第511話

 異世界9ヵ月と28日目。


 ワンダーランドのオープンから早、2週間以上が過ぎた。

 しかし、世間の人気はいまだ未だに衰えず、連日大賑わいである。

 当初プールと言う物を知らなかったこの世界の人達であったが、季節が夏と言う事で、徐々に浸透して来た。

当初、日に何人かは、真っ裸でプールに入ろうとして、取り押さえられると言う事はあったが、水着と言う物も同時に浸透し、ドンドンと日に日に可愛い水着が増えていった。

 まあ、可愛い水着姿の女性がキャッキャウフフとするので、すぐにプールは大人気になった。

 同時に、販売し始めた、サングラスが馬鹿売れ(主に男性陣に)。

 まあ、何処の世界でも男性の頭の中身は、似たり寄ったりなのかも知れない。



 先日、各国の王族等を招待したが、やはりこの世界には存在しなかった遊園地に、良い歳をした大人達が大はしゃぎ。

 案の定、直ぐに「うちにも遊園地作って」と強請られたのだが、こればっかりは、無理と速攻で断った。

 やって、やれない事は無いのだが、現在もアトラクションを増やしている所で、余所に構っている暇は無い。

 更に現状、メンテナンス出来るのは、海渡だけなので、そのメンテナンスで各国を飛び回る気は無い。

 つまり、作るにしても、ノウハウやメンテナンスのフォーマットを作り、本家であるワンダーランドでメンテナンスを任せられる人材の育成が先と言う事である。


 そして、レーシングカートだが、こちらも、海渡の狙い通りに各国の王族や貴族がゾッコンラブでドン嵌まり。

 これも、自国にコースを作ってくれと、大いに騒いでいた。


 まあ、サーキットに関しては、海渡も思うところがあったので、快く了承し、3カ国にそれぞれ違うレイアウトのコースを作成して回った。

 コースの管理と運営は、それぞれのさえじま商会の支店であったり、提携する商会に丸投げした。

(一応、運用のマニュアルや、レーシングカートのマニュアル等の資料は渡してある。)




 と言う事で、忙しさが一通り過ぎ去ったので現在、希望の岬の別荘にやって来て、ハンモックを出してノンビリとしている。



「暇だな。」


「暇ですね。」


「何か面白い事あらへんの?」


「うーん、取りあえずダンジョン?」


 ハンモックで風に揺られる事30分で、暇に音を上げた海渡とそれに続く女性陣3名はジャクリーンの提案でダンジョンに潜る事にしたのだった。



 さて、希望の岬ダンジョンだが、弟子ズの地道な努力の結果、既に最先端は第8階層にまで届いている。

 ちなみに、第7階層は、雪山フィールドで、年中吹雪いているらしい。

 弟子ズの報告では、スノー・コング、ホワイト・ホーン・ラビット、ブリザード・ディア、ホワイト・メアー・ベア等の魔物達と、天然の温泉があるらしい。

 とは言え、温泉の温度が70度と、そのままでは入れない温度なので、誰も試してないらしい。

 温泉の成分は、炭酸泉で、身体に害のある成分は含まれていないとの事だった。



 海渡は一旦地下工房で適正温度に下げる為のラジエターを作成して、50人ぐらいが泊まれる大きめの宿泊施設を建設する事にした。

 第7階層に降り、源泉の側を光シールドで囲み、整地して、棟梁に作って貰った宿泊施設を設置した。


 源泉からのラインに温度調節のラジエターを取り付け、42~43度辺りになる様に設定し、屋内の湯船に繋げた。

 直ぐに薄い乳白色の温泉で満たされた湯船を前に我慢が出来ず、早速男湯と女湯に別れ、温泉を堪能する事に。

 身体と頭を洗って、ソロリと湯船に入ると、細かい炭酸の泡(この泡で乳白色に見えるっぽい)が肌に纏わり付き、心地よい。

 クリーンを掛けると、毛穴の中まで綺麗になるのだが、それとは違う感覚で毛穴の中まで綺麗になる気がする。


「この炭酸泉ってのも良いもんだなw」

とご満悦の海渡。


 30分程お湯を堪能して、休憩室で待っていると、更に20分程して女性陣が出て来た。

 全員、炭酸泉の弾ける様な感覚にツイツイ長湯をしてしまったらしい。


 さて、この宿泊施設だが、旅館風にしたのには、理由があって、和室完備なのである。

 やっと発見したイ草を使った畳を作り、初めてここに使っている。

 当初、この建物は別の場所に保養施設として設置予定だったのだが、急遽炭酸泉の温泉旅館としてみたのだった。


 真新しい畳の匂いに癒やされつつ、畳の上をゴロゴロと回転しながらニンマリ笑う海渡。

 そんな珍しい海渡を眺めつつ、畳の説明を受ける女性陣3名も、すぐに畳の虜になったようである。


「畳って、板張りとかと違って、何か柔らかくて、暖かい感じですね。」

とフェリンシア。


「だろ? 本当はね、コーデリアで畳があるんじゃないかと期待してたんだけどね・・・。

 なので、密かにイ草を探してたんだよ。」

と海渡が説明した。



「ところで、温泉もええけど、この後どうするん? 第8階層の先に行くんか?」

とステファニーさん。


 ジャクリーンさんは、ダンジョンと意気込んで来たのに、丸っきり違う展開で、完全に蕩けている。


 海渡は、

「せっかくだから、今日はここでダラダラして、明日第8階層に行くか。

 弟子ズがドローンで第8階層のマッピングまでは済ませてるし、サクサクと何日かで先に進んでみようか。」

と提案し、他の3名も賛成して、ゴロゴロと転がるのであった。



 丁度昼飯時に、ラルク少年から伝心が入った。


『兄貴! 希望の岬ダンジョンに行くって話でしたけど、今何処っすか?

 第8階層ですかね?』

と合流したいと言って来た。


 なので、

『今、第7階層の源泉の出てる所に居るよ。』

と返すと、速攻でやって来て、建物を前に驚いていた。



「これ、とてもダンジョンの中とは思えないですね。」

とミケが苦笑いしている。


 早速弟子ズ(1期生~2期生)が部屋割りもソコソコに、温泉へと消えていった。


 1時間後、初めての炭酸泉に大絶賛する弟子ズの面々(特に女性陣に大好評)。


「俺らはゲートが使えるけど、これ他の人も味わいたいだろうな・・・」

と海渡が呟くと、他の者達も「確かに・・・」と同意する。


 そこで、海渡は常設型ゲートの魔道具を考える。

 幸いダンジョン内と言う事もあり、空間に漂う魔素は非常に濃く、これらを取り込む事で、消費魔力を押さえる事が出来るのではないかと閃き、智恵子さんと相談する。

『空間にある魔素を収集する』と言うアイディアだが、現状ではかなり難しい事が判明した。

 魔素を収集し、ワンウェーで魔石にリチャージする感じを考えていたのだが、魔素を吸収する素材をどうするか?と言う事で暗礁に乗り上げた。


 しかし、まあ積極的に収集しなくても、魔石が自動的にある程度は収集してくれるらしい。

 なので、メインゲートをここの旅館にしておけば、ある程度は消費魔力を減らす事が出来ると。


 海渡は、再度宮殿の地下工房に戻り、ゲート本体となる強化TFGの輪っか(スターゲート風)を2つ作り、1つを宮殿の屋上に設置し、もう一つをダンジョンの旅館の玄関付近に設置した。

 プログラムは、時空間共有倉庫の物をベースに変更し、生き物が通過出来る様にした。

 再度宮殿側のサブゲートに本体とコネクトする様にプログラムを変更して、完成した。


『ねえ、智恵子さん、これ物理的に繋がっているのは確認済みなんだけど、もし生き物で試して失敗すると、どうなる?』

と聞いてみると、


『多分大丈夫だと思いますが、失敗すると、生物ではなくなりますね。まあ具体的に言うと、亜空間に閉じ込められて迷子になるか、ミンチになるか・・・』

と怖い事を仰る。


 宮殿の屋上のゲートの前でどうやってテストするか、考え込んで居ると、


「あら、完成したんですね?」

とテスト前のゲートからフェリンシアがひょっこり顔を出した。


「うぁーーー!! 何て事を!! まあでも成功したのかw」

と慌てつつも、成功してホッとする海渡。


 フェリンシアはキョトンとしていたが、失敗した際のリスクを説明すると、笑いながら、

「大丈夫ですよ。海渡がミスする筈ないですからw」

と笑っていた。


「いやいや、俺だって人間だから、ミスはするよ? よっと過信するのは怖いからね?」

と釘を刺したのだった。

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