買い物
婆さんの雑貨屋で買い物しよう。
とりあえず、何種類かの布を買うことにした。針や糸も念のため購入する。布と同じ色の糸じゃないと、なんとなく違和感があるしな。
あとはお土産だ。しかし、お土産はセンスが問われる。基本は食べ物でいこう。明確に欲しい物が分かる奴のお土産だけチョイスするのだ。
そして、目の前に猫耳ヘアバンドがある。見たくなかったけど。とりあえずロンのお土産に決まりだな。しかし、犬耳ヘアバンドが無いのは何故だろう? 人界は猫派が多いのか。解せぬ。
スライムちゃん達の好みは何だろう? 食事もしない上に空気すら不要だからな。趣味もわからん。洗濯とゴミ拾いと畑仕事が好きなような気はする。……石鹸とかどうだろうか? 自身で浄化出来そうな感じだけど、渡してみよう。
他の奴らは食べ物でいいな。後は面白い物がないか見て回ろう。
木彫りの熊があった。躍動感がすごい。職人の手によるものなのか。これならエルフも食べ物と交換してくれるかもしれない。買いだな。
それと木製の髪飾りとか置いてあった。エルフの女性が好きだったような気がする。どれがいいのかは分からんが買っておこう。
おお、モップが売っている。ヴァイアの店だと備品だから買えなかった。これも買いだ。以前、宿のモップに魔力付与してユニークにしてしまったから、これと交換してもいいな。
種が売られていた。キャベツとトマトだ。これは賭けかもしれない。スライムちゃん達にバレずに育てられるだろうか? いや、やるのだ。魔界の奴らの食糧不足を解決するためにも諦めては駄目だ。買いだな。
こっちのスペースは女性用の品物かな? 一応見てみよう。
これは髪をすくための櫛とかブラシかな。これはワイルドボアの毛を使ったブラシか。ワイルドボアは色々なところに使われているな。よし、買いだ。身だしなみを整えるものは大事だ。
こっちは香水かな。「男の本能を刺激」「鈍感系、難聴系の男もイチコロ」「恋愛に禁じ手なし」「絶対に逃がさない」よくわからない煽り文句が書いてある。なんというか危険な物でもあるのだろうか。うん、いらないな。
これは女性用の下着か? 結構、色々な種類があるんだな。しかし、このバタフライって感じの物は何なのだろうか? これも下着なのか? 色が紫ってすごいな。羞恥耐性スキルがないとつけられないと思う。いらん。
さて、私の方は大体終わった。二人はどうしただろう?
ヴァイアはどうやら村から持ってきた使い捨て魔道具を売っているようだ。結構な量があるから時間が掛かりそうだな。
リエルは店内をウロウロしながら、色々と商品を見ているようだ。変なもの買うなよ。
ようやく全員の買い物が終わった。買った物はギルドカードで支払った。経費にはならないから、護衛の報酬から差し引きしてもらおう。
店を出ると、婆さんが店から出てきた。見送りかな?
「ありがたいことに随分買ってくれたね」
「一割引きだからな。決して謝罪のつもりで買ったわけじゃないぞ」
「当然だね。大体、うちは品揃えも品質も良いんだ。謝罪なんかなくても買うに決まってるさ」
そう言うと婆さんは黙ってしまった。だが、店の中には戻らないようだ。まだ何かあるのか?
「アンタが昔のような魔族じゃないことは分かったよ。だから、まあ、その、なんだ。アタシが生きている間にまた来な」
デレた。
エルフの隊長もデレたけど、婆さんもか。女性だけど、需要はないぞ。
「今はソドゴラ村に滞在しているから、これからも来る可能性はある。その時は寄らせてもらおう」
「そうかい、じゃあ、もう少し長生きしてやるさ」
そういうと、婆さんは店に戻って行った。
話をしただけなのにいきなりデレたな。一体、何があった?
「良かったね、フェルちゃん。魔族の理解者が増えたよ!」
そうなんだろうか? チョロすぎないか? ソドゴラ村の奴らに近いものを感じる。
「魔族と仲良くする奴が多くなると、女神教の信者が減っちまうかもなぁ。まあ、どうでもいいけど」
いいのか。さすが問題児だな。
婆さんの話を聞いたり、買い物をしたりしていたら時間が結構経っていた。今日はもう、宿に帰るか。
宿に入ると宿の主人に話しかけられた。
「ノストさんがここに来るそうだ。寝ずに待っていてくれと、使いの兵士さんが伝えに来たぞ」
ノストの方は仕事が終わったのかな。かなり忙しいと聞いたが。
「わかった。なら、ここで待とう。食事を取りたい。メニューをくれ」
「まいどあり。昼に使ってたボックス席を使ってくれ」
メニューを受け取って、ボックス席に来た。早速座ろうとしたら、いきなりヴァイアが仕切りだした。
「フェルちゃんはその席ね、リエルちゃんはその隣。私はここ」
私がボックス席の窓際、その隣がリエル。その正面にヴァイアが一人で座った。どこに座ってもたいして変わらないと思うけどな。
「昼に食い過ぎたから、腹が減ってねぇな。俺は野菜とスープだけでいいや」
「あ、私も」
「お前ら少食だな。私はシーフードシチューをメインに、オムレツと焼き魚をサブで食べよう」
「その二つはサブじゃねぇ」
そんなことは知らん。
注文すると、すぐに食事が来たので、がっつり食べた。サイクロンはしなかった。あれは一人の時にやろう。危ないからな。
食後に二人と雑談していたら、ノストが息を切らしながら来た。
「お待たせしました。待たせてしまいましたか?」
「いえ、今来たところです!」
ヴァイアが答えた。それはいいのだが、来たのは二時間前だぞ? 嘘つくなよ。
「来たのは二時間前だが食事をしていた。特に待ってないから気にするな」
「そうでしたか。では、今日や明日のことを報告したいので、ご面倒ですが、少しお時間をください」
「時間なら一日でも大丈夫です!」
「ヴァイア、ちょっと黙ってくれ。話が進まん。ノスト、時間は問題ないから報告をお願いする」
「わかりました」
ノストが空いている席に座ろうとすると、ヴァイアが立ち上がった。
「奥に座ってください。夜景が綺麗ですから!」
窓の外はただの道だぞ。夜は暗いだけだ。
「ノスト、話が進まんから奥に座ってくれ」
「は、はぁ」
ノストがボックス席の奥に座り、ヴァイアが横に座った。こう、ノストを逃がさない布陣だ。このために、こういう席にしたのか。策士だ。そして、笑顔がまぶしい。夜なのに。
「えっと、では報告しますね」
報告の内容はこんな感じだった。
スティン、グレガー、ファスは、犯罪者として拘束されたらしい。三人は共謀して、町中で調教していない魔物を飼い、さらに魔物を他の場所に売るという罪を犯していた。その証拠も出てきたため、実刑は免れないとのことだ。魔物を売った場所に関しては、これから調査を始めるらしい。
この件に貢献した私達には領主から報奨金がでるらしい。懸賞金等が掛かっていたわけではないが、もっと事が大きくなる前に防いでくれたということで、褒美を取らせると領主から念話で連絡があったようだ。
また、冒険者ギルド本部と女神教本部からも、謝罪としてのお金が町に振り込まれるので、その一部をくれるそうだ。
なんだか、随分お金が入ってくる感じだな。よし、豪遊しよう。
「なあなあ、牢屋でヴァイアに倒された奴って領主じゃないのか? 俺、あいつが領主だと思ってたんだけど?」
リエルが変な事を言い出した。でも、牢屋でそんな事を言ってた気がするな。いや、領主が悪い奴的なことを言ってただけか? 私も領主が悪い奴だと思った気がする。忘れてたけど。
「いえ、スティンは、領主様の息子、次男にあたります。色々調査して分かったのですが、スティンは領主様の跡を継ぐのは自分だと言っていたらしいですね。その……領主様やそのご家族を亡き者にしようとしていたようです。どうやら、支援者がいたようですね。残念ながらその支援者が誰なのかは分かっていませんが」
「領主の息子であることは、牢屋で言ってただろ? 聞いてなかったのか?」
「あの時はヴァイアが睨んでたしなー。めっちゃ怖かった」
納得した。でも、リエルがノストと結婚とか言い出すからだ。
「酷いよ、リエルちゃん! 私、睨んでなんかいないよ!」
「ヴァイア、あれは殺し屋の目だったぞ。女性として、いや、人族としてどうかと思う」
「フェルちゃんまで!」
「えーと、そう! ヴァイアさんは、スティンと戦った後でしたから、気が高ぶっていたんですよ! 大丈夫ですよ!」
ノスト、なにが大丈夫かわからんが、それはフォローなのか?
「ノストさん……!」
ヴァイアは目がウルウルしている。
なんだろう、この茶番は。もう部屋に戻っていいかな?
「ノスト、話は終わりか? なら、もう部屋に戻る。なんか疲れた」
「すみません、もう一つ報告が。明日、領主様がこの町に着くそうです。館に招待するので、昼頃に来てほしいとのことです」
昼頃という事は食事を用意してくれるのかな?
「分かった。館というのは、牢屋のあった館でいいのか?」
「はい、そうなります。実は私も招待されていますので、宿に迎えに来ます」
「分かった。昼ちょっと前に宿に居るようにしよう」
よし、これで終わりだ。とっとと部屋に戻って寝よう。……ヴァイア、席を立て。ノストが出れなくて困ってるぞ。
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