第487話

 ラルク少年と出掛ける前、海渡は店長へ、保護した孤児達の面倒をみていた年長組の4名が戻って来たら、手厚く迎えてやるようにお願いしておいた。


 そして、屋台巡りを開始。女性陣は女性陣で、店を廻るらしい。

 しかし、何店舗かの屋台や露店、お店を廻ったが、どれも普通程度でこれは!と言う物が無い。

 特色の有る物も見かけず、購買意欲に欠ける状態が続いている。


「なあ、ラルク。この国の特産物って何なんだろうか? 不味くは無いけど、どれも決め手が無くて、普通だよな。

 なんか、人通りは結構あるんだけど、パッとしないと言うか・・・。」

と海渡が聞いてみると、


「ああ、俺も何かパッとしないなぁって思ってたっす。 街並みは綺麗なんすけどねぇ。」

とラルク少年も同じ気持ちだったらしい。


 そして、立ち寄った屋台のおっちゃんから、肉串を受け取りつつ、

「なあ、おっちゃん、この国の特産物って何? これが美味しい食材だーー!ってのはあるの?」

と聞いて見ると、


「うーん、特産物かぁ・・・。まあ『これ!』ってのがあるとすれば、それは教会本部かな。」

とおっちゃんも思案した結果、特産物を放棄したような回答。


「えー? 教会って特産物じゃないと思うけどw」

と海渡が言うと、


「ああ、それでもな、結構教会本部へは巡礼で信者が来るんだぞ?

 あとは・・・そうだな、王都とは少し離れるけど、ダンジョンかなぁ。 ダンジョンはかなりの数があるぞ?」

とおっちゃん。


「へー!ダンジョンあるんだ。 ここから遠いの?」

と聞くと、一番近い所だと、馬車で3日程の距離だそうで。

 ふむ・・・そう聞くと結構離れてるのかぁ。

 だから、あまり王都自体には影響が無い感じなのかな。



 セイレーン聖王国の郷土料理って、どんな感じなのかと思いつつ、他の店や食堂を覗いたりもしたけど、簡単に言うと、ワンスロットの一般的な料理の劣化判w


「なあ、ラルクぅ~、ここまで宗教以外何も利点の無い国ってどうよ?」

と海渡が吐き出す様に問うと、


「あっしも、ガキなんで余り難しい事は判らないっすけど、兄貴に着いて、彼方此方見させて貰ったから言うと、ヤバいっすね。」

とラルク少年も海渡の言わんとする事が、何となく判る様だ。


「問題は、ラルクでも判る事を、この国のトップが全く理解してない・・・つまり教会に胡座をかいて、頼り切っていただけって感じだな。」

と海渡が言うと、


「兄貴ぃ~ 言い方!! 何か酷くないっすかw まあ、そうなんすけどw」

とラルク少年が苦笑い。


「ああ、5歳のラルクでもって意味だぞw

 もっとも、ラルクの場合は、5歳と言っても、そこら辺の20歳よりある意味凄いからなw」

と海渡が褒めると、照れていた。



 結局、1時間もせずに、何かテンションが下がってしまい、宿舎へと戻る事にしたのだった。

 午後4時半を回った頃、袋を抱えて、ポカンとしている4人の少年少女を、門の前で発見。


「あ!あの子達かな?」


 海渡らは、4人の下へと急ぎ、

「あー、君達、もしかして、ここの倉庫に居た13人の子供達と一緒に住んでた人だよね?」

と海渡が言うと、


「え? あの子達が何処に行ったか、どうなったか知っているのか?」

と少年が聞いて来た。


「ああ、心配は要らないよ! 中で君らが戻って来るのを待ってるよ。」

と海渡が門を開け、


「さ、入った入った。」

と4人を急かし、中へと案内した。


 4人は朝までと違い、大きく変わった内部の様子に戸惑いを隠せず、

「これは一体・・・何が起こった?」

「ここは、あの場所で間違いないわよ?」

と4人でゴニョゴニョと話し合っている。


 海渡は宿舎の入り口で、4人にセキュリティキーのブレスレットを渡し、初期登録をさせた。


 そして、4人を託児ルームへと案内する。


「あ!兄ちゃん達だーー!!!」

と13人の少年少女達が一斉に駆け寄る。


「ああ、お前達無事だったか!」

「もう、どうしちゃったのかと、生きた心地がしなかったわ」

と全員が抱き合っていた。


「えっと、俺から説明するね。」

と海渡が経緯と自分の説明をして、少年ら4名もここで暮らす様に話を持ちかけた。


「ほ、本当に俺らもここで一緒に働いて良いのだろうか?」

と恐縮していたが、


「全然大歓迎だよ? それに、もし冒険者である事を望むなら、支援プログラムもあるから、鍛えてやる事も出来るし。」

と海渡が言うと、喜んでいたが、冒険者をやっているのは、単にそれしか仕事に有り付けなかったからだけらしく、冒険者には未練が無いらしい。

 尤も、Fランクなので、街の中でのちょっとした要件や、城壁の外の採取依頼ぐらいしかなく、稼ぎも悪かったらしい。


「そうか。でも君らは偉いな! それでもちゃんと全うにこいつらの面倒を見て来たんだからな。

 それは、誇りに思って良いぞ。そんな君らが、さえじま商会に入ってくれる事が心から嬉しい。」

と海渡が満面の笑みで讃えると、涙目で照れていた。


 その後、大食堂に降りて、彼らに商会の事やこの宿舎の趣旨等を含め説明した。

 また、孤児達や、仕事が無い人や、幼い子を抱えているシングルの親子等が居たら、一応面接はするけど、余程の事が無い限り、力になれると思うから連れて来てね!と言うと、

「え!? 本当ですか! でも40~50人ぐらい居るんですが、大丈夫でしょうか?」

と聞いて来た。


 どうやら、自分らだけに救いの手が差し伸べられた事に、凄い罪悪感を抱いていたらしい。

 また彼らと同じ様な、孤児だけのコロニーが、複数個あり、同じ様に年長者が冒険者をやって、ギリギリ日々の糧を得ているらしい。


 海渡が、

「うん、多分100人ぐらいは大丈夫だから。まだ居るなら居るで、場所や宿舎を増やすから。」

と言うと、本当に嬉しそうな笑顔になって、


「それなら今から、ちょっと行って来て良いかな? 多分、直ぐだから!!」

と4名が嬉し気に飛び出して行った。


 店長は・・・と言うと、(一応未成年者の為、本業には回せない者が)一気に追加で50名が増えると言う事で、若干顔が引き攣っていたw


「ここの支店が別に赤字であっても、全く問題ないからね? そんなに気にしないで。

 あと、この国自体にも問題ありそうだし。」

と海渡が言って、この国の教会ベッタリであまり発展する事の努力が無い実体等を説明した。


 すると、うーーん、と唸り考え込む店長。

「なるほど、特色が教会以外に無い訳ですか。

 じゃあ、食のテロでも起こしますか?w」

と店長がニヤリとしながら提案して来た。

 つまり食文化のバイオハザートを起こそうと言う事らしい。


「ふっふっふ、面白いじゃないか! 惰性で回っている様な国だから、何か刺激になる起爆剤あると、化ける可能性あるからなw

 今、うちの国の王都で、ヨーコさんが企画してるフードコートをここでもヤルって手もあるし。」

と海渡が言うと、


「ええ、実は私もそれを狙ってました。」

と笑って答えてきた。


 海渡は店長に、たこ焼き&鯛焼きの移動販売車両の話をしてみると、

「ほう!それまた面白いじゃないですか!!

 たこ焼き&鯛焼き以外に屋台と言うか移動販売とかフードコート向けのメニューって他に何がありますかね?」

と店長が聞いて来たので、海渡は考えながら、


「他は食事系だと、うどん、蕎麦、ラーメン、焼きそば、お好み焼き、磯辺焼き、パスタ、ピザ、丼、ホットドッグ、サンドイッチ、他に無い様な面白い系なら、色んな種類の肉を好きな重さで食べられるステーキ屋さんかな。

 デザートだと・・・夏限定でアイスクリーム屋とか、かき氷屋だな。」

と並べると、店長は全部メモを取っていた。


「作り方や、屋台とか移動販売車両とかを作る際は、遠慮無く俺に連絡してくれれば、ドンドン協力するよ。

 あと、ヨーコさんとも連携取れば、あっちのフードコートのノウハウとかもフィードバック出来るし。」

と海渡が言うと、ニコニコしながら、


「その際には、是非遠慮無く使わせて頂きますんで、覚悟しておいて下さいw」

と言っていた。


「ううぅ・・・少しは手加減してねw」

と2人で爆笑していた。



 暫くすると、4つの孤児コロニーを引き連れた少年少女4名が帰還し、全員を受け入れる事にした。

 当初の13名+4名+52名で、一気に子供らの人数は69名に膨らんだ。

 尤も、その69名の中で、12歳以上は、5名だけで、10歳以上12歳未満が15名、他は全員10歳未満である。

 海渡は、店長に10歳未満は軽いお手伝い程度にする様お願いした。

 就労は基本12歳以上としているが、10歳以上になると、いや、孤児全般であるが、何も貢献してないと感じた場合、萎縮したり、遠慮したり、気兼ねしたりするので、逆に少しは役に立っている、貢献していると言う実感が必要と言う経験則で、現在では精神的な負担にならない様に、且つ肉体的に負荷が掛かりすぎない程度のお手伝いをさせている。




 お風呂に入り、真新しい清潔な服に着替えた子供らは、活き活きとした笑顔に満ちていた。

 美味しく温かな夕食を堪能しつつ、子供らが泣き笑いしたりしていた。


 そうそう、冒険者ギルドの本部で、人選していた大臣らやギルドマスター達が、夕食後ぐらいに、やっと終わったらしく、ラルク少年達を迎えにやったのだが、宿舎に合流した彼らは、アッと言う間に築き終わっている拠点に驚いていた。

 更に、その拠点の宿舎の中が子供らで溢れかえり、ワイワイキャッキャしているのを見て、二度ビックリ。


「まさか、今日一日で、ここまでになっているとは・・・」


 しかし、昼食も殆ど取らずに人選したりしていたらしく、海渡が出した夕食を全員がガツガツと食べて、


「こ、これは! カイト様、滅茶苦茶美味しいですな!」

と2回程お替わりしていた。


 大臣は、自分らにだけの特別料理と思っていたらしいのだが、


「え?いえいえ、これはうちの従業員も王宮も全員同じですよ? 特別に用意した訳じゃないですから。」

と海渡が説明すると、


「マジですか。これ、陛下の食事よりも美味しいと思います・・・」

と大臣らが絶句していたのだった。


 そんな大臣達は、食事後に案内された5階の大浴場の温泉で、更に絶句・・・いや絶叫していたのだった。

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