第479話

 ヤッベーー!と呟きながら、領主館へ逃げ帰った騎士と衛兵達。

 騎士は直ぐに領主様の所へと報告に向かう。


「ああ、何か俺達って、板挟みでヤバいよな?」

と同じく青ざめている同僚の騎士に語りかけると、


「ああ、確かに友人とは言え、お前は俺の上役だからな。ヤバいな。」

と逃げに入る。


「あ!汚ぇ!自分だけ助かる気だろ? 何言ってやがる。俺とお前は3ヵ月俺が先輩ってだけだろ?」

と醜い争いをしている。


「まあ、こうなったら、腹を括るしかねぇか。」

と領主の待つ書斎の扉をノックし、「入れ!」と言われて渋々扉を開けて中に入る騎士2人。


「ん? 捕縛はどうなった?」

と領主様が聞いて来る。


 騎士は、油汗を掻きながら、事の顛末を話し始めた。



「・・・」


 話し終えた書斎の中を重々しい空気と沈黙が流れる。


 ゴクリと唾を飲む音が聞こえ、

「つまり・・・」

と領主様が言葉を途切らせてしまう。


「つまり?」


「・・・つまり、その声の主は陛下であったと? しかも全ての状況をご存知で、『失策』と、『国家反逆罪』と『国家の恩人』と仰った訳だな?」


「はい。ですが、私自身は、陛下のお声をお聞きした事はございませんので、何とも判断が付きません。

 しかし、その声の主・・・陛下は、『もし邪魔をする様であれば、騎士だろうと、衛兵だろうと、領主様であろうと、斬り捨てて良い』と仰っておりました。

 また、その少年が、国内最強と言われているゲルハッセン将軍が1000名の兵士と共に反乱を起こし、その1000名の反乱軍を全て瞬殺したと言っておりました。

 だから、そんな領都軍等、一呼吸の間に瞬殺であろうと。」

と言って、騎士もゴクリと唾を飲み込む。


「この期に及んでは、その少年の手腕に掛けるしか無いか。戻って来たら、一度正式に謝罪せねばならんな・・・。」

とグエンザン辺境伯が呟いたのだった。




 海渡はヒラメ君0号機に乗り、上空でゲートのショートカットを使い、サクッと王都の空港へと着陸していた。

 約束の時間の10分前には、騎士が先導した馬車の列がゾロゾロと空港へとやって来た。

 海渡は、リヤハッチを開けて、お出迎えすると、真っ先にドレン王が降りて来て、その後ろからは、王様を押しのける様にミルフィーさんが続いて降りて来た。


「もう、カイト様、コッソリ出発なさるとか、酷いですわ!」

とかなりご立腹な様子。後ろでは押しのけられた王様が、苦い顔をしている。


 海渡は、取りあえずミルフィーさんをするーして、

「ドレン王、一刻も早くギルドの機能を回復させる為、早速ですが、使者の方々を飛行機に。」

と告げると、


「え?スルーですか? 私の事はスルーなのですか?」

とガーーンと言う表情で崩れ墜ちるミルフィーさん。

 忙しい時に、面倒を持ち込むなよな・・・と海渡も苦い顔をする。


「ミルフィーさん、今はそう言う場面じゃないですからね。少しは場や状況を弁えないと。」

と海渡が言うと、ハッとして、


「申し訳ありませんでした。」

と暗い顔をしていた。


 結局、ドレン王国側の使者の人数は、大臣とその補佐の3名+護衛騎士6名+従者3名の12名、ギルド側は、ギルドマスターと秘書?の女性が1名の合計2名と言う事らしい。

 早速、海渡はヒラメ君から通常飛行機型の2号機に乗り換えて、椅子に座らせ、上空へと飛び立った。


 上空で水平飛行に移ると、直ぐにセイレーン聖王国の王都上空へとゲートでショートカットした。


 搭乗客の14名は水平飛行をしたと思ったら、いきなり眼下に都市が現れて、驚きの声を漏らす。


「到着しました。北門の側に着陸します。」

と機体を旋回させて、北門の側にオートランディングした。


 突如として飛来した飛行機に驚き慌てる城門の衛兵達。

 海渡は直ぐにハッチを開けて、全員を降ろし、風魔法の拡声で、


「突然で申し訳ありません。ドレン王国の方から緊急でやって来ました。攻撃の意思も怪しい者でもありません。ドレン王からの使者と冒険者ギルドの使者を連れて参りました。」

と宣言したら、少しだけ騒ぎが落ち着いた。



 海渡ら一行は、そのまま徒歩で北門まで進み、入場手続きを行った。

 ここ、セイレーン聖王国は冒険者ギルドの本部があるだけあって、SSランクのギルドカードの効果は覿面。


「こ、これは失礼しました。SSランクの冒険者の方々でしたか。なるほど、それなら先程の乗り物も理解出来ます。ようこそセイレーン聖王国の王都へ」

と笑顔で出迎えてくれたのだった。


 海渡がギルド本部への道を聞くと、北門からはかなり離れている事が判明し、衛兵のおじさんに断りを入れてから、バスを出した。


「「「うぉー!何か出た!」」」

とそれでも驚く衛兵達。


「ああ、これは地面を走る乗り物なんですよ。」

と海渡が説明すると、


「なるほど、流石はSSランクの冒険者だ!」

と感心していた。


 そして、全員を乗せて、教えて貰った冒険者ギルドの本部まで出発した。

 ここ、セイレーン聖王国の王都のメインストリートは、非常に道幅も広く、石畳で整地されていて、走りやすい(ドレン王国に比べてだが)。


 街並みを見学しながら、バスを運転していて、ふと海渡は全くセイレーン聖王国について知らない事に気付き、

「すみません、何方か、セイレーン聖王国について教えて頂けませんでしょうか?

 出来れば聖王国の由来とかその辺から・・・。」

と言うと、


「では、ワシから。セイレーン聖王国とは、・・・~~」

と大臣の説明が始まった。


 要約すると、聖王国とは、ここにある教会本部の司祭長から洗礼を受け、女神様の意思で王に就くと言う風習から来ているらしい。

 なるほどね。

 で、ここで言う教会の女神様って言うのも、勿論、ラノベ大好き、スイーツ大好きの女神ジーナ様であると。

 この大陸全土の教会の司祭は、本部から決定して送られるらしい。

 更にジーナ様の神託で、冒険者ギルドも作られたらしい。マジか!これはちょっと驚いたよ。

 と言う事は、ここの教会本部とやらにも、一度行っておくかな。時間あれば良いんだけど・・・。


 この聖王国は女神ジーナ様の神託により建国された、この大陸唯一の国と言う事で、この国に喧嘩をふっかける国もおらず、またその逆も無い。

 建国以来、領土の拡張も何もなく、今まで平和らしい。但し魔物の襲撃を除くだが。

 教会は、独自に聖騎士団を持っており、その聖騎士団がこの国唯一の軍隊って事なのだが、末端の領土ではそうもいかず、一応領主軍は存在しているらしいが、各領土に聖騎士が数名在中していて、有事には領主よりも権限が高く、聖騎士によって指揮を執る事になっているそうな。


 ふむ・・・大丈夫なのか?聖騎士って・・・。

 何か変なフラグが立ってる気がするんだけどなぁ。

 まあ、平和なら、問題ないのかな。


「~と言う感じです。いやぁ~、ワシも10年振りぐらいにここに来ましたが、いつ見ても素晴らしい街並みですなぁ。」

と大臣の講義が締め括られた。


「なるほど。詳しい説明ありがとうございました。時間あれば、教会本部も行ってみたい所ですね。」

と海渡。



 そんな会話をしている内に、ギルド本部の前に到着した。

 海渡は、バスを止め、大臣とギルドマスターに通信機を渡し、終わる頃に連絡をくれるようにお願いした。


 すると、

「え?同行して頂けるのでは?」

と面食らう12名。


「え?俺必要っすか?」

と海渡もビックリ。


 海渡はせっかく自由に散策しようと・・・あわよくば教会本部を目指そうと考えていたのだが、そうもいかず、結局半ば強引にギルド本部へと連れ込まれてしまった。

 ドヤドヤと白い立派な3階建ての建物は、1階は通常と同じロビーや飲食コーナーがあり、依頼票の貼り出してあるボードもあった。

 12名+11名の団体が、ドヤドヤと中に入り、王都のギルドマスターが、受付のおねーさんに、


「我々は、ドレン王国からの使者と、私はドレン王国王都支部のギルドマスターだ。

 グエンザン支部の冒険者ギルドが崩壊してしまって、緊急事態のため、こうしてやって来た。

 統括マスターと至急面談したい。」

と告げると、


「判りました!少々お待ち下さい!!」

とおねーさんが飛んで行った。


 冒険者ギルドの支部が崩壊したと言う話を聞いて、周囲の冒険者達がザワザワしている。


「何があったんだ?魔物の襲撃か?」

「スタンピードか?」

「グエンザンって言やぁ、確か魔宮山脈の麓の最前線じゃなかったか?」

「マジか・・・と言う事は、伝説のドラゴンが出たのか!!」

「げ!!ドラゴン攻めて来たのか!? ヤベーじゃん。」

と噂が独り立ちして、成長されている。


「あー、そこ! ドラゴンとか魔物のせいじゃないからな? 馬鹿なギルドマスターが、まともな運営せずに、総スカン食らって、運営出来なくなっただけだから。」

と海渡が補足を入れると、


「え?坊主、詳しいな。もしかして、坊主も冒険者なのか?」と。


「ああ、これでも一応冒険者なんだよ。」

とSSランクのギルドカードを提示すると、ザッと揃って他の10名もSSランクのギルドカードを提示した。


「「「「「えぇーーー!?全員SSランク!?」」」」」

とその場に居た冒険者達の驚愕の叫びがロビーに木霊する。


「まあ、人は見かけによらないってなw」

と海渡が笑うと、


「そ、そいつはすまねーな。いやぁ、こんだけの人数のSSランク見たの初めてだよ。」

と冒険者のおっちゃんが、頭を下げて来た。


「ああ、別に気にしないで。見かけがガキだから、よく絡まれるんだよね。まあ返り討ちにして楽しんでいるけどw」

と言って悪い笑みを浮かべると、フェリシアとステファニーさんが、腹を抱えて笑っていた。


 海渡達一行は、それから直ぐに大きめの会議室に通され、この大陸のギルドの統括マスターとご対面したのだった。

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