第478話

 朝食後、海渡は子供らをドーピングしてから、文字を教え、文字カードで各自が遊びながら学習出来る様にした。

 そして、その後に調理スキル講習会を開き、希望者(結局元ギルド職員も含め全員だったが)に調理スキルを生やした。

 スキル習得が簡単な物ではないと知っていた元ギルド職員だが、あまりに短時間でアッサリ生えた調理スキルに唯々驚いていた。

 店長はその驚きっぷりにニヤニヤとしていたが。


 そして、調理スキルをLv2まで引き上げた後、今度はたこ焼きと鯛焼きの特訓を始める。

 子供らの調理スキルがLv3になる頃には、綺麗な美味しいたこ焼きと鯛焼きが焼ける様になっていたのだった。


 子供らにたこ焼きと鯛焼きの特訓を行っている間、元ギルド職員の10名には、それぞれ心当たりのあるシングルマザーやシングルファーザーに声を掛けて貰っていたのだが、女性陣4名がほぼ同時に戻って来て、

「カイト様、冒険者ギルドの支部が崩壊したらしいです。

先程知り合いの冒険者に街で会って、話を聞きました。」

と慌てて説明してきた。


「私も知り合いの衛兵から聞いたら、その後領主様の方でも動いていて、事の発端に責任を負わせる気の様だから、気を付けてね と言われました。

 どうしましょう? 私達って、罰せられたりするんでしょうか?」

とかなり青い顔をしている。


「ギルドマスターは、暴徒と化した冒険者数名によって、襲撃されて、昏睡状態の所を衛兵に発見されたらしいです。まあこれはスッキリしたんですが、かなりの冒険者が他の都市に移動を始めたって話しも出てます。」と。


「なるほど、だけど君らは心配しなくて良いよ。何かあっても、俺がキッチリ守るから。

 そうか・・・冒険者ギルドが崩壊したかぁ。でもそうなると・・・なるほどね。だから領主様が慌てて動いてるのかw」

と1人で納得する海渡。


「ん?どう言う事ですか?」

と不思議そうにしている4名。


「つまりさ・・・~」

と説明を始める海渡。


 第一に、ここは全てが冒険者が持って来る素材で成り立っている都市である事。

 商業も盛んではあるけど、それは冒険者の持って来る素材があるからで、素材が無ければ、商人は来なくなる事。

 商人が来なくなれば、食料の供給がストップし、領土としては立ち行かなくなる事を説明した。


「本来なら、ある程度の限食料自給率を確保すべきだと俺は思うけどねぇ。」

と海渡が締め括ると、なるほどと納得していた。


「まあ、でもそうなると、いよいよ財力的な体力の無い人達から犠牲になるね。

 食料の枯渇で、ドンドン物価が上がってしまうからね。

 だから今の内に頼んでた人材を急いで集めてくれる? 多分真っ先に身動きとれなくなる人達だから。

 あ、もし孤児がいたら、その子達もね。」

と海渡が言うと、「了解しました!」と足早に再度街へと出て行った。


 海渡は、ドレン王国の王都の拠点へ連絡し、急ぎ王宮と冒険者ギルドへ、グエンザン支部が崩壊した事と、その対策を急ぐ様にと大至急伝える様にお願いした。

 あと、不本意ではあるが、通信機を1つ王様に渡し、直接連絡が取れる様にもお願いしたのだった。


 結果? 30分もしない内に、掛かって来たよ・・・ドレン王から。


「カイト殿! 何故一言も無く出発されたのじゃ! 水臭いですぞ!」

と第一声。

 しかもその後ろでは、「・・・・ですわ!!」とデスワ口調の声が漏れ聞こえてるし。


「しかし、この通信機と言うのは、大変便利ですのぉ~。」

と危機感0の王様。


「あのぉ・・・状況の概要は、既にお聞きになっているとは思いますが、このグエンザン領全体がヤバい状況だと認識してますか?」

と海渡が聞くと、


「あ?え? ああ・・・ すまぬ、どれくらいヤバいのか、理解はしておらん。」

と王様。

 なので、元ギルド職員に説明した内容を分かり易く説明してやると、


「カイト殿! ヤバいのじゃ!」

と急激に慌て始める王様。


「とにかく早急にギルドを立て直すギルドマスターとギルド職員一式を送って貰わないと、本気でヤバいと思います。

 この状況になるまで悪化させた原因の1つは、ここの領主のミスですね。ギルドはギルドマスターの選出ミス。3:7・・・いや、5:5ぐらいの割合ですか。」

と海渡が言うと、


「しかし、ギルドの事は治外法権なので、国からの要請は行えるが、直接的な動きは出来んのじゃよ。しかもギルド本部はセイレーン聖王国にあるからのぉ。

 要請を今出しても片道約1ヵ月は掛かるのじゃ。セイレーン聖王国から、直接グエンザンへ派遣されたとしても、やはり1ヵ月以上掛かるじゃろうし、どう考えても約3ヵ月弱は空白期間ができるじゃろう。」

と王様。


 マジか。あーー、余り関わりたくなかったなぁ・・・。


「はぁ・・・じゃあしょうがないですね。今回に限り、ここグエンザンの領民の為に人肌脱ぎますよ。

 うちから、飛行機を出します。それに使者の方を乗せて行き、新しい職員をグエンザンまで輸送するようにすれば、ギルド本部次第ですが、1日~2日の空白で何とかなりますよね?」

と海渡がため息交じりに提案すると、


「ほほぅ、飛行機とはそこまで早く移動出来るのか! 何と素晴らしい!」

と驚く王様。


「王様、大体街道がちゃんと整備されていたら、飛行機程ではなくとも、もっと早く連絡が取れたりするんですからね?」

と海渡が苦言を呈すると、


「何とも面目ない・・・」

と声のトーンを落とす王様。


「あ、ドレン王国からの使者だけでなく、そちらの冒険者ギルドの王都支部からも、ギルド関係者と言う事で、同行して貰った方が良いと思うので、大至急手配お願いしますね。」

と念の為に王都支部からも使者を追加して貰う事にし、1時間後に飛行場へ使者を来させる様に約束して通信を終えた。


 すぐに、海渡は弟子ズを含む全員を集め、

「急だけど、これから、王都で使者をピックアップして、セイレーン聖王国のギルド本部へ向かう事となった。

 そして、折り返しで新しい職員を連れて、ここに戻って来る事になる。」

と海渡が言うと、


「ボス、ここの領主様には通達しとかなくて、良いですかね?」

とミケが進言する。


「ああ・・・、それもあった方が良いかも知れないけど、逆に面倒な事になりそうな予感もする。」



 そこに、「ピンポーン♪」とインターフォンのチャイムが鳴る。

 映し出された訪問者を見ると・・・うん、騎士と衛兵だね。


「はい、衛兵の方が何かご用でしょうか?」

と海渡が応じると、


「あー、領主様よりの出頭命令である。そこにカイト・サエジマとその仲間が居るのは判っている。

 大人しく出頭する様に。」と。


「あー、冒険者ギルドの崩壊の件ですか? これからその件で動かないといけないのですが・・・まあ、良いでしょう。

 50分ぐらいしか時間取れませんので、大至急向かいましょう。」

と言って、海渡は弟子ズには、ヒラメ君0号機を託し、海渡らを待たずに、王都経由でセイレーンへ向かう様に命じた。


「なーに、こっちを直ぐに片付けて、合流するから。」と。


 海渡は、自動車1台に乗り込んで、門の前で待ち構える騎士と衛兵の前で止まり、

「どうも。じゃあ、領主館まで案内お願いします。」

と笑顔で話掛ける。


 初めて見る自動車に困惑する騎士と衛兵達。

 見ると、何やら護送馬車っぽい、ヤバい馬車を持って来ている。


「あのー、もしかしてですが、何かこじつけた罪状で、我々を捕縛するつもりでしたか?」

と海渡が殺気を徐々に高めつつ、プレッシャーを掛けると、


「あ、いや・・・」としどろもどろになる衛兵のおじさん。


 騎士は、少し青い顔になりながらも、


「ああ、領主様よりの命令が出ててな。その昨日の夕方の騒動が原因と判断されたのだ。」

 と気まずそうに教えてくれた。


「ふむ。なるほど、こっちが必死で領民の為にと思って、ドレン王と連絡を取ってリカバリーしようとしてるのに、そっちに舵を切りますか。

 なるほどねぇ~。そもそもの原因は、ギルドマスターとキチンと取り締まらなかった領主にあると思うんですがねぇ。

 あ、既にその件は、ドレン王には連絡入れてます。直接話ししてみますか?」

と海渡が通信機を取り出して、ドレン王へと掛ける。


 騎士は、幼い子供の冒険者を捕縛すると言う程度の命令だと甘く見ていたので、この事態の急変に頭が追いついておらず、青い顔で、オロオロとし出す。



 スピーカーモードで、

「あ、もしもし、海渡です。ドレン王ですか?」


「おお、カイト殿!! 今、王都のギルドへも通達して、使者を同伴させる様に連絡を終えたぞ。」


「それがですね、急いで連絡したり手配したりしてたんですが、ここの領主が、私達を逮捕すると言うのですよ。なので、ちょっとお迎えには行けない可能性がありましてね。

 まあ、最悪我々は撤収してドレン王国とは関わらなければ良いだけの話なんで・・・」

と海渡が言うと、


「あ、いや、カイト殿!!! そ、それはちと、早まり過ぎではないだろうか? ワシが何とかする故、ちょっとその騎士だか衛兵だかに代わっては貰えぬだろうか?

 そいつらも、グエンザン辺境伯も、自分らの失策を反省するどころか、関係無いドレン王国の恩人たるカイト殿のせいにするとは、許しがたい。

 国家反逆罪の適用対象となりうる故、ちょっと代わって貰えると、助かるのじゃが?」

と焦りまくるドレン王。


 もう、『国家反逆罪』の件で騎士も衛兵もガクブル状態になっている。


「はい、騎士の方、貴方の国の王様が、話をしたいそうです。」

と海渡が通信機を騎士に向けると、


 首を激しく左右に振って、イヤイヤをする騎士。


「あー、ドレン王、聞こえますか? 騎士の方が、代わるのを拒否しています。どうしましょうか?」

と海渡が聞くと、


「ああ、カイト殿、大変お手数をおかけするのじゃが、もし邪魔をする様であれば、ワシが許す。騎士だろうが、衛兵だろうが、グエンザン辺境伯だろうが、斬り捨てて構わん。

 この期に及んで、失策の後始末に貢献する所か、邪魔をする様な奴は国家の敵じゃ。なに、ゲルハッセン元将軍率いる反乱軍1000名を瞬殺したカイト殿じゃ、一呼吸する間に100回ぐらいは、瞬殺出来よう?」

と物騒な事を要求するドレン王。


 もう、この時点で、衛兵も騎士も恐慌状態。


「あ、いや、これは何かの間違いでした。申し訳ありません。再度確認して正しい所へ捕縛に行きます故、何卒ご容赦を!」

と、馬に振り落とされそうになりながら、速攻で帰って行った。


「あ、聞こえましたか? 今ので逃げて行きましたw では、これから予定通りにお迎えに行きますんで。」

と海渡は黒い笑みを浮かべ、通信を切ったのだった。

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