第494話

 一旦宿舎に全員戻り、風呂に入って小ざっぱりとして、小マシな服装に着替え、約束の時間前に到着する様に、自動車2台に分乗して宮殿を目指す。

 そう、この世界で王族らしい服や貴族らしい服のセンスには、どうしても馴染めない。

 どうして、あんな所にヒラヒラが付いているのが、カッコイイとされるのかが、全く理解出来ない。

 昔の少女漫画に出て来る様な薔薇を背負った美形主人公が着る様な服なんて、元の世界の日本では見た事が無い。

 全くもって謎である。


 と言う訳で、現在着ている服は、素材こそ耐物理攻撃や耐魔法攻撃と快適の付与がされているシャツとズボンとジャケットであるが、鏡で見ると、完全に七五三の男の子で、愕然と崩れ墜ちてしまった。

 まあ、しかし、これ以上の選択肢は無いので、ラルクにも無理矢理着せて(本人は割と嬉しそうだったのだが)道連れにしている。

 一方女性陣は、派手すぎないワンピを着ている。


「美少女美女達が、清楚なワンピ姿にキリリとしていると、絵になるね。

 俺と違って・・・」

と嘆く海渡だった。



 一応、迎えの馬車を出すと言う事も言われたのだが、時前であるからと丁重にお断りし、門番にだけはちゃんと話を通しておいて貰う様に、お願いしてある。


 夕暮れ時ではあるが、スタンピードの問題は通達前に解決したので、耳の早い冒険者や一部の商人だけが、右往左往したぐらいで済んだようだ。

 と言う事で、帝都のメインストリートは、夕刻の最後の売り込みで大賑わいである。


 時間には余裕を持って行動しているので、多少は混雑していても、遅れる事はない・・・と思いたいw

 最悪、ゲートを使えば良い話だしな。


 しかし、その心配は無断になった。

 混んで居たのは、商業地区だけで、その先の高級住宅地区や、貴族地区になると、ガラリと変わり、スカスカの道を良い感じのペースで走る事が出来たからである。

 結局、城・・・皇城と言うべきか? の門に辿り着いたのは、約束の10分前であった。


「こう言うのは早過ぎず、遅すぎずが良いのか良く判らんな。」

と海渡が言うと、


「そうですよね~」

と暢気な返事のジャクリーンさん。


 普段ならば、ヨーコさん辺りに聞けば最適時間を教えてくれるのだが、今居る10人は、その点、全く宛てに出来ないw(自分を含め)

 フェンリルのフェリンシアにそこら辺の知識を求めるのは筋違いだし、ステファニーさんは魔道具と食欲以外が無頓着だし、ラルク少年らは俺と同じく平民の少年少女だし、ケモ耳ズの4名で唯一プリシラだけが王の娘なのだが、『適当』や『いい加減』や『本能で生きる』が心情の様な獣人だから、これも頼りにはならない。

 そして、唯一『姫』であるジャクリーンさんだが、これが・・・所謂脳筋な残念系なので、そう言うのは、誰かが教えてくれる物としか認識していなかった。

「うむ・・・最強だと思えるこの面子だが、思わぬ弱点があったなww」

 と海渡が真顔で言うと、全員が爆笑していたと言う・・・orz



 ロータリーで車を降りて収納し、案内の執事の後ろを歩き、そのまま会場へ通された。

 ホールに入ったのは、丁度指定の時間。我ながらナイスだなw


 ホールに入ると、全員がこちら見て、深々と頭を下げながら、拍手が鳴り響いていた。


「おお!カイト殿、そしてそのお仲間殿、今日はこの宴にお越し下さり、感謝致す。」

と着飾った皇帝が、海渡達の所までやってきて、深く頭を下げた。


「いえいえ、そんな頭を下げないで下さい。皆さん見てらっしゃるし、我々はあくまで、指名依頼を受けただけですから。それにそれなりの報酬も頂いてますし。」

と海渡が言うと、


「ふふふ、なるほど。それで冒険者ギルドを通した訳じゃな? 流石はカイト殿だww」

と大いに笑っていた。


「ささ、皆で乾杯しようではないか!」

と皇帝の音頭で祝杯を挙げた。


 そして、皇帝の家族を15人程紹介され、やっとご飯に有り付けると思いきや、今度は大臣や貴族連中が群がって来やがった。

 く、食うに食えない。と心の中で毒突く海渡。


 ふと、気付くと、他の10人はワイワイと料理を皿に取って、バクバクと食べてらっしゃる。

「すみません、ちょっと燃料補給して来て良いですかね? せっかくの『美味しいトルメキア料理』なんで。」

と海渡が言うと、ハッとした皇帝が、周囲の人達を体よく追い払ってくれた。


「す、すまぬ。浮かれてしまって、『美味しいトルメキア料理』の約束を忘れておった。

 ささ、どうぞ、心ゆくまでご堪能頂きたい。」

と仲間の下へと送り届けてくれたのだった。



「あ、これ、美味しい!!」

と海渡が皿に取った料理をバクバクと頂く。


「ボス、これも美味しかったですよ!」

とミケが皿に取ってくれたパスタ。


「ほう、麵が平たいパスタか・・・何て言うんだっけ?」

と言いながら、頬張る海渡。


「おお!クリームとチーズがマッチしてて美味いな!!」


「ボス、これもお薦めです!」

 と今度はプリシラが、直径3cmぐらいのミートボール?をお月見の団子の様に、ピラミッド型に積み上げて持って来てくれたw


「ププッ・・・まるでお月見の団子の様だなw」

と海渡が吹き出すと、首を傾げて判ってないようであった。まあ、こっちの世界では、そんな風流な文化ないもんね。

 せっかく持って来てくれたのだが、そんな20個以上も積み上げられたミートボールを全部は食えないので、3つだけ頂いたw

 後はプリシラが、ペロッと行ってましたw


 『美味しいトルメキア料理』だが、街の中と同じで、洋食系ばかり。

 しかし、どれもシッカリと調理され、隠し味もあって、非常に美味い。


 特に豆を使った物が多く、豆や肉と一緒に麦を煮込んだ料理もリゾット風で美味しかった。

 ボルシチ風の酸味のあるシチューも美味しかったし、パイに包んで焼いた肉も美味しかった。


「どうですかな? 『美味しいトルメキア料理』はw」

と皇帝がドヤ顔で近寄って来た。


「いや、他でも似た様な料理は知っているんですが、凄く美味しいですね。特に豆料理も美味しい。

 仲間なんて、全種類制覇する!って意気込んでましたしw」

 と海渡が満足気に言うと、


「そうでしょう、そうでしょうw 宮廷料理長が張り切ってましたからなw」

と嬉し気に行っている。


「それはそうと、こちらの帝都を散策したんですが、非常に関心したのは、街作りもですが、一番はゴミが無い事です。

 これは、国民にしっかりモラルを叩き込まないと、なかなか実現出来ないですからね。素晴らしいです。

 うちも、見習わないとです。」

と海渡が褒めると、皇帝が嬉しそうな顔をして、少し照れていた。


 話題は海渡の日本の話になり、建国して5ヵ月経ってない事を伝えると、驚かれた。

「と言う事は、カイト殿が建国されたと言う事なのだな?」


「ええ、何か流れで周囲の国の王から、半ば押しつけられる感じで・・・」

と経緯を話すと、もっと驚かれ、


「まるで、お伽噺を聞いている気分になりますな。」

と呟いていた。


 それから、話は商会の話や商品に移り、自動車や飛行機の話になり、飛行機から今回の避難の話になり、最後に避難民の話になった。


「彼らの村はどうなったんですか?」

と海渡が聞くと、3つの村が踏み荒らされ、完全にダメになったらしい。


「それは・・・厳しいですね。」

と海渡も暗い顔になってしまう。


「ああ、せっかく何代も掛けて築き上げた畑をやられたのだからな・・・。

 復興するにしても、今年の収穫は難しいだろうなぁ。

 まあ、あれだけの事態で、全員が無事であっただけでも、本当は喜ばしい事なのだがな・・・。」

と皇帝も悩ましい顔をしていた。




『美味しいトルメキア料理』の宴も終え、せっかくなので、全種類の料理を少しずつ皇帝に許可を得て、お持ち帰りさせて貰った。

 宴のお礼を言って、宿舎へと帰って来た海渡は、踏み荒らされ壊滅したという村の1つへとゲートでやって来た。


 お試しも兼ねての、ボランティアなので、こっそり一人で行くつもりだったのだが、何となく勘付いた全員が、「何言ってるんすか、水臭いっす!」と言って、結局弟子ズを含む、フルメンバーでやって来ている。

 村の状況だが、廃墟と言うよりも、既に瓦礫が散乱しているだけの状態。

 畑は踏み荒らされ、今まで必死に守ってきた農民に取っては、絶望しか感じない様な惨状である。


 畑を含む村全体となると、かなりなエリアになるが、戻すのはたった1日分。

 何とかなるんじゃないかと、試しに『リワインド』を発動してみると、村全体がボワンと光り、ドンドンと巻き戻され、農作物に関しては戻らない物も多数あったが、少なくとも建物や畑自体は、上手く巻き戻す事が出来た。

 最後の仕上げに、畑全体にラピスの泉の水を満遍なく撒いてみた。


「どうだろう? これで少しはマシになったよな?」

と海渡が言うと、


「農作物は60%と言う所ですが、それでも全滅よりは、かなり良い状態になったと思います。」

とミケがフォローしてくれた。


 一応復旧がある程度は出来る事が、判明したので、弟子ズには広めの空きスペースを持たせた所に城壁を作って貰った。

 こうして海渡らは、残る2つの村も同様に『リワインド』を掛けて復旧していったのだった。


 今回被害こそなかった4つめの村にも、念の為に城壁を作って、夜のお仕事は終了。

 2箇所目以降は分業で作業したので、4つの村を廻っての作業は合計1時間も掛からず、夜の10時には宿舎でユックリと眠りにつけたのであった。

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