ソドゴラ村へ

 

 目が覚めたが、体がだるい。それにちょっと寝過ごした。


 一晩寝たのに疲れが取れていないとは。十中八九、昨日の件が影響しているのだろう。


 まあ、いい。今日は村に帰るから早速準備しよう。


 忘れていることはないよな?


 リエルは探し出したから、村に連れていけば依頼は完了だ。女神教の爺さんのところに連れていけば、達成依頼票を貰えると思う。経費精算のやり方は分からないが、ギルドに行けばやってくれるだろう。


 お土産も買った。アンリにはミスリルの剣があるし、スライムちゃん達には石鹸がある。ニアとディアにはミスリルで包丁とか針とか作ってもらうから問題ない。村の奴等には食材を買い込んだから十分だろう。


 自分用に布や本を買ったし、エルフ達と物々交換するための物も購入した。


 よし、大丈夫だ。


 色々と確認していたら、扉をノックする音が聞こえた。


「おーい、フェル、起きてっかー?」


 リエルの声だ。もしかして迎えに来たのだろうか?


「ああ、起きてる。今、開けるから待て」


 扉の鍵を外して部屋を出ると、リエルとヴァイアがいた。どうやら二人とも準備は終わっているようだ。


「おはようさん。フェルは準備終わったか?」


「おはよう。今、確認が終わったところだ」


「おはよう、フェルちゃん。こっちも準備が終わってるよ。あと、食事の用意が出来てるから食堂まで来てくださいって執事さんが言ってたよ」


 よし、ならまずは朝食を食べて、それから西門の方に行くか。




「昨日も言ったが、本当に帰ってしまうのかね? もう二、三日ゆっくりしていけばいいと思うのだが」


 朝食を食べ終わったら、クロウが話しかけてきた。


「その分、話に付き合わされるだろうが。それに私達の帰りを心待ちにしている奴等がいるんだ。出来るだけ早く帰る」


 リエルがいないと結婚出来ない奴らがいるしな。


「旦那様、この町での対応が終わりましたら村へ行けます。話はその時に致しましょう」


「それもそうだな。よし、今日から早速仕事に取り掛かろう!」


 主人を動かすのが上手いな。


 だが、村に来るのか。面倒だな。誰かに相手してもらおう。私は嫌だ。


「フェル様、ところで馬車の用意はよろしかったのでしょうか? 昨日、夕食後に伺った際、必要ないとのことでしたので、手配はしておりませんが」


 昨日の夕食前後は何も覚えていない。それどころじゃなかったからな。多分、馬車が必要ないと言ったのはカブトムシを頼んであるからだと思う。


「ああ、必要ない。移動手段は私の方で手配してある」


「そうでございましたか。差し出がましいことを申しました。それでは昼食に携帯用の食事を用意しましたので、後でお召し上がりください」


「色々と気を掛けてもらって助かる。感謝しよう」


 そういうと、執事が驚いた顔になった。


「どうかしたのか?」


「いえ、失礼な事ではありますが、魔族のフェル様にお礼を言われたので驚いてしまいました。申し訳ありません」


 そういえば、最初にエルフに会った時も似たような事を言われたな。


「ところで、どんな手配をしたのだね? 魔族の移動手段というのに興味があるのだが?」


「報告を受けていないか? カブトムシを使うのだが」


「そういえば、大きなカブトムシを見たという報告を受けていたな。それに乗るのかね?」


 乗るというよりは、運んでもらう、だな。だが、別に説明する必要もないか。


「まあ、そんな感じだ」


「面白そうだな。そのカブトムシをぜひ見たいぞ。乗るのを見せてもらおう」


 面倒くさいな。執事の方を見たが、顔を横に振られた。見に来るのは決定のようだ。


「そうか。町に来ると大変だから西門から少し離れた場所で落ち合うつもりだ。興味があるなら見ていくといい」


「なあ、ヴァイア。カブトムシってなんだ?」


「フェルちゃんの従魔だよ。荷台を運んでくれるから、それに乗るんだよ」


「へぇ? カブトムシに引っ張ってもらうのは初めてだから楽しみだな」


 引っ張るわけじゃないんだが。まあ、いいや。乗れば分かるから説明はしなくていいだろ。




 館を出ると地下で従魔にした奴らが待っていた。


 大人数で移動するのは、町の奴等にいらぬ心配を与えるかもしれない。だが、こそこそする理由もないはずだ。堂々と移動しよう。魔物達には、街中で暴れたら風穴を開ける、とだけは言っておいた。多分、これで大丈夫だろう。


 館からぞろぞろと歩いたが、クロウがいるせいかあまり騒動にはならなかった。もしかすると事前に連絡していたのかな。


 西門の近くに来ると、ドワーフのおっさんが待っていた。ノストも来ているようだ。


「おう、話には聞いておったが、すごい魔物達じゃのう!」


 おっさんがこちらに気付くと近寄ってきた。


「暴れたりしないから安心しろ」


「なに、敵意があるかどうかぐらい分かるわい。心配はしとらんよ。それよりも、これからよろしく頼むぞ」


「フェル様、この町の鍛冶職人を連れていくのですか?」


 執事がおっさんを見てそんなことを言い出した。もしかすると、ヘッドハンティングはまずいのだろうか?


「なに、儂は鍛冶師ギルドでもランクが低いのでな。正式な手続きも済ませているし拘束は出来んぞ? ほれ、ギルドカードじゃ」


 おっさんがギルドカードを取り出した。そのカードを見ると、ランクにはゴールドと書かれていた。


「確かに。ゴールドランク以下であれば、拠点の移動は自由ですな。失礼いたしました」


 よく分からないが、鍛冶師ギルドのルールがあるんだろうな。まあ、問題なければ何でもいいや。


「フェルさん」


 今度はノストが近づいてきた。


「あの、実はフェルさんと話をしたいという同僚がおりまして」


「私とか? 何の用だ?」


 ノストがこっちに呼ぶようなジェスチャーをすると、年老いた兵士が近寄ってきた。なんだか随分と恐縮している感じだ。


 話を聞くと、どうやら最初にバリスタを撃った兵士のようだ。申し訳ないと頭を下げてきた。


「以前の魔族を知っているのだろう? なら当然の行為だ。私は気にしていないから、そっちも気にするな。それに、やられたからやり返したし。それで手打ちだ」


 なんだか老兵士が深々と頭を下げてきた。そこまでされるとこっちが困るのだが。


「頭を上げてくれ。これからの魔族は人族と友好的な関係を結びたいと思っている。すぐには無理かもしれんが徐々にな。そうだ、魔族の力が借りたければソドゴラ村の冒険者ギルドまで連絡しろ。依頼料は貰うが可能な限り手を貸してやる。いわゆる啓蒙活動だな」


 なんか泣き出した。どこに泣く要素があった? 周囲にはもらい泣きしている奴等もいる。何故だ。


「フェルさん、ありがとうございます。人魔大戦を生き残った者は、魔族に対して恐怖しかありません。ですが、今のフェルさんの言葉を聞いて安心できたのでしょう」


 ちょろすぎだろう。ちょっと心配なレベルだぞ。


「そうか。信用してくれるなら、それに応えよう。もういいか、そろそろ帰りたい」


「はい、外までお送りしますよ」


 門のところでカードを見せて町の外に出た。


 ヴァイアとリエル、ドワーフのおっさんと魔物達。それとノストとクロウに執事が一緒に来た。


 遠くにカブトムシが来ていた。早いな。


「おお、あれがカブトムシかね? ここからでも大きいのが分かるな」


 その通りなのだが、大きすぎないだろうか? 明らかにこの前より大きくなっているような?


 それに荷台も大きくなっている気がする。いや、気のせいだな。うん、そういうことにしよう。多分、遠近的なあれだ。


 何も考えずに近づいた。カブトムシもこちらに気付いたようだ。早速、挨拶してきた。まず、ヴァイアに。いや、いいんだけどね。


「あれ? カブトムシさん、なんだか大きくなったね?」


 カブトムシが「進化して大きくなりました」と言ってきた。気のせいじゃなかった。というか、この短期間でどうやって進化した? あれ、という事はネームド? 名前を聞くと「青雷です」という回答が返ってきた。魔眼で見ても間違いない。


 うん、魔法で説明できない事ってよくあるよな。なにかこう、あるんだろう。考えたら駄目だ。でも、村が大変なことになっていない様に祈ろう。


 村に来ない魔物達はそれぞれ帰って行った。帰り際、何度も礼をしていた。困ったことがあったらソドゴラ村に来いとも伝えた。最後まで面倒を見るという訳じゃないが、ある程度は助けてやらないとな。


 荷台は大きくなっていたが、やはりアラクネは大きすぎて乗れない。アラクネは以前作った巣があるので、そこに寄ってから行きますとのことだ。ソドゴラ村の位置を教えると、必ず行くと言って森の中に入って行った。巣は森の中にあるみたいだな。


「これに乗ればいいのか?」


 リエルが不思議そうに荷台を見ていた。おっさんと残った魔物達も荷台の周りをウロウロしていた。珍しいのかな?


「ああ、適当に座ってくれ。ロープで自分を荷台に固定させろよ。危ないぞ」


 荷台にそれぞれが乗り込んだ。そして不思議な顔をしながらもロープで荷台と自身を固定したようだ。


 結構、大所帯だが荷台も大きくなっていたので余裕があるな。


「じゃあ、帰る。世話になった」


 一応、礼儀としてクロウに挨拶をしておこう。


「いや、世話になったのはこちらだ。改めて礼を言おう。仕事を終えたらすぐに向かうので、その時はよろしく頼むぞ」


「面倒だが仕方ないな。だが、お供は連れて来いよ。もてなしがあるとは思わないことだ」


「そうさせてもらおう」


「私もお供として伺いますので、その時はよろしくお願いします」


「わかった。言った通り、もてなしはない。それでも良ければいつでも来い」


 執事は微笑んでから礼をした。


 最後はノストのようだ。


「領主様が訪問される前に、先発隊として村にしばらく常駐することになりました。明日にでも出発します。それとヴァイアさん。お祭りに間に合えば参加させて頂きますので、その時はよろしくお願いします」


 それを聞いたヴァイアがものすごい笑顔になった。まぶしい。抑えろ。


「連絡をくれればカブトムシを派遣するぞ?」


「え? 村まで二日は掛かりますよね? 明日出発するので、派遣は出来ないのでは?」


「いや、コイツなら半日程度で村に行ける」


 ヴァイア以外の皆が変な顔をした。


「まあ、見ていれば分かる。着いたらギルド経由でノスト宛に念話を送るから、使うなら言ってくれ。よし、出発だ」


 カブトムシが頷くと、荷台に覆いかぶさった。そして一気に上昇する。ホバリングしてから、ゆっくりと移動し始めた。


 領主たちが騒いでいたけど聞こえないから無視しよう。


 そして悲鳴がうるさい。暴れると落ちて死ぬぞ?

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