第459話

 拠点に戻り、夕食の時に、市場で屋台を出した話を全員に話すと、昨日から加わった新しいメンバー達も大爆笑。

 そして、1日の売り上げ高を聞いて、ドン引きしていた。


「えー? お金ってそんなに簡単に稼げる物なの?」

と少女が呟いていた。


「まあ、簡単と言うか、大変ではあったぞ? なんせ、昼飯食う暇もなく、客が途切れないんだからな。

 最後に店を閉めようとすると、周りの店主から大ブーイングまで来たし。

 それに、普通に屋台を出そうとすると、それは結構大変な事だぞ? まず屋台を用意する必要があるし、売れる様な食べ物を用意する必要もある。

 適当に作っただけじゃ、売れないし、赤字になるだけだからな。

 そうならないように、下地として、自分の実力を高めておかないと、人様からお金を頂く事は出来ないからね。」

と海渡が言うと、


「そうですよ。ボスは何気なくやっておられる事も、実はその前に色々なご苦労を経て、経験を積まれ、更にスキルを獲得し、人様からお金を頂けるだけの技術を身につけたからこそなのです。

 冒険者だって、日々鍛錬して、実力を付けてからでないと、もっとシビアな事になるでしょ?

 形は違うけど、それと同じです。ちゃんと時間や苦労や血と汗と言う授業料を払われているのです。」

とミケ先生が、凄く丁寧に分かり易く説明していた。


「ボス、安直な事を言って申し訳ありませんでした。」

とその女の子が頭を下げた。


「うん、了解。まあ何事も最初から達人と同じに出来る訳が無いのだから、日々努力を惜しまない事が、成功の秘訣でもある。

 それが判ったなら、強ち、さっきの発言は無駄じゃないよな?」

と海渡がフォローすると、恥ずかしそうに頷いていた。


「で、話は屋台の話に戻るのだが、運営側が結構泣きを入れてきてね・・・~~」

と本日事務所でのやり取りを説明した。


「と言う訳で、もしその気があれば、この中で屋台を当分やっても良いって人が居れば、そちらに任せても良いかな?とね。

 誰か希望者居る? 別に無理にする必要はないけどね。 売れすぎてもの凄く大変だったしw」

と海渡が言うと、大人の男性が質問して来た。


「ボス、その屋台をやるとして、その場合、やっぱり調理スキル持ってないとダメですよね?」と。


「ああ、そうだね。調理スキル無いと同じ味で作るのは難しいかもね。

 でもね、まだ言ってなかったけど、調理スキルなくても、大丈夫。

 ちゃんとその前に調理スキル講習会開いて、調理スキルを生やすから。

 そうだ、良い機会だから今から、久々に調理スキル講習会やろうか。」

と海渡が言うと、


 希望者は全員となった。

 そこで、海渡は久々に骨粉入りのハチミツ水を全員に飲ませ、ドーピング。

 30分もしないうちに、ズブの素人のおっちゃん(30代前半))にまで調理スキルが生えたのだった。


「うぉーー! こんな、おっちゃんの俺にも調理スキルが生えた!!!」

と絶叫して喜ぶおっちゃん。

 30代前半をおっちゃんと呼ぶのには、自分の実年齢を考えると、若干の抵抗がある海渡だったが、実際にその男性は長年スラムで部位欠損の為に苦労をしたらしく、顔に苦労がにじみ出ていて、老けていた。


 そして、1時間程全員を特訓した頃には、全員が調理Lv3を獲得していた。


「まあ、Lv3ぐらいあれば、均一な美味しい物を作れるだろう。」

と海渡が言うと、


「ボス!俺、その屋台やっても良いかな?」

とおっちゃんが言って来た。


「勿論!」

と答えると、良い笑顔をしていた。


「但し、今日の感じだと、まず一人では無理だから、最低6人は欲しいな。欲を言えば8名か。」

と海渡が言うと、女性2人と少年少女4名が名乗り出た。


「まあ、どんな食べ物なのか、実際に食べてみないと実感判らないよな?

 今から焼くから、みんなで味見してみて。」

とストック分が0個になっていたので、実演も兼ねて焼く事にした。


 まずは、たこ焼きから焼き始める。

 千枚通しで、クルクルとひっくり返して綺麗な球状のたこ焼きが出来た時には、

「「「「「おーー!」」」」」」

と歓声が上がった。


「あの鉄板で、まさか、あんな感じで綺麗な玉になるとは・・・」

とおっちゃんが絶句していた。


「うーん、最初は失敗もするけど、慣れですよ。慣れ。」

と海渡が言いながら、仕上げのタレと青のりや魚粉を掛けて行く。


「さあ、完成です。全員取りあえず、1個ずつ食べて見て下さい。」

と並べると、みんなが、楊枝に突き刺し、パクリと一口。


「ブホッ! あっつぅーーーーー!!」

と叫ぶおっちゃんw


「あ、先に言っときますが、熱いですよ? 気を付けてね!」

と海渡が言うと、


「ボス!!! おせぇーよ!!!」

とおっちゃんが突っ込んで来たw


 結果だが、たこ焼きも鯛焼きも、大好評。

 新たに5名が名乗り出て、合計12名になった。


「あのぉ・・・我々人数オーバーじゃないですかね?」

と最後の5名が遠慮がちに聞いて来たので、


「いや、問題ないと思うよ。別に多ければ多いで休みをローテーションで取れるし、更に多ければ、別の場所で屋台をやれば良いだけだし。10名でも20名でも問題は無い。」

と海渡が言うと、


「ああ、なるほど!」

と納得して、安堵していた。


「それにさ、やろうと思えば、他に沢山屋台のネタはあるしw」

と悪い笑みを浮かべる海渡だった。


 頭の中には、ラーメンの屋台や、カツ丼や串カツ等のメニューが頭に浮んでいる。

 これをこの大陸でやれば、確実に食のハザードが起きるなww と。


 そして、12名の志願者達にたこ焼き&鯛焼き特訓を行う海渡。

 ミケや他の弟子達も手伝ってくれて、3時間程の濃い特訓のお陰で、十分以上の出来映えが作れる様になった。

 ちなみに、12名全員の調理スキルが一気にLv5まで上がったのには驚いた。



 遅くなったが、風呂に入り、部屋に戻って寝ようとした所で、海渡は重大な事に気付いてしまった。


「わぁ・・・しまった!! そうか、屋台の持ち運びを計算に入れてなかったな・・・。」と。


 そう、海渡自身はアイテムボックスのスキルがあるので、特に問題は無いのだが、ここから、あの東門の近所の市場会場までは、13~15kmは優にある。

 それを毎日、屋台を運んで行くのか?と言う事である。

 うむー・・・どうするか。


 そこで、2つ方法が思い付いた。

 まず1つは、屋台が収納出来る大型のマジックバッグを作る方法。

 まあ、これは出来る事は出来るのだが、12名が毎日あそこまで歩いて行くのは、かなり厳しい。

 となると、選択肢は1つだな。


 一旦は部屋に戻ったものの、海渡は再度王宮の地下工房にやって来て、過去に作った、移動販売車両を目の前にし、腕組みをして考えていた。

 この移動販売はベースがキャンピングカーの為、バスと同サイズである。

 その為、車体のサイズが全長8mを超え9mを切る程度。横幅は3mぐらい。


「デカいな。だが、これを使えば、移動と販売は1つで済む訳か。」


 海渡は同じ移動販売車両のベースカーを作成し、ベースカラーを渋めのワインレッドにして、サイドには大きくカイト印、たこ焼きのマーク、鯛焼きのマークをペイントした。

 ふむ・・・見た目は悪くない。逆にスイーツを売っても良い感じではあるな。


 内装は、座席、トイレ、キッチンと、たこ焼き器3セット、鯛焼き器を3セットそれに時空間共有倉庫、冷蔵庫、それとレジは・・・コインカウンター作って置くか?と考えて、結局簡易レジを作った。


 簡単にたこ焼きか、鯛焼きかを選択し、個数を打つと、値段が出て、投入口に代金を入れると、お釣りが出る物簡略化した物を作成した。

 全てを車内に設置し終わった時は、午前2時近くになっていた。

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