第471話

 事が収まった後、謁見の間だけでなく、城全体を『リワインド』で戻し、何事も無かった状態にした海渡は、現在謁見の間で、正式なお礼を受ける段階になっていた。


「さて、この度は本当に助けて頂き、感謝の言葉も無い。本当にギリギリの所じゃった。

 不覚にも、ミルフィー共々、手足を失った所で気を失ってしもうた様じゃが、それがこうして全て回復して居るのも、そなた達のお陰じゃ。

 聞いた所、ミルフィーの目が見えなくなったのは、毒を盛られた結果じゃったとは・・・。

 宮廷回復師を捕らえたら、アッサリとゲロしおったわい。

 全くワシの可愛いミルちゃんに・・・あー、コホン。

 とにかくじゃ、この度のご恩は、如何様に返せば良いかと、考えておるんじゃが、何か希望があれば、国を挙げてやらせて貰うがの?

 但し、ミルちゃん・・・ミルフィーは渡さんからのぉ~!それ以外じゃ!!」

と娘Love全開のドレン王。


「感謝の言葉、素直に受け取ります。うーん、そうですね・・・4つ程あるんですが、良いでしょうかね? まあ出来る事だけでも良いですが。」

と海渡が言うと、


「ほほぅ、4つとな。国の滅亡の危機から救って頂いたのじゃ、出来る限り、やらせて貰うぞ!

 ささ、ドンと言うてみてくれ!」

とドレン王。


「では、お言葉に甘えて・・・。

 まず1つ目、ここドレン王国の王都の商業地区に広い敷地が余っていれば、譲って頂きたいと。まあ商業地区の隣でも良いですし。

 当方、商会をやってまして、その店舗群やこの国でも拠点を置かせて貰えればと思っております。

 2つ目は、飛行場をここ王都の城壁の外に作らせて頂きたい。これは飛行機と言う、空を飛ぶ魔道具による移動の発着場となります。

 3つ目は、この国の街道を整備して欲しい。まあ私には直接関係無いですが、ここの街道は酷すぎる。

 敢えて、敵の侵攻を遅くさせる意図であるのなら、それは無意味ですよ。私の様に空を使えば良いだけです。

 逆に今回の様なケースだと、援軍の到着は遅れ、一般の王都民の避難は遅れ、デメリットだらけです。

 更に、街道の整備の遅れが、この国の発展の足枷になってますよ?

 なので、国民の為にも、街道の整備をお願いしたい。

 4つ目は、孤児に対する救済や、孤児院への援助を検討して頂きたい。

 まあこれは、財政状態にもよるので、一朝一夕では難しいかも知れませんが、街道を整備すれば、確実に税収が上がりますので、少しずつでも考えて頂ければと。」

と海渡が願い事を並べると、


「うーーん・・・。1つ目以外は、ほぼ我が国に有益な事ではないか!!

 合い判った、至急その願い事まあ3つ目、4つ目はかなり時間を要する事となるが、約束しよう。

 敷地と飛行場は、直ぐに手配させるので、大丈夫じゃ。

 しかし、不満じゃのぉ・・・何故その願いの中にミルちゃんの事が含まれん・・・」

と最後の方に残念な言葉が混じるドレン王。


 おいおい、一体どっちだよ、ミルとくっつけたいのか、それとも遠ざけたいのか、ハッキリしろよ! まあ要らんけどなw と心の中で突っ込む海渡。



 謁見の間の行事が終わり、機能し始めた該当部署の責任者と共に、王都の敷地巡りをする海渡達。

 この責任者のおじさんも、海渡達によって、復活した一人らしく、何度もお礼を言われながら、頻りと張り切ってらっしゃる。

「カイト様、こちらの敷地は、上物がありますが、これぐらいの広さがあります。近所の店も~~・・・」

とやたら、色々と近辺のグルメスポットとか、特徴とか、色々情報がww


 結局、4個程廻った時点では、広さ的にあまり良い物件が無く、海渡が苦い顔をしていると、

「カイト様、商業地区の一等地となると、今ので最後になってしまいます。

 後は、まあ広い事は広いのですが、直ぐ近くに貧困層の住む地区とかになってしまいまして・・・。」

と言い淀む案内人のおじさん。


「ほう!それは面白いですね。そこ行ってみましょうか!!」

と海渡が言うと、


「いや、しかし、本当にかなりヤバい所ですし、不法占拠した住民が住み着いていたりしますよ?」と。


「ああ、もしかしてスラム地区?」

と海渡が言うと、苦い顔で頷く案内人。


 なるほど・・・。

「この地図で言うと、どこら辺ですかね?」

と海渡は端末に王都の地図を広げて、見せると、

「うわっ!これは、当方の管理している地図よりも鮮明な! と言うか、これ我が国の国家機密よりも凄いんですが?」

と驚く案内人のおじさん。


 おじさんが指さす地域を拡大し、敷地のエリアを教えて貰うと、ほぼスラム地区全体であった。

「ああ、なるほどね。スラム地区全体っすか。これは広いね。しかも、意外にもスラム地区ってメインストリートの真裏?」

と海渡が指摘すると、メインストリートに面した店舗は全て空きと言うか、廃墟になっているとの事だった。


「マジすかw じゃあ、このメインストリートの店舗ごと、スラム全部買うよ!!」

と海渡が言うと、滅茶滅茶驚いていた。


「カイト様、正気ですか? メインストリートの店舗はまだ理解出来ますが、スラムですよ?スラム!

 こっちのスラムはまだマシな方とは言え、ゴミだらけのとてつもない異臭が立ちこめる場所なんですよ?」

と必死で止めに入るおじさん。


「ええ、構いません。これも何かの縁ですよ。」

と海渡が言うと、驚くと言うより、呆れていた。


 斯くして、メインストリートに面する廃墟店舗数軒と、その真裏の広大なスラム地区を買い取った海渡。

 代金は格安?の黒金貨1枚。

 海渡はホクホク顔で、喜んでいるが、売買手続きを行ったおじさんは、何か悲しい者を見る目で、海渡を眺めている。


 最後におじさんは、

「お強いのは存じておりますが、本当にお気を付け下さいね!」

と念を押して、帰って行ったのだった。



 メインストリートに面した店舗の前に到着し、書類と付け合わせ、内部に人が居ない事を確認しつつ、買い取った廃墟を次々に更地に戻す海渡。

 海渡が更地に戻す度に、周りのギャラリーから、

「「「「「「「「「「おぉーーー」」」」」」」」」

と驚愕の声が上がる。


 そして、そのギャラリーのボルテージは、海渡が店舗やカフェやラピスの湯を生やす度に、上がって行く。

 海渡は、裏に回り、スラムと統合する形で、塀を作成し統合型の5階建て宿舎を生やすと、店舗を隔てた向こう側で、

「「「「「「「「「「おぉーーー」」」」」」」」

と最高の歓声が響いていたのだった。


 さて、スラムの住民であるが、今朝の王宮での騒ぎや、貴族街で起こった、爆音と青い火柱の件があり、住民全員が、ビクビクピリピリしていた。

 更に先程から沸き起こる、通りから歓声とに、「何事か?」と動ける者は、建物・・・と言っても廃墟であったり、小屋と呼ぶにもおこがましい寝座から這い出したり、顔出したりしていた。


 すると、突然、目の前のスラムの空き地が無くなり、立派な塀が生え、驚きの声を上げる。

 そして、更に追い打ちを掛ける様に、5階建ての巨大な建物が聳え立って、パニック状態になっていた。


「おい、あ、あれは?」

「おいら達、どうなるんだろうか?」

「ヤバいぞ! どうするよ?」

と誰が言うでも無く、ちょっとした空き地に集まって、ガヤガヤと嘆いていると、


「あー、スラムの諸君。俺の名は、カイト・サエジマ。このスラム地区は本日先程、全て俺が買い取った。

 既に目の前に建っている5階建ての建物は、当方のさえじま商会の従業員宿舎となっている。

 で、さえじま商会では、現在従業員を募集している。

 真面目に働く意思のある者は、病気があろうと、怪我で体が不自由であろうと、構わない。

 あと、ここのスラムだが、とても不衛生で、悪臭が酷いので、綺麗な宿舎を提供しようと思う。

 今から、食事と治療を提供するので、動けない者が居たら、全員で協力して、連れて来て欲しい。」

と風魔法の拡声を使ったアナウンスが流れた後、空から降り立った海渡ら11名。


「「「「「うぁーーー(キャーー)」」」」」

と軽く悲鳴があがるが、海渡は、ちょっと高い台を出して、よいしょっと登り、


「皆さん、初めまして。先程のアナウンスを聞いたと思うけど、今日からこの地区全域を買い取った、カイト・サエジマです。

 先程言った様に、まずは、治療から始めます。近所や知り合いや、とにかく、病気や怪我や部位欠損、片目や耳何でも良いから、体に不調がある人を全員集めて下さい。

 全て治療します。その後は、まずは食事しましょう! さあ、急いで!!」

と海渡が演説をしている横では、大きなテーブルにドンドンと食事を並べる弟子ズ達。


 辺りに漂う美味しい匂いに、スラムの住人達は、目がギンギンに輝く。

「食事は、体にクリーンを掛けた人から行います。まずは治療を優先して下さい。さあ、早くしないと、食事が冷めてしまいますよ?」

と発破を掛ける海渡に従い、スラムの住人が、病人や怪我人、動けない者等を手分けして、連れて来る。


 治療に関しては半信半疑だったスラムの住人だが、目の前で次々に運ばれた、重病人や、足を無くした人、目が見えない人、声を失った人が全快して行く奇跡を垣間見て、大興奮。

 見窄らしく、悪臭が漂っていた人達がクリーンを掛けて清潔?になり、食べ物を頬張って、笑顔になっていく。

 スラムと言っても、奥行き300mぐらいで、横幅が150mぐらいの少し歪な長方形のエリアに247人からの人が住んでいた。

 その内、病人や怪我人等が約半数、住民の年齢的な割合は、大人40%、子供50%、老人10%。

 中でも10%の老人の殆どが、身動き出来なかったのだが、その老人達が、自分で立って、食事を笑顔で取っている。


 治療が終わって、全員が食事を取っている最中に、海渡が台に立って、

「食べながらで結構ですので、聞いて下さい。

 これからの話ですが、まず最初に、ここら辺一帯を綺麗に整地して、皆さんが安心して生活出来る宿舎を建てます。安心して下さい。

 目の前の建物同様に、一瞬で宿舎が生えますから。今晩から新しい安全で清潔な寝床で寝る事が出来ます。

 但し!受け入れるのは、真面目に働き、真面目に一生懸命生きる人のみです。

 さえじま商会は、真面目に一緒に頑張ってくれる人を募集しています。」

と言うと、


「「「「「「「「「「うぉーーー!!」」」」」」」」

「「「「「「「「「「やるぞ!!!」」」」」」」」

と言う歓声が沸き上がる。


「まず、職種ですが、店舗の店員や、カフェの店員、レンストランの店員、宿舎の方で子供らの面倒を見る託児スタッフや、洗濯やシーツ交換等を行うスタッフ、運送業に就くスタッフ、航空部門に就くスタッフ等、多種多様にあります。

 また、全員に、今後の仕事に役立つ様に、文字の読み書きや、計算を覚えて頂きますが、これはちょっとした事を行うので、短時間で習得出来ます。ご安心下さい。

 他にも、定期的に、スキル講習会を行って、新たなスキルを生やしたりもしています。

 毎週火曜は定休日となってまして、年に2回連休も別途あります。夏と冬にはボーナス・・・特別賞与を毎月の給料とは別に出しております。

 宿舎には、朝、昼、晩の食事と、ベッド、それにお風呂が付いてます。」

と海渡が説明すると、歓喜の声を上げ、大喜びする住民達。


 あとは、ダスティンさんに言って派遣して貰ったさえじま商会のスタッフ30名に任せ、海渡はラピスの湯の仕上げの後、一休みした。


 午後からは、スラムの住民と協力し、商会で働く者は商会の宿舎へ移動し、独自に働く者の為にスラム街を綺麗に整地しながら、宿舎を建てていく。

 一応、5棟の宿舎と大きめの孤児院を建てて、残りのスラム地区を綺麗に整地しなおし、地面を芝生にした木に囲まれた公園とした。

 勿論日本でお馴染みの遊具を幾つか作り、木を利用したフィールドアスレチックも作った。


 ここまでを午後からの1時間で完成させ、海渡達11名は、再び王都探索へと繰り出したのであった。


 この日、ドレン王国の王都から、ゲルハッセン元将軍の屋敷と、スラムが1つ消滅したのだった。

 かつてスラム街と言われ、治安の悪かった周辺がいきなり再開発ブームになり、超人気スポットとして生まれ変わった。

 後にこの国で伝説となった『サエジマタウン』の始まりの日であった。

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