第418話


「始め!!」

の号令と同時に、海渡は『身体強化』、『身体加速』、『クロックアップ』を全開にし、一瞬で模擬剣を構えるジャクリーンさんの懐へ入り、その白く細い項に、木刀を止めた。


ポカンとして、硬直する一同。


「え?」

と言ったまま、固まっているジャクリーンさん。


「審判!!」

と海渡が言うと、再起動した審判役が、


「あ、そこまで。少年の勝ち・・・・」

と宣言した。


「「「「「「「「「うぉーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」

と一瞬間を置いて、歓声が上がる。

うん、ここは王城の玄関口・・・ロータリー前だね。


「え?? えーーーーーーーーー!!! 負けたのか!?」

と項垂れるジャクリーンさん。


「あの戦闘バカの団長に勝ったーーーー!!!!」

とか、

「どう言う事だ!? 『団長』と書いて、『戦闘狂』と読むと言われたあの団長が負けた!? しかも瞬殺!!!!!」

とか、

「なんと、あの『美しき狂剣』が敗れただと!?」

とか、

「嘘だろ? 敵味方関係無く恐れられている、あの『殲滅の剣鬼』が?」

とか、

「結婚するなら、私を打ち負かした男じゃなきゃ嫌だと言って居たあの『残念団長』が!!!」

とか大騒ぎしていた。


うーーん・・・物騒な二つ名に、何か面倒な説明も最後に混じっていたね・・・。



そこへ、

「団長、こんな所で何しているんですか! 応接室へってお願いしたの・・・・に・・・ え?? マジか!」

と木刀を首に当てられてガーーンとして固まっている団長を見て、状況を察したラリーさんが固まった。




そして、再起動したラリーさんに、急き立てられる様に、王様や大臣の待つ会議室?へと連れ去られたのだった。


「どうも、突然お邪魔してしまい、申し訳ありません。 他の大陸からやって来ました、神王国日本の王をやっております、カイト・サエジマと申します。

こちらはパートナーのフェリンシアと、そしてこちらは、ステファニー・ヨハンソンです。これは、従魔のレイアです。」

と頭を下げる海渡。


「いやぁ~、お互い王と言う事で、堅苦しいのは抜きで行きましょうか。初めまして、エリーゼン王国の国王やってます、アーサー・デン・エリーゼンです。

先ほど、ラリーから聞いたんですが、凄い魔道具をお作りになっているとか。 いやぁ~、良いっすねぇw 魔道具ww 僕も魔道具好きでしてね。」

とアーサー王・・・あれかな? 岩から剣を抜いた感じの王か?

ん? ちょい待て? エリーゼン王国??? あれれ? と首を捻りつつ・・・


「あれれ? ちょっと待って下さい。エリーゼン王国と言う事は、先ほどの団長は確か、ジャクリーン・フォン・エリーゼンさん?」

と言うと、


「ああ、あれ、僕の妹なんですよww ちょっとアレなんですが、根は良い子なんですよ? アレですけどね。」

と散々な評価w フォローする気ないですよね?


「いやぁ、でも凄いなぁ! あれでもジャクリーンは、この国一番の剣士なんですよ。 それを瞬殺とは、本当に驚きました。」

と驚きの真実が!!!!


「えー!?妹さん!? え?? 失礼ですが、アーサー王はお若く見えますが、お幾つなんですか? あ、私は6歳なんですがね。」

と言うと、


「ほう! 6歳で一国を築き上げ、その強さですか! 凄いなぁ! 憧れるなぁ!! あ、僕は17歳なんですよね。妹は13歳。」

とアーサー王。


「えーーー!? ジャクリーンさんって13歳!? 見えねぇーーー!!!」

と思わず絶叫する海渡。


いや、だってさ、身長が170cm近いんだよ? しかもシッカリとした美形で、スラッとしてるけど、それでいて出る所は程よくね・・・。

逆に、アーサー王は歳相応。身長もおそらく164cmぐらいで、成長期途中って感じだもん。

ジャクリーンさんがお姉さんってと言われれば、納得する感じ。 ああ、別に老け顔って訳ではないんだよ? 美形で美人さん。


「ははは、よく知らない人には、弟さんですか?とか言われますからww」

と苦笑いするアーサー王。


「うちの家系の女性って、割と早熟でしてね、男は逆に成長が遅いみたいなんですよ。20歳ぐらいになると、両方とも歳相応に見えるんですがねぇ。」

と補足していた。


「わぁ・・・ここ数ヶ月の間で、一番今のがビックリしましたよ・・・。」

と海渡も苦笑い。


そこへ、ノックの音がして、扉が開き、ジャクリーンさん?? が部屋に入って来た。

ドレス姿で。


見てビックリ。確かにジャクリーンさんなんだけど、もう画に描いた様な、超美形でドレスと相まって、シンデレラも裸足で逃げ出す感じ。

「わぁ~、ビックリする程綺麗ですね。」

と不覚にも・・・後で考えると、本当に不覚にも・・・呟いてしまったのだった。


「まぁw お上手です事♪」

とさっきとは別人のジャクリーンさん。


「あれれ? もしかして、ジャクリーンさんではなく、別の妹さんですか?」

と海渡が、このジャクリーン擬きの着ぐるみを着た人物に不信感を持っていると、


「プププッ・・・、あ、失礼しました。これ、ジャクリーンで間違いないですよwwww」

と腹を抱えて笑うアーサー王。


「もう、兄様も、カイト様も酷いですわ! まるで人をジャクリーンの皮を被った何かの様に仰るなんて・・・」

と片手で、目を覆い、ヨヨヨと泣く様な素振りを見せる、芸達者振り。


暫し腹を抱えて笑うアーサー王が復帰して、語り出す。


「いえ、ジャクリーンはね、普段は今の状態なんですが、その反動か、騎士の格好をしていると、アレになっちゃうんですよ。1粒で2度美味しい的な感じですかねwww」

とフォローなのか? それ? と突っ込みたくなる様な説明をくれた。


「しかし、良いですね。カイト殿は! 王の身でもこうして旅が出来るとは・・・羨ましいです。 僕も行きたいんですがねぇ・・・周りが許してくれないんですよね・・・」

と言いながら、大臣や周りの重鎮をチラッチラッと見ているwwww 面白いな、この王様www


「お聞きになったかも知れませんが、元々数家族しか住んでいない森の集落で生まれて、魔物の襲撃で私とフェリンシアだけが生き残ってしまいまして。

それから、人の居る近くの都市まで森を抜けて、そこの領主さんが、とても良い方で、冒険者やっていたんですが、縁があって商会を立ち上げて、いつの間にか現状に至ったんですよ。

だから、あまり細かい行政とか政務とかって、割と周りのスタッフに任せちゃってる感じです。周りの人に恵まれただけでして。

周囲のスタッフは振り回されて大変だと思うんですが、適材適所って事でwww まあ好きにやらせて貰っています。」

と言うと、


「なるほど!!! スタッフに恵まれてるんですね!!!!」

とヤケにソコを強調しながら、頷いていた。

勿論、チラッと家臣達を見ながらだけどねww


「で、観光でこちらに来られたとの事ですが、もし良かったら、何か魔道具・・・売って頂けませんかね? 面白そうな物を!」

とアーサー王が前のめりに。


「魔道具、色々と持って来ていますよ。」

と1つ1つ出して説明しながら、テーブルの上に置いて行く。

もうね、アーサー王の目の色が変わる変わるwww


一通り説明が終わったら、どれもこれも、欲しいと言って来た。

その勢いたるや、「ああ、君らやっぱり兄妹だねww」と思わず呟いてしまう程。



そこで、まずは重要な、通貨と物価を聞いてみたら、やはり女神様、最高っす! 面倒な事も無く、ご都合の宜しいように、同一通貨単位の同一物価と判明。


「なるほど、硬貨の種類も切り上げ単位も同じ。パンの値段もほぼ同じですか。流石は女神様ww 計算が楽で良いですねww」

と海渡がほくそ笑む。


通信機は500個、タブレット200個、シャワー付きトイレ便座200個、自動車(3列シート型)10台、トラック50台、バス20台、キャンピングカー2台、デジカメ100個、写真印刷機50個、

テント(結界付き)300セット、マジックポーチ200個、マジックバックパック200個、リバーシ100セット、トランプ100セット、レインポンチョ各サイズ1000着、コーヒー自動ミル500台、

コーヒーメーカー1000台、魔動チェンソー200台、ヘッドセット型インカム500セット、他には、大型の鏡20枚・・・。


「ねえ、アーサーさん(既にさん呼びになったw)、本気でこれだけ一気に買うんですか? 余計なお世話でしょうけど、凄い金額になっちゃいますよ?

まず、総額定価で黒金貨97枚、白金貨46枚、金貨12枚です。大量にご購入と言う事で、3割引としましても黒金貨68枚、白金貨22枚、金貨28枚、銀貨40枚になります。」

と一気に計算して、教えたら、大変皆さんに驚かれた。

金額と言うより、その計算の速さにだけどね。


「なあ、カイト君(既に君呼びになっているw)、まあ金額は全然OKなんだけどさ、その計算の速さ・・・凄いよね? なあ?(と周囲に同意を求める)

どうやったら、そんなに計算早く出来るの?」

と真顔で聞かれた。


「ああ、そう言う方には、こう言うのあります。」

と海渡は算数の教本上下巻をテーブルの上に差し出した。


それをアーサーさんと大臣達が覗き込み、ザッと目を通して、驚愕の声を上げる。

「こ、これは!!! これか!!」

と。


どうやら、この国と言うか大陸にもかけ算の概念はなかった様で、九九表を見て驚いている。

「カイト君!! これは・・・これは凄いよ!!!」

と大絶賛。


「うちの国では、小学校と言うのを作りまして、子供らは無料で読み書きと計算を勉強する事が出来ます。

また、冒険者向けの学校と、魔法学校と言うのも作りまして、将来の人材育成に力を入れてます。

帝国時代には、文盲率95%ぐらいだったんですが、大人にも通信教育を行った結果、7歳以上の国民のほぼ100%が文字の読み書き、計算を行える様になりました。」

と言うと、


「「「「「うぉーーーーーーー!!!!」」」」」

と歓声が上がった。


「凄いよ!!! え?でも、建国3ヶ月とか言ってたよね? 3ヶ月でそこまで行ったのか!!!!」

と目を見開いて驚いている。


「なぁ、大臣・・・僕は今、もの凄く感動している!! 凄い人と知り合えた!」

と声を震わせ、体も感動でワナワナさせているアーサーさん。


「カイト君、僕と友達になってくれ!! 是非頼む!」

と頭を下げるアーサーさん。


「ありがとうございます。こちらこそ、宜しくお願い致しますね。」

と照れながら握手をするのであった。


すると、その感動シーンに水を差すかの様に・・・

「もう、兄様だけズルイですわ! 私の旦那様なのに!!」

と聞き捨てならないお言葉。


「いやいやいや・・・それは無い!断じてないからね?」

と海渡が慌てて拒否するが、


「だって、カイト様は、私に圧勝しましたよね? それも瞬殺で。

私、常々周囲の者にも国民にも、私の夫となる方は、私を剣でねじ伏せる・・・しかも瞬殺で。そう言う方以外とはお断りですって公言してましてよ?

だから今まで幾度となく、来たお話も全てこの日の為に、蹴散らかしてましたの。

既に、もう国民に知れ渡ってしまっておりますので、このまま捨てられてしまいますと、王家の面汚し・・・国家の面汚しとして、自害するしか無いのです。

そんなに、私の事がお嫌いでしょうか? もっと強くなれと仰るなら、幾らでも努力親します。もっと魔法も使え!と仰るなら頑張って剣技以外の攻撃手段も磨きますよ?」

と切実に語っている。

しかし、あれだねw 努力の方向が、全て武力寄りってのが、笑えるなw ブレが無いw



「ははは・・・」

と渇いた笑いがこぼれてしまう海渡。


「まあ、それはどうでも良いとして、先のお支払い金額の件で、ご相談あるのですが・・・~(ry」

と海渡はこの王都に拠点となる屋敷又は敷地が欲しい事を伝え、その代金で、一部を相殺するのはどうか?と持ちかけた。


「ど、どうでも良い!? 酷いです酷すぎます・・・一世一代の女の勝負所を・・・ 華麗にスルーするなんて・・・」

とヨヨヨと泣き真似をするジャクリーンさん。


「なるほど! それはお互いにメリットあるな!」

と大乗り気のアーサー王と大臣達。


「そうしないと、当方だけに、お金が偏って動きが無くなりますからね。お金はちゃんと出来るだけ廻さないと、経済が停滞しますから。

こちらも、何か輸入したい物が見つかると良いんですけどね・・・。まあその為の観光でもある訳ですが。

あ、敷地は出来れば、店舗も置ける商業地区が良いですね。」

と補足した。


「なるほど!! 確かにカイト君の仰る通りだな、大臣!! いやぁ~、カイト君本当に君6歳かい? ちょっとスケール違いすぎなんだけどww

実は童顔ですが、46歳ですと言われても、違和感無いなw」

と笑っていた。

いや、流石に46歳はないでしょ? 実年齢は28歳っすからね! そんな20歳近くも老けてるって言われるとは・・・。



「しかし、あれだなぁ、ここまで色々と驚かされると、是が非でもカイト君の国を一度この目で見て見たくなるなぁ・・・」

とアーサーさんが言う。


「うーーん、どうしようかな・・・。まあ、良いか。そんなに見たいのであれば、チョロッと行ってみますか? まあ友人としてお呼びする感じですから、正式な堅苦しい接待は期待しないで欲しいのですが、それでも良ければ、昼飯でも食べに行きますか?」

と言うと、


「え?昼飯?? 今、11時20分だよね? それは飛行機で明日の昼食を食べに行く的な感じかな?」

と良く判らない風のアーサーさん。


「いえいえ、今日のお昼ご飯を と言う意味です。 初めての場所はその限りではないんですが、私、時空間魔法使えましてね。で、『ゲート』と言う一度行った事のある場所なら、瞬時に空間を移動出来る魔法が使えるんですよ。」

と言って、ゲートを宮殿の屋上へと繋げて見せた。


「「「「「「うぉーーー!!」」」」」」

「まぁ!!!」

とアーサーさんと大臣達、それにジャクリーンさんも驚嘆の声を上げたのだった。

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