第451話

 異世界7ヵ月と24日目。


 昨日は、ランバルディアから、一度アーサーさんの所へ寄って、問題無い事を確認してから王宮へと戻って来た。


 と言う訳で、久々に自分の部屋でノンビリ目覚めた訳だが、あれ以来、どうもノンビリと寝る事が出来なくなってしまった自分のベッドの惨状を振り返る海渡。

 美少女美女美人エルフが、三つ巴で組んず解れずの状態で、悩ましい光景となっている。



 本日の予定だが、前々から王宮のスタッフ達(主に女性陣)と約束をしていた、お見合いパーティーの当日である。

 と言っても、海渡は企画を立ち上げ、参加者を募った所まで。

 以降は、以前海渡の仲介で、公認カップルとなった副大臣のロジャーさんとマチルダさんの熱々バカップルが、主催者となっている。


 ちなみに、ロジャーさんとマチルダさんがくっついた後、暫くの間、もう一人の海渡専属メイドのジュリアがやさぐれていたのは、王宮では有名な話であるw


 ジュリア曰く、

「何で私には白馬の王子様がやってこないの?」

とほざいていたが、他のメイド仲間は、


「いや、あんた、今時白馬に乗ってる王子様とか居ないからw ナウなイケてる男子は、自動車よ!自動車!!」

と日本では死語となっている単語を使って、冷めたアドバイスをしていたのだった。



 まあ、そんな訳で海渡は、バカップルにお見合いパーティーの流れや催し物を伝授後は、相談う受けた時にアドバイスする程度となっていた。

 で、気付いたら、丁度本来であれば、B大陸の決戦の当日となっていたのだが、幸いな事に1日早まり、本日フリーな海渡達は、こっそり様子を観察・・・いや、見守ろうかと思っている訳である。



 朝練と、朝食を終えた海渡は、パーティーに出す一品を増やす為、特別に作成した半球状の凹みのある鉄板の調理機と共に、厨房へとやって来た。

 そう、たこ焼きを作る予定である。


 こちらの世界に来た当初、女神様から支給された非常食の中に『女神の好物たこ焼き』が入っていたのだが、それ以降はコーデリアでもお目に掛かる事なく、そのまま完全に忘れていた。

 先日お好み焼きを大量に作った際に、ふと思い出し、愕然としてしまったのであった。


「俺とした事が、たこ焼きの存在を忘れてしまうとは・・・」と。


 そして、たこ焼き用の鉄板調理機を作っている最中に思い出したのが、鯛焼き。


「どうせ、作るなら、一緒に鯛焼き用の鉄板も作ろう!」

とノリノリになって、某、鯛焼き専用の歌(歌詞はうろ覚え)を適当に歌いながら作っていたのだが、大変だったのは、あの鯛焼きの形。


「そう言えば、鯛焼きって、日本全国、何処で買っても同じ形だったよなぁ・・・。」

と妙な事に感心しながら、苦心して思い出しながら、鯛の形の凹みのある鉄板を作ったのだった。


 更に海渡の思いつきによる、制作暴走は止まる事無く、たこ焼きを載せる為の器にまで及ぶ。

 正統派たこ焼きの器と言えば、やはり木の薄板?で作った『あの器』だよね。

 と木を薄く削り、それを船形状の器にする生産ラインを作成し、更に鯛焼き調理機とたこ焼き調理機(焼く工程は人力)の生産ラインまで作り出したのだった。



 試作で、この世界初の『たこ焼き』と『鯛焼き』を厨房で作成し、アニータさん達厨房スタッフに試食して貰ったら、


「「「「何これーー! 魚の形ww」」」」

「「「可愛いw」」」

「「「「美味しいーー!」」」」

と思った通りの高評価を頂きましたw


 その高評価に調子に乗った海渡は、たこ焼きと鯛焼きを大量に作成して行き、パーティーの一品として差し入れしたのであった。


 だが、待て。そもそもだが、青のりを大量に使う、お好み焼きや、たこ焼きはパーティーメニューに入れて良いのだろうか?

 まさか、青のりが悲劇や喜劇を産むとは、この時点で思いも及ばない海渡であった。



 さて、お見合いパーティーだが、午前11時スタートとなっている。

 参加人数は、男女各100名の合計200名。


 王宮別館の大ホールにビュッフェ形式で料理が並べられ、基本立席パーティーなのだが、ツーショット用テーブル席も多数用意されている。

 グループで座れるソファー席や、バーカウンターなんかも用意している。



 たこ焼きを大量に焼いている内に、海渡はふと思い付く。


「たこ焼きとかって、その場で焼いてる方が、ビジュアル的にも匂い的にも、暴力的なんじゃね?」と。


 その結果、海渡は無理矢理ロジャーさんにねじ込み、許可を取り付けた。

 その一郭で、海渡とステファニーさんがたこ焼き、フェリンシアとジャクリーンさんが鯛焼きの屋台を出した。

 気分は学園祭のノリである。


 屋台は、許可を取り付けてから、急遽1時間の突貫工事で棟梁に作って貰ったww

「坊主、相変わらずおもしれーなw」

と棟梁もノリノリで、2つの屋台を作成し、その間に海渡は、タコのマークの入ったたこ焼きの暖簾と、鯛焼きの暖簾を作成した。

 これが切っ掛けで、この世界のたこ焼きと、鯛焼きの屋台のスタンダードとなるのは、まだ先の話である。




 午前11時になって、いよいよお見合いパーティーがスタートした。

 最初にロジャーさんが挨拶と開始の宣言を行い、全員で乾杯。

 その後、マチルダさんの司会で、催し物や、全員が1対1で1分づつ話すトーク時間を設けたりと、進行して行く。


 フリータイムに入り、海渡達にもGoが掛かり、バンバンと焼き始める。

 雑談とかでガヤガヤとしている会場に、ジューと言う音と、ソースの良い香り、鯛焼きの甘い香りが立ちこめ、トークそっちのけで、徐々に視線が集まる。

 そして、1人、2人と屋台に並び出して、いつの間にか行列が出来て来た。

 海渡達は、厨房で焼き溜めしていた分をドンドン配布しつつ、新しい物を焼いて行く。

 開始から1時間もせずに、焼き溜め分を含み、各500皿(個)が完売したのだった。


 最初、トークそっちのけで屋台に並ぶ群衆に、運営のロジャーさんは青い顔をしていたのだが、男女共に並んでいる前後で話をしたりして仲良くなり、そのままツーショットになったりする者もいて、ホッと胸を撫で下ろしていた。



 最後のカップリングの告白タイムで、悲劇?いや、喜劇が起こった。

 この日を境に教訓として巷へ広がる『青のり事件』。


 イケメンが「宜しくお願いします!」とキメ顔で手を差し出して、ニッコリ笑ったら、歯に青のりがキラリと光り、振られる事件や、

「こちらこそ宜しくお願いしますね!」と美人さんが、手を握り返した時に、歯に青のりが付いていて、大爆笑となったり。(これは振られなかった)



 そして、第二回目のお見合いパーティーからは、たこ焼きも鯛焼きも閉め出される事となったのだった。



 パーティーが終わって、海渡はせっかく作った屋台を何とか活用したいと思い、ふと閃く。

「これ、孤児院で運営すれば良いじゃない?」と。


 海渡は、すぐに地下工房の棟梁の所に行き、

「棟梁!お陰様で、屋台大好評でした!! で、物は相談なんですが・・・」

と、同じ屋台を大量に作って欲しい事と理由を伝えると、


「ほう!それは面白いな。良いんじゃないか? 取りあえず500台ぐらい作れば良いか?」

と即決で引き受けてくれた。


 その後、ダスティンさんと話し合って、孤児院救済事業の一環として、販売価格の1割を屋台レンタル料金とし、材料費はそのレンタル料に含む物として、各孤児院へ、たこ焼き1台、鯛焼き1台の計2台を貸し出す事にした。

 原材料となる生地やタコ、餡子、青のり、魚粉、木の薄皮の器などは、屋台に備え付けてある時空間共有倉庫から、供給される事にしたのだった。


 結果、孤児院のある都市や集落で、爆発的にたこ焼き&鯛焼きブームが訪れたのだった。

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