尋問
「ミトル、昼だ。食事を作れ」
「状況を見てくれよ。そんな場合じゃねーだろ?」
あきれた顔で言われた。どんな場合でも食事は大事だろうが。エルフは食事しなくても動けるのか、コラ。
だが、分からなくもない。魔族はわがまま、とか言われたくないから、とりあえず待とう。
エルフ達は三姉妹を拘束して座らせている。あの手錠もかけたようだ。私と戦った二人はまだ意識が戻らないようだな。一人は意識があるようだが、こっちを見て少し怯えているようだ。
最初に捕まえていた人族達はいつの間にかエルフの姿に戻っていた。なにかしらの幻視魔法を使われていたのだろうか。姿の戻ったエルフの三人はさっきまでと違って意識がない。精神に干渉するような魔法でも使われていたかな。
「隊長、どうしますか?」
「とりあえず、本物の長老たちを空き家のベッドまで運ぼう。あと、長老に化けていた人族は千年樹の牢に入れるしかあるまい。一度、戻るぞ」
「フェルはどうしましょーか?」
私のことか。隊長の奴は眉間に皺を寄せて考えているようだ。嫌そうな顔をするな。
「牢に入れても、手錠をしても無意味なようだ。手錠を外して自由にしてやれ」
あの手錠程度では魔力を抑えられても、転移ができるからな。意味がないと悟ったか。
ミトルは隊長の言葉を聞くと長老たちの服から鍵のようなものを探し出した。その後に私の手に残った手錠を外してくれた。
その手錠は人族が作ったのか、エルフ族が作ったのかはわからないが、面白い物を作るな。あとで魔界の開発部に教えてやろう。壊れた物で良いからくれないかな。
「よし、食事を用意しろ。腹ペコだ」
「ブレないなー。でも、昨日泊まったところに着くまで待ってくれよ」
お預けか。腹が減っては戦ができぬって言葉を知らんのか。戦いは終わった後だけど。
永遠の園という場所から、昨日一夜を明かした場所まで戻ってきた。
早速、ミトルに食事を作らせて食べた。相変わらず微妙な味なので助かる。笑顔にならずに食べられた。
さて、この後どうなるんだろう? 私は無罪放免かな? それに、あの三姉妹は何者なんだろう? こいつらが世界樹を枯らしたのかな? そうなると魔王様は何をしたのだろうか? 疑問ばっかりだ。
「あの人族たちが何者か知っているのか?」
「いや、知らねー。どこかで見たことあるような気もするけどな」
ミトルは何かを思い出そうとしているが駄目なようだ。使えない。
「吐かせればいいだけだ。尋問するぞ」
隊長の奴は、エルフにしては血の気が多いよな。いや、責任感が高すぎるのか。そういう奴は気をつけてほしい。また、思考誘導されたらたまったもんじゃない。
「おい、起きているのは分かっている。質問に答えろ」
隊長の奴が牢の外から中の三姉妹に話しかけた。意識を失っていた二人も、すでに意識を取り戻していたようだ。
「お前たちは何者だ? 単なるリンゴ泥棒ではあるまい?」
「言う訳ないでしょう?」
三姉妹の中で剣を持っていた奴が挑発的な笑みを浮かべて顔でそう言った。コイツが一番上の姉になるのかな? リーダーのように見える。
「なら死刑だが、それでいいか?」
エルフは死刑が好きなのかな。血が好きなエルフって嫌だな。本で読んだ感じだと妖精とか精霊とかと戯れる感じだったのに。ダークエルフとかの血が混ざっているのだろうか。
「言ったところで死刑でしょう? なら何も言う気はないわね」
死刑と聞いても怯えないとは、死ぬことが怖くないのか、それともなにか逃げる手段があるのか。後者かな。
「ところで、そこの魔族に名前を伺っても良いかしら?」
私に話を振ってきた。名前を聞くときは、まず自分から名乗るものだぞ。でも、話が進みそうにないので名乗っておこう。
「フェルだ。お前の名は?」
「言う訳ないでしょう?」
馬鹿にしてんのか。礼儀がなってないな。まあ、いい。勝手に見る。こいつは敵だからモラルとか関係ない。
「名前はウルか」
ウルは驚いてから考え込むようにブツブツ言いだした。
「分析魔法……? いえ、魔力の流れは感じなかった。となると鑑定スキル? 厄介ね……」
どっちでもないけど、わざわざ言う必要はないな。しかしこんな時でも情報収集か? 本格的に逃げる算段があると見た方がいいな。可能性としては、影移動で逃げる、だろうか。でもあれは自分以外無理だし、長距離の移動はできないはずだ。うーん?
ふと、思った。なんで私がこの人族のことで、色々考えなければならないのだろうか。戦闘中も思ったが、これはエルフと人族の問題だ。関係ないし、興味もない。エルフ達より出しゃばってはいけない。
離れよう。これ以上、巻き込まれるのは嫌だ。念のため、探索魔法の印はつけておくけど。
「よく考えたら、私は部外者だ。あとは勝手にやってくれ」
その場にいる全員がポカンとした。
「殺されそうになったってのに、部外者ときたか。フェルは大物だな!」
ミトルが笑いながらそう言った。
「あの程度の実力で私を殺せるわけがない。だから殺されそうにもなっていない」
ウルが悔しそうに下唇を噛んだ。人族にしては強いのだろうが、一人で魔族を倒せるほどではない。私を倒したければ、あの嫌な奴程度の実力がなければ無理だ。
「魔族の言うことはもっともだ。これは私達エルフと人族の問題だ」
隊長の奴が私に同意したようだ。たまには意見が合うんだな。
「改めて聞く、お前たちは何者だ?」
「改めて言うけど、言わないわ」
「いいだろう。長老が目を覚ましてから、お前たちの処遇を決める」
長老が目を覚ます前に決めろよ、と言いたいが、部外者だから我慢。
「隊長、この後、どうしますか?」
「おそらく長老は明日にならないと目を覚まさないだろう。今日もここで一晩明かす。各自野営の用意をしろ。あと、こいつ等が逃げ出さないように、三人……いや、四人で見張れ」
エルフ達は頷くと、それぞれ準備を始めた。
私は何をしようかな、と考え始めたところで、隊長の奴に言われた。
「お前の容疑は晴れていないが、逃げ出すようにも見えないので、勝手にしていてかまわない。だが、目の届く範囲にいろ。ミトル、お前が監視するんだ」
「食事を用意してくれるなら逃げださないでやる。出さなければ暴れるぞ」
なんだか隊長の奴に「フッ」と言って笑われた。面白い事なんて言ってないのだが。
「隊長が笑うなんて珍しいことがあるもんだ。俺、初めてみた」
レアものか。でも、うれしくないな。
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