第537話

 異世界12ヵ月と1日目。


 早いもので、本日で、こちらの世界に来て、1年が過ぎた。

 思い起こせば、ただ1人、巨大なユグドラシルの木の下に小さい身体で放り出され、レベルアップを焦ったあの頃が遠い昔の事の様に思い出される。


 最初の頃は、ビビりまくって、結界の中から攻撃したりしてたんだよなぁ・・・。

 と言うか、今考えても、スタートの場所があそこだったのは、かなり無理ゲーだよな。

 あれで、女神様からの救援物資とチート無かったら、本当に詰んでたよな。


 ベッドで目覚め、四方八方から手足が絡まっているいつもの状態のまま、頭の中で回想する海渡だった。



「と言う事で、今日はフェリンシアのお袋さんに逢いに行こうか。」

 と海渡が提案すると、フェリンシアが喜んでいた。

 一緒に行くメンバーは、フェリンシアは勿論の事で、他は、ステファニーさんとジャクリーンに絞った。


 朝食が済んだ後、1回教会に行って、女神様に挨拶をして、それからユグドラシルの木の下へ行く事にした。




『女神様・・・』


 パンッ♪

「うーん、いらっしゃーーい♪ そして、1周年おめでとー!」

 と女神様が小さなクラッカーを手にして、ニコニコ笑っていた。


 来ていきなりのクラッカー攻撃に、俺も驚いたが、他の3名は非常に驚いたらしく、武器を手にしていた。

 おいおい、戦う気かよw


「あ、ありがとうございます。

 クラッカーですか。そんな小道具まで用意されてたんですね?」

 と海渡が言うと、


「そうなんですよ。

 これ、結構大変だったんですよ? 手に入れるの。」

 と自慢気に語っていた。


 気を取り直しつつ、

「お陰様で、丁度一年が経ちました。

 無事にこちらで生活出来る様になったのも、ひとえに女神様のお陰です。ありがとうございます。」

 と頭を下げてお礼を言う。


「しかし! 今考えても、絶界の森にあのLv1の状態で放り出されたのは、かなり無茶ですよねぇ?

 フェリンシアと出会えたから良かったものの、1人だと厳しかったかも知れません。」

 と言うと、


「うふふ。まああそこ以外の選択肢が無かったのは厳しかったですが、でも何とかなりましたね。

 本当に、トリスターに無事に辿り着いた時は、私も見て居てホッとしました。

 そうそう、海渡さんのご両親には、定期的に海渡さんの様子を夢でお知らせしてますよ。

 最初は、お二人とも、偶然同じ夢を見たのか?ぐらいに疑ってらっしゃったんですが、今では続きを楽しみにしているご様子です。」

 と気になっていた両親の事を話してくれた。


「そうですか! ありがとうございます。

 いやぁ~、またお願いしようと思ってたんですよ。

 そうですか。元気にしているんですね。良かった良かった。

 まあ、親孝行出来なかったし、孫を抱かせられなかったのは、非常に申し訳ないと思うんですが、元気にしているのを聞いて、ホッとしました。」


 やはり、ズッとこっちで楽しく暮らしていても、あっちに取り残した両親の事は、ズッと気になっていたからな・・・。

 ああ、本当に良かった。悲しみに暮れて、ヤル気も無くして廃人同様になってないかと、心配だったからな。




 それから、少しの間色々な世間話をして、祭壇の前に戻って来たのだった。

 そして、その後、教会の孤児院の方にも寄って、寄付や差し入れをし、子供らが健やかに育っているのを確認した。

 園長さんの話だと、最近は捨て子が激減したらしく、両親が事故等で亡くなった子が入って来るが、それも減少傾向にあるとの事だった。

 片親でも、働きながら子育てし易い環境が徐々に広がったお陰だと、園長さんが言っていた。


 まあ、そう言う意味では、帝国を滅ぼしたのは、間違い無く良かったと思えるな。



 孤児院を後にして、街でお土産の品(主に食料)を買い出しして、ゲートでユグドラシルの木の下へ。


「おかーさーーん!」

 とフェリンシアが飛び出し、家から人化したフェリンシアお母さんが出て来た。

 どうやら、事前に伝心で行く事を伝え、人化して待っていてくれた様だ。


「おお、久しぶりじゃのぉ。

 元気にしとったかい?」

 とフェリンシアの頭を撫でながらフェリンシアお母さんが海渡に声を掛ける。


「ええ、ご無沙汰しております。

 こちらは、元気にやってますよ。」

 と挨拶を交わし、ステファニーさんとジャクリーンを紹介した。


 フェリンシアお母さん曰く、日々ヤル事は変わらないのだが、家を作って貰って、お風呂や食事の楽しみが増えたのが新鮮で堪らないらしい。

 フェンリルの寿命は長く、1年は人間の感覚で言う、1日に近いらしい。


「あ、そうそう、2ヵ月ぐらい前じゃったか、久々にあの人が帰って来て、また出ていったぞ。

 フェリンシアが居なかったので、残念そうじゃった。」

 とフェリンシアお母さんが、フェリンシアに言う。


 ん?あの人??


「え?お父さん来たの?」

 とフェリンシア。


「えーーー!? フェリンシアってお父さん居たの!?」

 と思わず叫ぶ海渡。


「ん? そりゃ居るでしょ?

 あ、ちなみに、私って末っ子だから、上にお兄ちゃんとお姉ちゃんも居るよ?

 前に言ってなかったっけ?」

 と驚きの真実をサラッと告げて来た。


「いや、全く初耳だよ。

 逆にあまり触れちゃダメかと、気を回してたんだけど。」

 と海渡が言うと、


「ああ、そうだったんだ? いや、別に全然触れてくれて大丈夫ですよ?」

 と。


 ちなみに、ステファニーさんもジャクリーンも、フェリンシアに兄弟が居る事は知って居たらしい。


「え? 何? 俺だけ知らなかったのかよ。」

 と若干いじける海渡。

 そんな海渡の様子に、腹を抱えて笑うステファニーさんとジャクリーン。


「まさかな、フェリンシアちゃんと一番付き合いの長い、カイト君が知らんかったとは、意外やでw」と。


「いや、マジで俺の方がビックリだ。

 ちなみに、そのお兄さんとお姉さんって、何処に住んでるの?」

 と気になって聞いたら、


「「さあ?」」

 とフェンリル親子が揃って首を傾げていた。


「良いのかよ、そんなんで?」

 と思わず突っ込む海渡。


「ああ、そう言えば、一番上の子が言っておったのじゃが、新しく出来た、日本と言う国は面白い!って楽し気にしておったなぁ。」

 とフェリンシアお母さん。


「え?うちの国に来てたの?

 なんだー、声を掛けてくれれば良かったのに。」

 とフェリンシア。


「どうなんじゃろ? あの子もフェリンシアの今の姿は知らんじゃろうから、街ですれ違っても、判らんかもしれんのぉ。

 あ、ちなみに、お姉ちゃんも、日本に行ったと言っておったぞ? 2人して話が盛り上がっておったからの。

 何でも、遊園地とか言う、楽しい遊び場があるとか言うて、盛り上がっておったぞ?」

 と。


「え?ワンダーランドに来たのか!

 それって、最近じゃん!!」

 と驚きを隠せない海渡。


 まあ、国自体出来て間もないしな。

 じゃあ、マジでどっかですれ違っていても不思議は無いなぁ。


「いやぁ~、世間って狭いね。」

 と呟く海渡だった。


 その後、お土産の品々を渡し、昼飯を兼ねた大宴会に突入した。

 が!だよ、海渡はもっぱら作ってばかりで、食いっぷりの激しい3名に翻弄される状態だった。

 特に、フェリンシアお母さんの食い付きが凄くて凄くて・・・。


 あまりの凄さに、

「あのー、普段、ちゃんと食べてるんですか?」

 と聞くと、食べるのは食べるけど、こんなに美味しい味付けの物は食べてないらしい。

 更に、前回海渡が持って来た美味しい食事は、大事に取ってあったんだけど、親父さんと兄弟に食い尽くされたらしい。


 ははは!流石はフェリンシアの家族だなw


「ふむ、じゃあ時々、フェリンシアに差し入れに来させますよ。」

 と海渡が言うと、喜んでいた。


 こうして、1周年の日は楽しく過ぎて行くのだった。

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