が雄叫びを上げた。近所迷惑だからやめろ。
「よってお前たちに指示をだす。村の防衛と狼の探索だ」
そんなわけで、二組に分かれた。
村を防衛するのは、植物チーム、ミノタウロス、コカトリス、カブトムシ。狼を従えていると言うし、どこから襲ってくるかわからないから防衛を多めにした。
探索するのは、私とヤトとスライムちゃん。
簡単に言うと探索チームは夜目が使えるかどうかが基準になった。もう夕方だし、あと少しで日が落ちるからな。あとはスピード。探索魔法を使って一気に追いつめる。
よし、出発だ。私の部下に手を出したことを後悔させてやる。
村を出て探索魔法を使った。
北東二十キロの辺りに大型の生体反応がある。おそらくそこだろう。
「ヤト、北東の生体反応に向かう」
「わかりましたニャ」
「スライムちゃん達は私の亜空間に入れ。戦闘になったらすぐに出すから、準備だけはしておけよ」
スライムちゃん達が頷いたので亜空間に入れた。
それからヤトと一緒に駆け出した。とっとと終わらせて夕食にしよう。
大型の生体反応に近づくと、狼達が一定の間隔を保ちながら私とヤトについて来た。これなら間違いないな。あの反応は大狼なのだろう。
森の開けた場所に出ると、大きな狼が威嚇するようにうなりをあげていた。体長は五メートルぐらいか? なかなか強そうだ。
「貴様、魔族か? 我に何か用か?」
いきなり話しかけられた。さて、どうするか。有無を言わさずに殴っても良いが、話ができるなら一応確認しておこう。
「魔族のフェルだ。今日、人族とオークを襲ったな?」
「知らぬ」
あれ?
「怪我をした奴が、大きな狼に襲われたと言った。お前じゃないのか?」
「知らぬ。我は夜にしか行動出来ん。つい今しがた動けるようになったのだ。それに人やオーク等には、ここ数ヶ月、会ってもおらぬわ」
本当の事を言っているのだろうか? 虚偽を見抜く魔法とか使えないからな。となると魔眼か。でも頭が痛くなるのは嫌だな。
「フェル様、この大狼からは血の匂いがしないニャ」
「どういうことだ?」
「もし襲っていたら血の匂いがするニャ。たとえ洗い流してもそんなに早くは消せないニャ」
なんと。この大狼は犯人じゃないようだ。
「すまない。大狼に襲われたと言ったから、てっきりお前かと」
「そうか。誤解が解けたのなら何よりだ。なら今度は我の用事を済ませよう」
なんだ? 私に用事があるのか?
「貴様の肉をよこせ!」
大きな口を開けて噛みついて来た。その噛みつきを素早く躱す。
「私は肉なんて持っていない」
「フェル様、肉というのはフェル様自身の事ニャ」
なるほど。私を食べるという事か。なら言っておくか。主張は大事だ。
「食べられるのは嫌だ。断る」
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