第520話

 異世界11ヵ月と17日目。


 結局、逃げる浮島を発見し、魔動波ビーコンが打ち込まれたのは、夕方近かったので、その時間からの移動は断念し、本日に持ち越しとした。


 第10階層の別荘で、いつもの朝のルーチンワークを終え、逃げる浮島へゲートで移動した。

 この浮島が捕らえ辛かった理由だが、この球状の第10階層の円周付近をランダムに移動している事が原因で、更に厄介なのは、捕捉されそうになると、円周付近以外にも逃げるからであった。

 生物だけでなく、ドローンに対しても同様に逃走するので、最終的にはドローン複数機で包囲する様な配置で接近して、魔動波ビーコンを打ち込んだ模様。


「流石、うちのドローンは優秀ですなw」

と自画自賛する海渡だった。



 まあ、そんな訳で、浮島へゲートで乗り込むと、驚く事に、浮島の逃走が緩やかに止まり、浮島から振り落とされる心配は無くなったのだった。


「何処で制御しているのかは不明だけど、なかなか面白い仕様だな。」


 島の真ん中にある半径3m程のドームの入り口は、そのまま地下へ続く階段となっていた。

 そして、全員が階段降り始めると、また浮島が静かに動き出したのであった。



 少し他より長めの階段を降り、少し広い空間・・・と言っても直径100m程の空間に出ると、その空間の奥には、池があった。

 それ以外には何も無く、隠し通路も何も無かった。


「ん?これは、池に潜れと言う事?」

と唖然とする海渡達。


 フェリンシアは青い顔でプルプルと顔を横に振っている。


 海渡は池に近付いて、水に手を入れて見ると、かなりと言うか、ヤバい程に冷水で、そのまま水に入ると、10分保たないのではないかと言う程の水温。


「わぁ・・・、これ低体温症まっしぐらな水温だ。

 これは、結構ヤバいステージだな。」

とみんなの方を振り返って言った。


 海渡の話を聞いて、各自はそれぞれ頭の中で方法を模索する。

 ほぼ全員が魔法のシールドで空気の層を作り、快適温度を保持する事を考えたのだが・・・。


「うーん、それは俺も考えたんだけど、それだと、水中で魔物に襲われると、水の抵抗もバカにならないし、動きを阻害されそうだから、反撃しにくいかもね。

 深さも広さも判らないから、ちょっと安全面で厳しいかな。」

と海渡が苦い顔をする。


 結局、策を練ってから進行する事にして、本日は解散となった。




 そして、現在、海渡は王宮の地下工房で、腕を組んで水中型のドローンの構造を練っていた。

 空中では優秀な海渡のドローン達であるが、水中用には作られて居ない。

 また、水圧にある程度構造的に耐えられて、空気よりも大きい水の抵抗を軽減して自由に動かす必要がある。

 そうしないと、必要な魔力量が大きくなりすぎて、稼働時間が極端に減ってしまうからである。


 一番耐圧性が高い形状は球体だが、それだと水の抵抗が大きい。

 色々考えた結果、ヒラメ君をややスリムにした形状に決定した。

 胴体の形状だけで言うと、元のヒラメ君より更に、サン○ーバード2号に近い形状である。

 ヒラメ君達に使っているジェットエンジンだが、これは風魔法をベースとした物なので、これを水魔法ベースに変更し、水中なので、更に翼長を短くした。

 水圧に耐える様に、船体には補強用のフレームを一定間隔で追加した。

 カメラの風防はヘルメットのシールドに用いたステルス・サバーの鱗製のシールドを作成して光コーティングした。

 後は、浮力の調節だが、これは重力の制御で行う事とし、取りあえず、船体の体積に対して、同等程度になるように重り代わりの鉄板を入れてバランスを取った。

 船体の体積に対して軽すぎると、その分重力魔法による制御に魔力を食われるのを防ぐのが目的である。

 同様に重りを置く位置も、重心を考慮して、均等になる様に注意している。


 プロトタイプの船体が出来たので、従来のドローンのプログラムを水中ドローン用に変更してインストールし、完成した。


 早速、用意した水槽で、耐圧テストや、基本動作等のテストを行う。

 まず、耐圧テストだが、水深100000mまで余裕で耐える事を実地試験で確認した。

 まあ、(智恵子さんによる)計算上では、500000mまでは余裕との事なのだっが、テストに用意した水槽が水深100000mの水圧までしか耐えられなかったと言う理由なのだが。


 基本動作テストだが、水中ジェットエンジンがかなりパワフルで、危うく水槽を突き破る所であった。

 水圧も掛かっていたので、プログラムに仕込んだ緊急停止が効かなかったら、水浸しと言うか、鉄砲水でヤバい所だった。

 あと、カメラの動作テストでは、問題点が発覚。

 テスト用の水槽自体が暗いと言う事もあったのだが、照明が無い為、殆ど何が映っているのか判らない映像が送られて来てしまい、最初はカメラの設定ミスを疑ったのだが、原因は前記の通り照明不足と言う事で、苦笑いしたのだった。


 早速、照明装置を各カメラ部分に取り付け、カメラの方向に連動し、照らすようにした。

 水中ジェットエンジンの制御プログラムを調節し、ゲインの設定を変更した。

 これによって、姿勢制御や、微速前進等の細かい動きが出来る様になった。


 プロトタイプのテストが終わり、早速生産ラインを作成して、量産に入った。



 丁度、時間も良い頃合いだったので、宮殿の大食堂でオスカーさんやヨーコさんから、連絡事項を聞きつつ昼食を取った。

 現在の所、国として問題は起きていない。

 ワンダーランドやフードコートは相変わらずの人気っぷりで、連日満員御礼状態らしい。

 元々1年前の帝国時代では、娯楽どころか、食うにも困る様な劣悪環境だった事を考えると、恐ろしい程の変化である。


 魔法学校の方も順調で、基礎部分の学習が終わり、魔法コースと魔道具コースに別れ、それぞれ突っ込んだ内容に入る所らしい。

 魔道具コースでは、これまでの間違った知識から、女神様からの教え通り、言語にとらわれない事を教え、一部日本語の利用も認める事にした。

 これによって、色々な魔道具開発者が増える事を期待しているのだが、マッド・サイエンティストが一定数出て来そうで、若干怖い。

 マッド・サイエンティストと言っても、某デロリアンを改造して時代を飛び回る系のキャラなら良いが、核爆弾や大量破壊兵器を作成されるのは勘弁して欲しい所。

 まあそんな懸念もあって、魔動CPUの市販化は時期や状況を考慮してと考えている。


 ステファニーさん曰く、やはり時代時代にマッドな奴は居たらしく、大量破壊兵器の研究を行ってた奴が過去に居たらしい。

 とは言え、某国の魔動砲と同等程度だったらしいのだが、それでも速攻で国によって摘発され、粛正されたらしい。





 昼食後、地下工房で、水中ドローンの実車版(・・・つまり乗れるバージョンね)の作成を開始する。

 ドローンとの違いは、勿論サイズもだが、コクピットとキャノビーがある事や、ハッチを天井、床、そして胴体の左右に作る事、更に対魔物の兵器を搭載する予定ではある。

 ハッチには、与圧室を設け、居住空間が浸水しないようにする。

 まあ、潜水病とかの心配もあるのだが、そこら辺はヒール任せにして良い物だろうか? まあこれは先々考えよう。

 居住空間は、念の為に気密構造とする為、各セクションで機密ハッチを作る事にした。

 船体の外皮部分は、ハニカム形状の構造物をサンドイッチにした物にし、更なる剛性を確保した。


 作成したモックアップから3Dデータを取り、ヒラメ君の製造ラインを変更して作成した。


「プロトタイプ、出来たな。」


 全長20m、全幅12m、高さ5.5m、内部は2階建て。

 勿論、トイレも風呂もキッチンも食堂も完備している。

 広くは無いが、船室も用意し、3段ベッドで30名程が就寝出来る様にはしている。


 残念ながら、耐圧テストは、船体サイズ的に水槽を用意出来ないので、実際に乗船してのテストしか出来ない。

 まあ、耐圧水槽も無理に作ろうと思えば出来るのだが、智恵子さんチェックで船体に問題無いとのお墨付きを頂いているので、省略した。

 外皮をハニカム構造にしているので、智恵子さん曰く、浸水1000000mまでOKとの事であった。

 この船体で最も弱い部分は、4つのハッチの接合部分で、それ以外の部分はその2倍以上でも大丈夫らしい。

 そもそもだが、そんなに深く潜る気は今の所無い。


 海の底にしろ、ダンジョンの地底湖にしろ、潜れば潜る程、寒くなるので、船内の空気清浄とエアコンは各部独立で強化してある。



 まあ、船体はそんな感じだが、問題は、対魔物用の水中兵器である。

 まず使えないのは、レールガンやレーザー兵器。

 となると、結局使えそうな兵器と言えば、魚雷となってしまう。

 魚雷を0から作るのも面倒なので、ベースは水中ドローンをやや大型にして、これに弾頭を搭載する事にした。

 弾頭は、既存の気化爆弾を水中用にアレンジした物と、冷却弾頭(瞬時に周囲10m~300mを氷結させる物と、スマート爆弾的に金属片を伴い爆散する物の3種類を作成してみた。

 電気で雷撃する様な物も考えたが、下手すると、自分らも感電するので、止めたw

 また、これらの魚雷作成に伴い、レーダーとアクティブソナーを連動した3次元ソナーを作り、ロックオンした標的に対して、魚雷が自動追尾する様にした。


 まあ、水中の魔物がとんな感じかは不明だが、取りあえずこれで何とかなるだろう。


 3種類の魚雷の生産ラインを作成し、時空共有倉庫に吐き出す様に設定した。

 勿論船体側への供給は、時空間共有倉庫からの自動供給となる。

 各魚雷発射口(前2つ後ろ2つ天井と床に1つずつ)へ選択した種類の弾頭の魚雷が瞬時に装填され、発射される。




 完成した潜水艦(・・・ややヒラメ君よりズングリムックリのフォルム)を前にし、満足そうに頷く海渡。


「コードネームは何にしようか?

 ・・・ヒラメ君よりも太いから、マンボウ? いや、アンコウか。」

とダサいネーミングセンスを遺憾なく発揮する。

 本人的には、深海まで潜れるし、形もそれっぽいし、なかなか良いチョイスだと自画自賛していた。


 そして、命名したアンコウ君0号機と共に、希望の岬へとゲートでやって来た海渡は、飛行魔法で海上へと飛び、水上にソッとアンコウ君0号機を推進式の様に取り出した。

 ちょっと一瞬ドキドキしたが、設定通り、沈まずに、ちゃんと浮上した状態を保っている。


 そして、アンコウ君0号機の船体上部に降り立ち、ハッチを開けて内部へと乗り込むのであった。

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