第542話

 異世界12ヵ月と9日目。


 あれから、みんなで子猫とジャレてしまい、気が付くと夕方になっていた。

 なので、取りあえず階層の階段探しを諦めて、ナデシコを連れて、宮殿へと戻ったのだった。

 宮殿に戻ると、スタッフを虜にしまくるナデシコ。

 しかし、海渡の頭の上から離れない為、終始海渡の周りに人が溢れると言う、かなり鬱陶しい状態になった。

 ちなみに、ナデシコは、荷物を運ぶ魔法少女の黒猫みたいなシュッとした感じではなく、モフコロって感じの大人の掌よりやや大きいぐらいの子猫形状。

 そんなのが、可愛いクリクリのお目々で、ミャ? って首を傾いで居たりする姿が堪らないらしく、大の大人達が身震いしながら、悶えていた。



 まあ、そんな訳で本日、再度仕切り直して、第16階層中央の大ホールへと舞い戻り、階層の階段を捜索する事となる。



「と言っても、ここで捜索する場所と言えば、このピラミッド型の建物しか無い訳だが・・・」


 全員でくまなく建物全体を探したが、入り口らしき物は全く何も見つからない。

 再度、ナデシコの卵のあった天辺に戻り、


「うーん、ここじゃないのかな? 別のホール?」

 と頭を捻る海渡達。


 すると、ナデシコが、「ミャッ!」と鳴きながら、海渡の頭から飛び降り、自分が出て来た卵の殻を、設置場所の台座から、体当たりで落とした。

 そして、卵の殻の下にあった台座の一部を肉球でポチっと押すと、


「ゴゴゴゴ・・・」

 と重厚な地響きと共に、台座が床に落ちて行く。


 ナデシコは、台座から飛び降りて、海渡の肩に飛び乗った。



 20秒ぐらい続いた地響きが鳴り止むと、そこには、直径2m程の丸い穴が開いていた。


 ナデシコは、ドヤ顔で「ミャミャッ!」と誇らし気に指差して、鳴いている。


「おーーー!」

 と思わず声を上げて驚く海渡。


 昨日だが、孵化する前の卵は、台座から持ち上げる事が出来ない状態であった。

 つまり、この穴を出現させる条件は、卵の孵化が必須条件だと言う事である。


「わぁ・・・あれだけ魔力を込めないと、第17階層へは行けないと言う事か。

 無茶だなぁ・・・。」

 と海渡は自分が込めた魔力量を思い出して、苦笑いした。



 海渡達は穴の中へと飛び込んで、ユックリと降下していくと、5m程で床に着地した。


 そして、穴の中の空間に階段を発見した。


「ふぅ~。無事第17階層への階段を発見したな。

 これ、ドナサンさん達ってここまで来られると思う?」

 と海渡が他のメンバーに聞いてみると、全員が首を横に振っていた。


「時間を掛ければ、あの滝の裏にある第15階層から16階層への階段は発見出来ても、ここまでに至るホールは抜けられないでしょうね。」

 とミケが考えながら言っていた。


「俺らも、ナデシコちゃんの卵の孵化は魔力量的に無理っすから、兄貴達が居なかったら、やっぱりここで終わりだったすね。」

 とラルク少年も呟いていた。





 海渡達は、階段を降りて第17階層へと踏み出した。

 第17階層は、グランドキャニオンの様な地形で、赤茶けた土と岩と崖で構成されたステージだった。

 川の流れはある様だが、長年の川の流れで浸食された様な渓谷で構成された様な場所である。


 海渡は、いつもの様に、マッピングデータ収集の為、ドローンを大量に飛ばしたのだった。



「さて、当面ヤル事が無くなったな。

 マッピング完了まで、自由行動って事で、取りあえず解散するか。」


「じゃあ、兄貴、俺らはちょっとこの階層をチラチラ見て廻るっす。」

 とラルク少年。ミケ達も同じらしい。


「そうか、じゃあ、取りあえず、ここに拠点作っておくから、適当に使ってね。」


 海渡は拠点を設置して、宮殿へと戻ってきた。

 フェリンシア達は、街へ出掛ける事にしたらしい。


「あれ、となると俺1人か。うーん、どうしようかな。」

 と宮殿の部屋でナデシコを撫でながらボーッとしていると、


「親分、酷いっすーーー!」

 とレイアが部屋に飛び込んで来た。


 レイア曰く、最近置いてきぼりばかりで、起きて気が付くと海渡達が居ないので、また寝る~の繰り返しだったらしい。


 海渡の膝の上で寝るナデシコを見て、「浮気だ!」と酷くご立腹である。



 このところ、完全にレイアの存在を忘れてた海渡だったが、


「いや、お前の妹分だから、ちゃんと仲良くしろよ?」

 と言うと、


「そうっすか・・・妹分っすか。ふふふ」

 とスッカリご機嫌になっていた。


 やっぱこいつチョロいな。  とは思いつつも口に出さない海渡だった。



 そこで、海渡はレイアを連れて、王都から遠い国内の主要都市を視察する事にした。

 王都から遠い所の生活振りを確認するのが主な目的である。

 オスカーさん曰く、各都市の管理官の人選は、厳重にチェックしたとは言っていたが、目が行き届かない地方の方になると、やはり現状がどうなっているかは知っておくべきだろう。


「となると、変装用の魔道具で髪の色を変えて、普通の身分証明を作って・・・と。

 服装は一般的な物にして・・・よし、こんな感じでどうかな?」

 と独り言を言いながら偽装が完了すると、


「じゃあ、レイア、悪いけど、お前ってほら、有名だからお留守番ね。」

 と言って、ゲートで神王国日本の最東端にある都市の外へと移動した。

 ゲートを潜る直前に、レイアの絶叫が聞こえた気がするが、気のせいだろう。

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