第489話

 門の直ぐ側まで辿り着き、キョロキョロと城門の上部分を確認していると、どうやら結界の発生源らしい、魔力を放出している箇所を数カ所発見した。


「へー、200m毎に発生アンテナみたいなのがあるんだな。」

 と感心しつつ、城門に到着。


 衛兵にギルドカードを見せて、中に入りつつ質問をしてみた。


「この国の帝都に初めて来たんですが、凄いですね!

 帝都全体を結界で囲んでいるんですね。これって常時発動しているんですか? それとも何か騒動でもあったんですか?」

と海渡が言うと、衛兵は「えっ!?」と呟き、見るからに狼狽と言うか、焦りだし、直ぐに4人の衛兵に囲まれ、衛兵の詰め所の一室へと案内された。


「うーん、何か聞いちゃまずかったのかな?」

と海渡は相手の出方を観察する事にして、待った。



 暫くすると、騎士とローブを纏った2人組ややって来た。


「結界の質問をしたと言うのは君かな?」

と騎士が聞いて来た。


「あ、はい。冒険者のカイト・サエジマです。ギルド本部からの配達依頼を受けて各国のギルドを廻っているんですが・・・。

 初めて帝都というか、トルメキア大帝国にやって来たんですが、これだけの都市全体に、結界を張っている都市はこれまでに見た事が無かったので、驚いて感心してました。

 ああ、私は商会もやってましてね。魔道具なんかも販売しているので。」

と言って、冒険者ギルドカードと商業ギルドカードを見せると、


「「SSランク! こっちはSランク!!」」

と騎士もローブの女性も驚きの声を漏らしていた。


「まあ、そんな訳で、結界が張ってあるのは感知出来るんですが、これだけの結界を常時展開するとなると、相当燃費が悪いだろうな・・・と思った訳で、そうなると、何か不足の事態が起きていて、その防御策なのかと推測した訳です。」

と海渡が説明すると、


「なるほど、流石はSSランクのカードを持つだけあって、ご慧眼に感服致しました。」

と騎士が頭を下げた。


「その若さで、凄まじいですね。」

とローブの女性。


「で、私は何故ここに呼ばれたのでしょうか?」

と海渡が質問すると、


「うむ・・・。実はあの結界の存在は、最上級の軍事機密だったのだよ。

 ご推察通り、普段は起動している訳ではなく、非常に燃費も悪いので、本当にギリギリになった時のみ使用する所だったのだが、先程その非常事態の早馬が来てな。」

と騎士が説明していると、途中でローブの女性が止めに入った。


「ドレイク殿!それ以上は極秘事項では!!」と。


「まあ、そうなのだが、こうなった今は、少しでも強力な戦力を確保したいではないか。

 どうせ、後数十分もすれば、冒険者ギルドへの強制依頼が発動されるだろうし・・・。」

と言うと、ローブの女性も、「た、確かに・・・」と黙った。


「それで、先程は、その非常事態の前に、一度テスト起動していた所だったのだよ。

 それを運悪く君が見てしまった・・・いや感知してしまったと言う所だ。」

と騎士が苦い顔で説明してくれた。


「ふむ。なるほど。まあ、でも起動した段階で、私の知る限りだと数十名感知出来る者が頭に浮かぶから、今更ですねw

 ところで、そんな事よりも、その緊急事態って何が起こったんですか? ワイバーンでも攻めてきたんですか?」

と海渡が言うと、


「いや、ワイバーンではないのだが、この帝都の近所に知らないうちに、ダンジョンが出来ていたらしくてな。

 それが溢れてしまって、スタンピードをおこしたんだよ。」と。


「あらら、それは・・・。で、そのスタンピードは帝都に向かっていると?

 その魔物は何万ぐらいの軍勢なんですか?」

と聞くと、


「当初の段階では約5000匹と言う話だったのだが、今じゃあ1万匹を超えていると言う報告なんだ。」

と騎士が暗い顔を、ローブの女性は青い顔をしていた。



 海渡は確認されている魔物の種類や、方角、途中の集落等の避難状況等、事細かく聞き出した。


「ふむ。状況は理解しました。そうですねぇ、それなら我々のパーティーで解決出来そうですが、どうします?」

と海渡が尋ねてみると、


「「え?」」と驚きの声を上げ、どう言う事かと聞き返された。



「まあ、ちょっと現在のリアルタイムな状況確認をしてみますか・・・。えっと、ダンジョンの位置と、現在報告されている、魔物の先頭集団の位置って何処でしょうかね?」

と海渡が端末を取り出して、帝都付近を中心にズームアウトした画像を見せると、


「「あーー!!!!」」

と2人が叫んで固まってしまった。



 30秒ぐらいの間で、ドレイクと呼ばれる騎士が復活し、

「な、何で我らの国家機密よりも詳細な地図を!? それにそれは何だ?魔道具か?」

と凄い食いつき様。


「ああ、これはうちの商会で普通に売っている魔道具のタブレットの上位管理者版ですね。

 まあ、そんな細事よりも、今は一刻を争う緊急事態でしょ? 早く教えて下さい!!」

と情報提供を急かす海渡。

 騎士は納得いかない様子ながらも、ダンジョン位置と先頭集団の最終報告位置を教えてくれた。

 海渡は、タブレットで、ドローンのプログラムを弄り、ダンジョン上空、ダンジョンと王都の中間地点、報告のあった最終地点の3箇所にゲートで300機のドローンを投入した。


 復帰したばかりのローブの女性は、そのゲートを見て、

「げ!そ、それは?」

と叫び声を上げ、また固まったのだった。



 10分もせずに続々と固定位置にドローンが配置され、以前の絶界の森の2万匹の時と同様に、リアルタイムな情報を収集して、サーバーに送り込んで来る。


「ご覧下さい。これが現在のリアルタイムなスタンピードの情報です。

 赤い点が魔物を表しています。緑の点は人ですね・・・あ・・・集落が・・・」


 丁度海渡が端末の画面をスクロールし、先頭集団を表示した段階で、1つの集落が全滅した。


「避難状況はどうなのですか?」

と海渡は声を荒らげて、騎士に詰め寄ると、


「なんせ、報告に時間が掛かりすぎてな・・・ダンジョンに近い場所の集落には、避難命令が間に合わなかったのだよ。」

と騎士は悔しそうに呟く。


『おーい!緊急事態だ! 帝国でダンジョンが溢れてスタンピード起こしてる。大至急帝都の南門に集合してくれるか?』

と海渡が全員に伝心で通達する。


『『『『『『『『『『了解!』』』』』』』』』』

と全員から返事が返って来た。



「ここを見て下さい。まだ避難出来ていない集落があります。

 事は急を要します! うちの1軍のパーティーを招集しましたので、この南門の外まで着いて来て下さい!

 さあ、急いで!!」

と海渡は急かし、2名を引き摺る様に門の外に出る。


 衛兵は何事か?と驚いていたが、そこへ上空から次々と全員が着地し、ザッと整列する。

「これが、うちのパーティーメンバーです。全員SSランクなので、ご安心下さい。」

と騎士とローブの女性に伝え、


「みんな、さっき言った通り、ダンジョンが溢れた。まだ逃げ遅れている集落が近くにあるので、大至急全員を避難させ、その後殲滅する!」

と宣言すると、


「「「「「「「「「「イエス・マイ・ロード」」」」」」」」」」

と全員が、ザッと跪き、片腕を胸に頭を下げる。


 既に、衛兵も慌ただしくしていた通行人もドン引きである。


 更に海渡はヒラメ君0号機を目の前の城門前の空いたスペースに取り出して、

「さ、じゃあ救助に向かいましょう! お二人は同行お願いしますね。」

と二人の背中を押しつつ、リヤハッチから乗り込み、呆然とする周囲のギャラリーを無視して、上空へと飛び立って行ったのだった。


 一瞬遅れで、ヒラメ君が上空で点になった頃、


「「「「「「「「「うぉーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」

「「「「何じゃーあれーー!」」」」


 等と南門の前に居た人達が復帰して騒いでいたのだった。


 ゲートを使い、若干の時間短縮をして、3分後には最前線に近い集落上空へと到着し、村の入り口の前に着陸した。

 そして、直ぐさま、全員で手分けして、1件1件を周り、寝たきりの老人を含め、ドンドンとヒラメ君に収容した。


「村長!これで村の全員ですね?」

と海渡が確認すると、呆然としていた村長が、ハッとして人数を数え、コクリと頷いた。


 直ぐに上空へ飛び立ち、次の村へと到着し、また収容した。

 結果、安全を考慮して、4つの村の強制避難を完了し、帝都へとトンボ返りしたのだった。

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