第407話


異世界7ヵ月と4日目。


早朝から、昨夜仕込んだネタの熟成具合を見る為に、タブレット部屋のディスプレイに繋ぐ。

10倍速で確認したが、まだ気付いて無いらしいww


で、今の聖騎士団の位置だが、国境の城壁まで55kmと言ったところ。

さて、どうするんだろう? 確認したが、この辺りに民家など無く、最短はやはりザインバッファ王国の国境近くの集落となる。


まあ、水がタルごと消えてる訳だし、驚くよなぁwww

あの辺りって魔物も動物も居なかったから、大変だろうなぁ。



ふと有る事を思い付き、地下工房へと向かった。

キャンピングカーのベース車両を出し、その車両に急遽移動販売車両の外装と内装を作り込んで行く。

色は美味しそうなオレンジと赤でカイト印のワンポイントを入れ、『女神様の愛する異世界食堂』と店名を入れた。

外装には、20mmガトリングガン、強力な光シールドジェネレーター、そして外部スピーカーを装備した。

本格的なキッチンを取り付け、サイドパネルが上下に開くと、立ち食いカウンターと日よけ屋根になる様に加工する。

キッチンの換気はわざと、外部に肉の焼ける匂いが強制的に排出される、極悪仕様にした。

これで、鉄板やBBQコンロで焼いた匂いは強制排気される訳。クックック、笑いが止まらん。

ガラスケースには、出来上がっているハンバーガーや、ホットドックを展示保管出来るショーウィンドを作り付け、飲み物用の魔道具・・・コーヒー、カフェオレ、サイダー、水、ビールが出る蛇口を設置する。

サインボードに特別メニューなんかも、極悪現地価格で書き込んだ。


今度は厨房に行って、メニューの商品を大量に作り始める。

ハンバーガー、チキンフィレバーガー、ホットドッグ、チリドッグ、フライポテト、オーク肉串、焼き鳥(タレ)、カモフラージュ・カウのステーキ、サンド・ワームのステーキ・・・等等。

10師団5000人の7食分を作成した。(途中で、朝練の時間になて、弟子ズにも手伝って貰っちゃった。)



「ところで、ボス、何で朝からこんなに沢山の料理仕込んでるんですか?」

と不思議そうなプリシラに、


「ふっふっふ、後で面白いのを見せてやるからww」

と言うと、ウズウズしていたw




朝食の後、昨夜の襲撃メンバー全員を地下工房に連れて行き、移動販売車両を見せると、


「「「「「「「「「なるほどーー!!」」」」」」」」」

と頷きながら、黒い笑みを浮かべていたwww


「流石兄貴、極悪っすねww」

とラルク少年が、褒めてくれたw


「ふっふっふ、一応、味はやや塩気多めだw」

と海渡が言うと全員大爆笑。


「さて、作戦なのだが・・・」

と全員に近寄って貰って役割を教える。ケモ耳ズ4名には海渡力作の戦闘メイド服を着て貰い、外に出ての先客をお願いする。

海渡とラルク少年は運転手、アン、サニー、フェリンシア、ステファニーさんは店内での接客とした。

そして、もしもの際の手順も教えた。


作戦行動に移る前に気がかりである、グリンドル王国の拠点の子供達の事を、、第2期生にお願いして、引き合わせを行った。


「え-っと、今日から、毎朝、彼らがここで、魔法や、自分や仲間を守る為の戦い方を教えてくれるから。

ドンドン強くなって、何があっても大丈夫な様になりましょう!」

と言うと、昨日だけで今まで知らなかったスキルを習得し、目に見えて効果があった事で、喜ぶ子供達。



そして、国境の塀の外に海渡らはゲートでやってきた。

キャンピングカー改め移動販売車両に乗り込み、外部スピーカーで、BGMと売り込みのアナウンスを流しながら、ラルク少年の運転で聖騎士団を目掛けて走って行く。


海渡は、内部のモニターで早朝から今までの騎士団の映像を10倍速でチェック中。



「あ、朝の6時半に食料その他が一切合切無い事に気付いたなw わぁ♪ 蜂の巣を突いた様な慌てっぷり!!」

と大笑いしながら見てると、自分だけ運転中のラルク少年が、拗ねていた。





そして、現在・・・

結局、奴らは物資が無くなった事で慌てて、周辺で狩りをやったようだが、2時間掛けても全く食料も水も見つからず、10師団の隊長が集まり、指揮官と会議をしていた。


「一番近い集落や川等、大体どれ位の距離なのだ?」

と司令官が怒りながら、聞く。


「ここから一番近い集落となると、ザインバッファ王国の国境付近の集落で、約100km程先となります。現在の速度で進軍すると、約2日間ですが、飲まず食わずだと1日ぐらいで殆どが身動き出来なくなる可能性が高いかと。

逆に、来た道を戻り、後方からとなると、130km後方となるので、かなり厳しいと思います。」


「何と言う事だ・・・。どっちにしても地獄じゃないか。では、本来の目的通りに、前方へと進むしかあるまい? しかしそれでは遅いな。補給部隊の馬車と護衛の騎士を数騎先に送って物資を調達して戻ると言うのが、一番手っ取り早いか・・・」

と言っている最中に、何やら前方の方で騒がしくなっている。変な聞いた事の無い音と声が聞こえる。


「おい、何の騒ぎじゃ?」

と司令官が立ち上がった時!


「失礼致します。前方より奇妙な乗り物にのって、何やら音楽を流しながら、やって来た者がおいまして、どうやら、旅の商団・・・それも食料の移動販売をしている者達の用なのですが。

取りあえず、現在、その場所にて、止まる様に申しつけております!」

と伝令の兵士が報告して来た。


「何と! ふっふっふ・・・これぞ、女神ザイリー様の思し召しw 流石じゃ! よし、その者達の食料を徴収せよ!!」

と司令官が悪い笑みをしている。


「そ、それが・・・」

と言い淀む兵士。


「ん? どうした? 直ぐに食料を徴収せよ!」

と一段声を荒らげる司令官。


「それが、大変申し上げ難いのですが、『お売りする事は可能ですが、タダで差し出す謂われは無い。無理に盗賊の様に強奪するとは、さては、聖騎士団のふりをしている、盗賊に違いない。引き返して別のルートを行くから関係無い。』と申しておりまして・・・。

そ、それに、その移動販売の店の名前がですね・・・その・・・そう言う事をし辛い名前ともうしますか・・・女神様に背く事になると申しますか・・・」

と歯切れの悪い兵士。


「えーーい、間怠っこしい。 もう良い、ワシが自ら赴いて、命令してやるわ! そこどけい!」

と痺れを切らした、司令官に10師団の隊長10名が続き、小走りに先頭へと走って行く。


すると、軽快なメロディと共に、子供の声で、


「えー、ご通行の皆様、旅の途中の皆様、こちらは、暖かく美味しい出来たての絶品料理を販売している、『女神様の愛する異世界食堂』でございます。

焼きたてのパンに挟まった、肉汁たっぷりの柔らかいお肉と野菜、特性ソースをサンドしたミノタウロスバーガー。

焼きたてのパンに挟まったブラック・バードの肉に衣を付けて旨味を閉じ込めた特性ソースを掛けて挟んだ、チキンフィレバーガー。

揚げたてで、湯気のでる塩気の効いたフライドポテト、オークやワイルドボアのミンチ肉を練り上げて作った美味しいウィンナーを挟んで特性ソースと野菜を挟んだホットドッグ。

またスペシャルメニューとしては、当店一推し、幻の魔物と言われるカモフラージュ・カウのジューシーな分厚いステーキ。

更に選ばれた一握りの方だけが、一生に一度食べられるか?と言われる、伝説のグルメ魔物・・・そう、サンド・ワームのステーキステーキ。

遙か遠くから運ばれ、吟味に吟味を重ね、スパイスをチョイスした、カレーライス。

ご一緒に、美味しいお飲み物もご用意がございます。冷たく冷やされた美味しいお水、口の中で旨味が弾ける、異国で大流行中のサイダーや、泡が絶品、キレとコクのある冷えたビール、お酒等。

その他にも、ランナー・バードの焼き鳥、オーク串等、食後には、美味しいダンジョン産のピーチ、マンゴー、バナナ、リンゴ、オレンジ、ブドウ等も取り揃えております。

どれを取ってもそうそうお目に掛かれない絶品の料理となっております。

さあ、数には限りがございます。

お時間のある方も、お時間の無い方も、是非お立ち寄り下さいませ!」(~繰り返し再生~)


と言う内容が聞こえて来た・・・。


「な! なんだと!!!! 『女神様の愛する異世界食堂』!!! ううう・・・確かに無理矢理・・・は拙いのう・・・。しかもそのメニューたるや・・・」

と苦虫を噛み潰したような顔の司令官。

後ろに続く10名の隊長も、お互いに顔を見合わせて、苦笑いしている。


すると、これまでの繰り返し流れていた音楽とアナウンスが止み、

「あーー、道を塞いでいる、盗賊共に告げる。こちらは『女神様の愛する異世界食堂』。敬愛する女神様を冒涜し、聖騎士を騙る不敬な奴らよ。本物の誇り高き聖騎士の方々が、女神様の名を騙り、盗賊紛いの行為をする訳が無い。

自主的に武装を解除してお縄に着くか、又は包囲を解除し、速やかに立ち去る様に。我々は、女神様のご加護を頂いている冒険者でもある。これらの食材がどうやって入手出来たか、身をもって感じさせてやろうか?」

と更に物騒な流れになっている。


これは!! 拙い!!拙いぞ!! あれだけの食材の料理・・・実にあり得る話だ。女神様の加護・・・どれも拙いぞ! ヤバい!

と既に司令官は全力疾走に近い状態で前方へと走っている。

嫌な汗を流しているのは、全力疾走のせいだけではない・・・。





その頃、移動販売車両の中の海渡達は、もう、必死に笑いを堪えていた。

一番兵士に近い、運転席のラルク少年なんかは、笑い転げない様にする為に、必死で太ももを抓って、ハンドルに顔を伏せている。

海渡自身も、アナウンスを止めて、啖呵を切る際に、思わず吹き出したり、声が裏返りそうになるのを、必死で堪えていた。


笑っては行けない・・・これのなんと、過酷な事か・・・。


後ろでは、気兼ねなく、女性陣が、声を出さずに、ゼイハー息をしながら、無音で笑い転げてやがるwwww



「ま、待てー! 待たれよ!!!!!」

と司令官の声が聞こえて来た。


おいでなさったなwww 第二幕の始まりだw

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