第544話

 海渡は、廃業した造船所と言うか、船大工の家を訪ねた。


 ドアをノックしつつ、

「こんにちは。どなたかいらっしゃいませんか?」

 と声を掛けると、


「おお、開いてるぞ!」

 と大きな声が中から聞こえた。


 勝手に入って来いと解釈し、ドアを開けると、


「なんじゃ、坊主?」

 と白髪交じりの無精髭を生やしたハゲ頭のゴツい老人が居た。


「あ、どうも。初めまして。

 カイトと言います。

 今日は造船の事でご相談に参りました。」

 と挨拶すると、


「ん? どっかで見た様な・・・まあ良いか・・・

 ワシん所は、もう船作りは辞めたんじゃ。

 悪いがのぉ、他当たってくれや。」

 と取り付く島もない回答。


「ええ、漁師のオジサン達に聞いてます。

 ちなみに、何故辞めたんですか?

 やはり、漁業人口の減少とか、新規の船の発注が無いとかですか?

 それとも後継者の不在とかでしょうか?」

 と突っ込んで聞いてみると、


「あ? そんな事を聞いてどうする?

 まあ、別に隠す程の事でもないから良いんだが、漁業に従事する奴ってなぁ、金を持って無い奴が多くてな。

 何とかボロ船のメンテやって延命させてっけど、港を見りゃ判る様に、あれは使っちゃ駄目な船ばかりだ。

 新規のオーダーもねぇし、歳も歳だからもう良いかな?ってな。

 それに、そんな具合だから、後継者なっていねーしよ。ガハハ。」

 とちょっと寂しげに理由を教えてくれた。


「なるほど。

 で、本題なんですが、実は本格的にこの国の造船業を手直ししたいと思ってまして。

 取りあえず、中型の漁船を30隻程作ろうかと思ってます。

 行く行くは、大型の船を作り、遠洋漁業も出来る感じにしてみたいと思ってるんですが、どんな人材を集めれば良いですかね?

 船のデザイン等もあるので、長年の経験者に指揮を執って貰いたいんですよね。」

 と海渡が言うと、驚いて目を剥き、ポカンと口を開けていた。


 そして、暫く固まっていたが、

「え? 坊主・・・カイト? え?? 王様か!?」

 と海渡の顔をマジマジと眺め、ハッとした表情で呟いた。

 ちなみに、海渡は、この家を訪ねる前に、偽装を解いていて、現在は素の状態である。


 交渉するに際し、偽装は失礼だからね。


「ええ。このままでは、国全体で考えた場合、これまで蓄積されたノウハウがここで失われるのは、大きな損失だと思いますし、何よりも私は魚が大好きでしてね。

 ふふふ、海鮮丼やお寿司なんか、大好物ですよ。刺身も良いですよねぇ~。」

 と海渡がぶっちゃける。


「ガハハハ。食い気か!!」

 と豪快に笑う老人。


「いやいや、食い気もありますが、やっぱり漁業もちゃんとしてないと、勿体無いですからね。

 その為には、やはり造船は大事です。

 魔動漁船、作りましょう!!」

 と言いながら、大きめの紙に、イラストをサラサラと描き始める。


「漁をしている所を確認した所、小さい投網だけで漁をしてましたが、あれぐらいでさえ、船のバランスが危なっかしくて、しかも浸水も酷かったから、何時事故が起きてもおかしくない状態でした。

 だから、もっと大型にして、こう言う感じでバランスを取りつつ、魔動ウインチで網を引き上げる感じにすれば、かなり違うんじゃ無いかと思うんですが、どうでしょうか?」

 と片側に補助フロートが張り出した様な船のイラストを見せると、


「ほほー、坊主、面白い事を考えるな!」

 フンフンと言いながら、ペンを海渡から取り上げて、自分でそのイラストに描き加え始める老人。


「こんな感じにしたらどうじゃろ?」

 と言いながら海渡のベースプランを補強してくれた。


「良いですね! じゃあ資金は潤沢に用意しますし、必要な素材は言って頂ければ、こちらから出しますので、取りあえず、プロトタイプを作りましょう。

 あ、魔動推進装置は、俺の方でサクッと作れますんで、ご安心下さい。

 と言うか、実物はもうあるんで。」

 と海渡が言うと、魔動推進装置の実物にかなり食い付いて来た。


 あまりの食い付きっぷりに、思わず、

「実物、見ますか?」

 と聞くと、ガバッと立ち上がり、さあ見に行こう! と海渡を急き立てた。


「まあ、良いですが、目的の違う物なんで、そこは無視して下さいね?」

 と言いながら、漁港の方へと向かった。





 そして、漁港の桟橋に辿りつくと、水深を測ってみるが、浅すぎて完全に座礁状態になる事が判明し、取りあえず、沖合にアンコウ君0号機を出して、老人をゲートで出迎えた。

 アンコウ君の上部甲板に立ち、呆然とする老人。


「何じゃこれは?」と。


「これは、潜水艦と言って、海の中に潜って航行する為の船です。

 なので、洋上での漁業は無理ですね。

 海中の魔物を撃退する為に作りました。

 でも、推進部はこれの小型版を作れば良いので。」

 と説明すると、是非走って居る所を見たいと懇願された。



 艦内に案内し、コクピットへと連れてきて、シートに座らせた。


「じゃあ、これから少し、海中散歩でも楽しみましょうか。」

 とアンコウ君0号機を起動して、潜行し始める。


 生まれて初めての経験で、少年の様に目をキラキラさせる老人は、色々な計器やスイッチの質問を繰り返し、海中から見る魚群に驚きの声を上げていた。




「しかし、坊主、スゲーな。

 こんなのを作れるんだったら、ワシなんか無くても大丈夫なんじゃねーのか?」

 と聞いて来た。


「まあ、ぶっちゃけ、出来る出来ないで言えば、出来るとは思いますが、漁師さんの使い勝手や細かい形状のノウハウも無いし、第一俺が作ると、滅茶滅茶高額な船になっちゃいますからね・・・。

 そこら辺、貴族や王族が漁をする様な小舟を作っても、普通の漁師さん達には、買えませんし。」

 と言うと、爆笑していた。


「だからこそ、親方さんの経験とノウハウと、俺のノウハウの合作で、一般に買える様な船を作ろうと言う話なんです。」

 と海渡が説明すると、納得してくれた。




 アンコウ君を回収して、陸に戻った海渡と老人は、この都市の管理官の居る建物へとやって来た。

 そして、挨拶もソコソコに、造船所の建設場所を打診して、許可を得た。


 海渡は、元の世界の造船所と同じ様なドックを、午後からの3時間で建設した。


「坊主・・・本当にスゲーな。」

 と出来上がった大中小のドックを備える大型の造船所を前に、老人がポカンとしていたのだった。

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